21話 第二、米国ならびに大西洋紀行の部 第二一、多妻必ずしもモルモンならず
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友人某、車夫に語りて曰く、われ聞く、貴宗は多妻宗なりと。果たしてしからば、わが国にもモルモン宗ありといわざるべからず。なんとなれば、わが人民中、妻妾を蓄うるものあり、その実多妻なり。車夫曰く、モルモン宗は多妻宗なるも、多妻を有するものことごとくモルモンなるにあらずと。政教子曰く、車夫の言、論理に合す。論理学命題の規則中に、主辞、賓辞を転倒するの過失を証明せり。今、モルモン宗は多妻なりの一命題を転倒して、多妻なるものはモルモン宗なりということを得るときは、こうもりは獣類なりの命題を転倒して、獣類はこうもりなりということを得べき理なり。その過失、証明を待たずして明らかなり。しかれども、世にこれと同一の過失をなすものはなはだ多し。「英雄色を好む」の言を口実として色にふけるものあり、「君子は貧を楽しむ」の言を口実として貧に安んずるものあり、これみな大なる過失なり。英雄色を好むも、色を好むもの必ずしも英雄ならず、君子貧を楽しむも、貧に安んずるもの必ずしも君子ならず。