ノベリズ
五月より
208字 約1分 2011年9月14日 公開
宵々(よひ/\)の稻妻(いなづま)は、火(ひ)の雲(くも)の薄(うす)れ行(ゆ)く餘波(なごり)にや、初汐(はつしほ)の渡(わた)るなる、海(うみ)の音(おと)は、夏(なつ)の車(くるま)の歸(かへ)る波(なみ)の、鼓(つゞみ)の冴(さえ)に秋(あき)は來(き)て、松蟲(まつむし)鈴蟲(すゞむし)の容(かたち)も影(かげ)も、刈萱(かるかや)に萩(はぎ)に歌(うた)を描(ゑが)く。野人(やじん)に蟷螂(たうらう)あり、斧(をの)を上(あ)げて茄子(なす)の堅(かた)きを打(う)つ、響(ひゞき)は里(さと)の砧(きぬた)にこそ。朝夕(あさゆふ)の空(そら)澄(す)み、水(みづ)清(きよ)く、霧(きり)は薄(うす)く胡粉(ごふん)を染(そ)め、露(つゆ)は濃(こ)く藍(あゐ)を溶(と)く、白群青(びやくぐんじやう)の絹(きぬ)の花野原(はなのばら)に、小(ちひ)さき天女(てんによ)遊(あそ)べり。纖(ほそ)きこと縷(る)の如(ごと)し玉蜻(かげろふ)と言(い)ふ。彼(か)の女(をんな)、幽(かすか)に青(あを)き瓔珞(やうらく)を輝(かゞや)かして舞(ま)へば、山(やま)の端(は)の薄(すゝき)を差覗(さしのぞ)きつゝ、やがて月(つき)明(あきら)かに出(い)づ。
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