高野聖

12話 第十二

1,172字 約2分 2007年3月18日 公開

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「(さあ、(わたし)()いて此方(こちら)へ、)と(くだん)米磨桶(こめとぎをけ)引抱(ひツかゝ)へて手拭(てぬぐひ)(ほそ)(おび)(はさ)んで()つた。

 (かみ)(ふツさ)りとするのを(たば)ねてな、(くし)をはさんで(かんざし)()めて()る、()姿(すがた)()さといふてはなかつた。

 (わし)手早(てばや)草鞋(わらじ)()いたから、早速(さツそく)古下駄(ふるげた)頂戴(ちやうだい)して、(えん)から()(とき)一寸(ちよいと)()ると、それ(れい)白痴殿(ばかどの)ぢや。

 (おな)じく(わし)(かた)をぢろりと()たつけよ、舌不足(したたらず)饒舌(しやべ)るやうな、()にもつかぬ(こゑ)()して、

(ねえ)や、こえ、こえ。)といひながら、()だるさうに()持上(もちあ)げて()蓬々(ばう/\)()へた天窓(あたま)()でた。

(ばう)さま、(ばう)さま?)

 すると婦人(をんな)が、(しも)ぶくれな(かほ)にえくぼを(きざ)んで、三ツばかりはき/\と(つゞ)けて(うなづ)いた。

 少年(せうねん)はうむといつたが、ぐたりとして(また)(へそ)をくり/\/\。

 (わし)(あま)()(どく)さに(かほ)()げられないで()つと(ぬす)むやうにして()ると、婦人(をんな)何事(なにごと)(べつ)()()けては()らぬ様子(やうす)(その)まゝ(あと)()いて()やうとする(とき)紫陽花(あぢさい)(はな)(かげ)からぬいと()た一(めい)親仁(おやぢ)がある。

 背戸(せど)から(まは)つて()たらしい、草鞋(わらじ)穿()いたなりで、胴乱(どうらん)根付(ねつけ)紐長(ひもなが)にぶらりと()げ、啣煙管(くはへぎせる)をしながら(なら)んで立停(たちとま)つた。

和尚様(おしやうさま)おいでなさい。)

 婦人(をんな)其方(そなた)振向(ふりむ)いて、

(おぢ(さん)()うでござんした。)

()ればさの、頓馬(とんま)()()けたといふのは()のことかい。()ツから()(きつね)でなければ()()さうにもない(やつ)ぢやが、其処(そこ)はおらが(くち)ぢや、うまく仲人(なかうど)して、二(つき)や三(つき)はお嬢様(ぢやうさま)御不自由(ごふんじよ)のねえやうに、翌日(あす)はものにして沢山(うん)此処(こゝ)(かつ)()んます。)

(お(たの)(まを)しますよ。)

承知(しようち)承知(しようち)、おゝ、嬢様(ぢやうさま)何処(どこ)()かつしやる。)

(がけ)(みづ)まで一寸(ちよいと)。)

(わか)坊様(ばうさま)()れて(かは)()つこちさつさるな。おら此処(こゝ)眼張(がんば)つて()()るに、)と横様(よこさま)(えん)にのさり。

貴僧(あなた)、あんなことを(まを)しますよ。)と(かほ)()微笑(ほゝゑ)んだ。

一人(ひとり)(まゐ)りませう、)と(わき)退()くと親仁(おやぢ)吃々(くつ/\)(わら)つて、

(はゝゝゝ、さあ(はや)くいつてござらつせえ。)

(をぢ(さん)今日(けふ)はお(まへ)(めづ)らしいお(きやく)がお二人(ふたかた)ござんした、()()(とき)はあとから(また)()えやうも()れません、次郎(じらう)さんばかりでは()(もの)(よわ)んなさらう、(わたし)(かへ)るまで其処(そこ)(やす)んで()てをくれでないか。)

()いともの。)といひかけて親仁(おやぢ)少年(せうねん)(そば)へにぢり()つて、鉄挺(かなてこ)()たやうな(こぶし)で、脊中(せなか)をどんとくらはした、白痴(ばか)(はら)はだぶりとして、べそをかくやうな(くち)つきで、にやりと(わら)ふ。

 (わし)悚気(ぞツ)として(おもて)(そむ)けたが婦人(をんな)何気(なにげ)ない(てい)であつた。

 親仁(おやぢ)大口(おほぐち)()いて、

留主(るす)におらが()亭主(ていしゆ)(ぬす)むぞよ。)

(はい、ならば手柄(てがら)でござんす、さあ、貴僧(あなた)(まゐ)りませうか。)

 背後(うしろ)から親仁(おやぢ)()るやうに(おも)つたが、(みちび)かるゝまゝに(かべ)について、()紫陽花(あぢさい)のある(はう)ではない。

 (やが)脊戸(せど)(おも)(ところ)(ひだり)馬小屋(うまごや)()た、こと/\といふ物音(ものおと)羽目(はめ)()るのであらう、もう其辺(そのへん)から薄暗(うすぐら)くなつて()る。

貴僧(あなた)、こゝから()りるのでございます、(すべ)りはいたしませぬが(みち)(ひど)うございますからお(しづか)に、)といふ。」

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