高野聖

20話 第二十

1,200字 約2分 2007年3月18日 公開

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「さて、(それ)から御飯(ごはん)(とき)ぢや、(ぜん)には山家(やまが)(かう)(もの)生姜(はじかみ)()けたのと、わかめを()でたの、塩漬(しほづけ)()()らぬ(きのこ)味噌汁(みそじる)、いやなか/\人参(にんじん)干瓢(かんぺう)どころではござらぬ。

 品物(しなもの)(わび)しいが、なか/\の御手料理(おてれうり)()えては()るし冥加(みやうが)至極(しごく)なお給仕(きふじ)(ぼん)(ひざ)(かま)へて其上(そのうへ)(ひぢ)をついて、(ほゝ)(さゝ)えながら、(うれ)しさうに()()たわ。

 椽側(えんがは)()白痴(あはう)(たれ)取合(とりあ)はぬ徒然(つれ/″\)()へられなくなつたものか、ぐた/\と膝行出(いざりだ)して、婦人(をんな)(そば)()便々(べん/\)たる(はら)()つて()たが、(くづ)れたやうに胡座(あぐら)して、(しきり)()(わし)(ぜん)(なが)めて、(ゆびさし)をした。

(うゝ/\、うゝ/\。)

(なん)でございますね、あとでお(あが)んなさい、お客様(きやくさま)ぢやあゝりませんか。)

 白痴(あはう)(なさけ)ない(かほ)をして(くち)(ゆが)めながら(かぶり)()つた。

(いや)? 仕様(しやう)がありませんね、それぢや御一所(ごいつしよ)()しあがれ。貴僧(あなた)御免(ごめん)(かうむ)りますよ。)

 (わし)(おも)はず(はし)()いて、

(さあ()うぞお(かま)ひなく、(とん)御雑作(ござふさ)を、(いたゞ)きます。)

(いえ)(なん)貴僧(あなた)。お(まい)さん後程(のちほど)(わたし)一所(いつしよ)にお()べなされば(いゝ)のに。(こま)つた(ひと)でございますよ。)とそらさぬ愛想(あいさう)手早(てばや)同一(おなじ)やうな(ぜん)(こしら)えてならべて()した。

 (めし)のつけやうも効々(かひ/″\)しい女房(にようばう)ぶり、(しか)(なん)となく奥床(おくゆか)しい、上品(じやうひん)な、高家(かうけ)(ふう)がある。

 白痴(あはう)はどんよりした()をあげて(ぜん)(うへ)()めて()たが、

(あれ)を、あゝ、(あれ)(あれ)。)といつてきよろ/\と四辺(あたり)を《みまは》す。

 婦人(をんな)(ぢつ)(みまも)つて、

(まあ、(いゝ)ぢやないか。そんなものは何時(いつ)でも(たべ)られます、今夜(こんや)はお客様(きやくさま)がありますよ。)

(うむ、いや、いや。)と肩腹(かたはら)(ゆす)つたが、べそを()いて泣出(なきだ)しさう。

 婦人(をんな)(こう)()てたらしい、(かたはら)のものゝ()(どく)さ。

嬢様(ぢやうさま)(なに)(ぞん)じませんが、おつしやる(とほ)りになすつたが()いではござりませんか。(わたくし)にお気扱(きあつかひ)(かへ)つて心苦(こゝろぐる)しうござります。)と慇懃(いんぎん)にいふた。

 婦人(をんな)(また)()一度(いちど)

(いや)かい、これでは(わる)いのかい。)

 白痴(あはう)泣出(なきだ)しさうにすると、()(うら)めしげに流盻(ながしめ)()ながら、こはれ/\になつた戸棚(とだな)(なか)から、(はち)(はい)つたのを取出(とりだ)して手早(てばや)白痴(あはう)(ぜん)につけた。

(はい、)と(わざ)とらしく、すねたやうにいつて笑顔造(えがほづくり)

 はてさて迷惑(めいわく)な、こりや()(まい)黄色蛇(あおだいしやう)旨煮(うまに)か、腹籠(はらごもり)(さる)蒸焼(むしやき)か、災難(さいなん)(かる)うても、赤蛙(あかゞへる)干物(ひもの)大口(おほぐち)にしやぶるであらうと、(そツ)()()ると、片手(かたて)(わん)()ちながら掴出(つかみだ)したのは老沢庵(ひねたくあん)

 (それ)もさ、(きざ)んだのではないで、一本(いつぽん)()(ぎり)にしたらうといふ握太(にぎりぶと)なのを横啣(よこくはえ)にしてやらかすのぢや。

 婦人(をんな)はよく/\あしらひかねたか、(ぬす)むやうに(わし)()(さつ)(かほ)(あか)らめて初心(しよしん)らしい、然様(そん)(たち)ではあるまいに、(はづ)かしげに(ひざ)なる手拭(てぬぐひ)(はし)(くち)にあてた。

 なるほど()少年(せうねん)はこれであらう、身体(からだ)沢庵色(たくあんいろ)にふとつて()る。やがてわけもなく餌食(えじき)(たひ)らげて、()ともいはず、ふツ/\と太儀(たいぎ)さうに呼吸(いき)(むか)ふへ()くわさ。

(なん)でございますか、(わたし)(むね)(つか)へましたやうで、些少(ちつと)()しくございませんから、(また)後程(のちほど)(いたゞ)きましやう、)と婦人(をんな)自分(じぶん)(はし)()らずに(ふた)ツの(ぜん)(かた)つけてな。」

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