高野聖

7話 第七

1,252字 約3分 2007年3月18日 公開

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(はてし)()いから(きも)()ゑた、(もと)より引返(ひきかへ)(ぶん)ではない。(もと)(ところ)には矢張(やツぱり)丈足(たけた)らずの(むくろ)がある、(とほ)くへ()けて(くさ)(なか)()()けたが、(いま)にもあとの半分(はんぶん)(まと)ひつきさうで(たま)らぬから気臆(きおくれ)がして(あし)筋張(すぢば)ると、(いし)(つまづ)いて(ころ)んだ、其時(そのとき)膝節(ひざふし)(いた)めましたものと()える。

 それからがく/″\して歩行(ある)くのが(すこ)難渋(なんじふ)になつたけれども、此処(こゝ)(たふ)れては温気(うんき)蒸殺(むしころ)されるばかりぢやと、我身(わがみ)我身(わがみ)(はげ)まして首筋(くびすぢ)()つて引立(ひきた)てるやうにして(たうげ)(はう)へ。

 (なに)しろ路傍(みちばた)(くさ)いきれが可恐(おそろ)しい、大鳥(おほとり)(たまご)()たやうなものなんぞ足許(あしもと)にごろ/″\して()(しげ)塩梅(あんばい)

 (また)()ばかり大蛇(おろち)(うね)るやうな(さか)を、山懐(やまふところ)突当(つきあた)つて岩角(いはかど)(まが)つて、()()(めぐ)つて(まゐ)つたが此処(こゝ)のことで(あま)りの(みち)ぢやつたから、参謀本部(さんぼうほんぶ)絵図面(ゑづめん)(ひら)いて()ました。

 (なに)矢張(やツぱり)(みち)同一(おんなじ)()いたにも()たのにも(かはり)はない、旧道(きうだう)此方(こちら)相違(さうゐ)はないから心遣(こゝろや)りにも(なん)にもならず、(もと)より(れツき)とした図面(づめん)といふて、(ゑが)いてある(みち)(たゞ)(くり)(いが)(うへ)(あか)(すぢ)引張(ひつぱ)つてあるばかり。

 難儀(なんぎ)さも、(へび)も、毛虫(けむし)も、(とり)(たまご)も、(くさ)いきれも、(しる)してある(はず)はないのぢやから、薩張(さツぱり)(たゝ)んで(ふところ)()れて、うむと()(ちゝ)(した)念仏(ねんぶつ)(とな)()んで立直(たちなほ)つたは()いが、(いき)()かぬ(うち)情無(なさけな)長虫(ながむし)(みち)()つた。

 其処(そこ)でもう所詮(しよせん)(かな)はぬと(おも)つたなり、これは()(やま)(れい)であらうと(かんが)へて、(つえ)()てゝ(ひざ)()げ、じり/\する(つち)両手(りやうて)をついて、

(まこと)()みませぬがお(とほ)しなすつて(くだ)さりまし、(なる)たけお昼寝(ひるね)邪魔(じやま)になりませぬやうに(そツ)通行(つうかう)いたしまする。

 御覧(ごらん)(とほ)(つえ)()てました。)と我折(がを)染々(しみ/″\)(たの)んで(ひたひ)()げるとざつといふ(すさまじ)(おと)で。

 心持(こゝろもち)余程(よほど)大蛇(だいじや)(おも)つた、三(じやく)、四(しやく)、五(しやく)、四(はう)、一(ぢやう)()段々(だん/″\)(くさ)(うご)くのが(ひろ)がつて、(かたへ)(たに)へ一文字(もんじ)(さツ)(なび)いた、(はて)(みね)(やま)も一(せい)(ゆる)いだ、悚毛(おぞけ)(ふる)つて立窘(たちすく)むと(すゞ)しさが()()みて()()くと山颪(やまおろし)よ。

 ()(をり)から(きこ)えはじめたのは(どツ)といふ山彦(やまひこ)(つた)はる(ひゞき)丁度(ちやうど)(やま)(おく)(かぜ)渦巻(うづま)いて其処(そこ)から吹起(ふきおこ)(あな)があいたやうに(かん)じられる。

 (なに)しろ山霊(さんれい)感応(かんおう)あつたか、(へび)()えなくなり(あつ)さも(しの)ぎよくなつたので()(いさ)(あし)捗取(はかど)つたが(ほど)なく(きふ)(かぜ)(つめ)たくなつた理由(りいう)会得(ゑとく)することが出来(でき)た。

 といふのは()(まへ)大森林(だいしんりん)があらはれたので。

 ()(たとへ)にも天生峠(あまふたうげ)蒼空(あをぞら)(あめ)()るといふ(ひと)(はなし)にも神代(じんだい)から(そま)()()れぬ(もり)があると()いたのに、(いま)までは(あま)()がなさ()ぎた。

 今度(こんど)(へび)のかはりに(かに)(ある)きさうで草鞋(わらぢ)()えた。(しばら)くすると(くら)くなつた、(すぎ)(まつ)(えのき)処々(ところ/″\)見分(みわ)けが出来(でき)るばかりに(とほ)(ところ)から(かすか)()(ひかり)()すあたりでは、(つち)(いろ)(みな)(くろ)い。(なか)には光線(くわうせん)(もり)射通(いとほ)工合(ぐあひ)であらう、(あを)だの、(あか)だの、ひだが()つて(うつく)しい(ところ)があつた。

 時々(とき/″\)爪尖(つまさき)(から)まるのは()(しづく)落溜(おちたま)つた(いと)のやうな(ながれ)で、これは(えだ)()つて(たか)(ところ)(はし)るので。ともすると(また)常盤木(ときはぎ)落葉(おちば)する、(なん)()とも()れずばら/″\と()り、かさかさと(おと)がしてぱつと檜笠(ひのきがさ)にかゝることもある、(あるひ)行過(ゆきす)ぎた背後(うしろ)へこぼれるのもある、其等(それら)(えだ)から(えだ)(たま)つて()何十年(なんじうねん)ぶりではじめて(つち)(うへ)まで(おち)るのか(わか)らぬ。」

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