神鑿

2話

1,361字 約3分 2007年9月19日 公開

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(かんが)へると、()くあんな(なか)()られたものだ。」

(をとこ)()(なか)(つぶや)くやうに、

()つて()れば(てき)(なか)だ。(てき)(なか)で、()()けるのを()らなかつたのは(じつ)自分(じぶん)ながら度胸(どきやう)()い。……いや、()うではない、一時(いちじ)()んだかも(わか)らん。

 ()うだ、()んだと()へば、生死(いきしに)(わか)らなかつた、お(まへ)無事(ぶじ)(かほ)()(うれ)しさに、張詰(はりつ)めた()(ゆる)んで落胆(がつかり)して、(それ)(きり)()つたんだ。(さぞ)(まへ)は、()ちに()つた(わたし)()ふものが、()(まへ)()えるか()えないに、だらしなく、ぐつたりと()つて(しま)つて、どんなにか、(たの)みがひがないと(うら)んだらう。

 真個(まつたく)安心(あんしん)(あま)気絶(きぜつ)したんだと断念(あきら)めて、(ゆる)してくれ。()たんぢやない。(また)()うして()られる……(じつ)一刻(いつこく)(はや)く、()娑婆(しやば)連出(つれだ)すために、お(まへ)(かほ)()たらば()(とき)! (だん)()りるなぞは間弛(まだる)ツこい。天守(てんしゆ)五階(ごかい)から城趾(しろあと)飛下(とびお)りて(かへ)らう! ()意気込(いきご)みで出懸(でか)けたんだ、実際(じつさい)だよ。

 が、()頂上(ちやうじやう)から(とん)()には、二人(ふたり)とも五躰(ごたい)微塵(みじん)だ。五躰(ごたい)微塵(みぢん)ぢや、(かほ)()られん、(なん)にも()らない。()うすりや、(なに)(すく)ふんだか、(すく)はれるんだか、……(なに)()ふんだか、はゝはゝ。」

取留(とりと)めもなく(わら)つた拍子(ひやうし)に、(くさ)()んだ爪先下(つまさきさが)りの足許(あしもと)(ちから)()けたか、(をんな)(かた)に、(こひ)重荷(おもに)(かゝ)つた(はう)片膝(かたひざ)をはたと()く、トはつと()(はな)すと同時(どうじ)に、(をんな)黒髪(くろかみ)頬摺(ほゝず)れにづるりと()ちて、前伏(まへぶし)に、(をとこ)(ひざ)(せな)(のめ)つて、弱腰(よわごし)折重(をりかさ)ねた。

「あつ!」と(あはたゞ)しく、青年(わかもの)()(おび)(うへ)()()けて、

(あぶな)い。あゝ、(なん)(こと)だ。――お(うら)、」

()つたは(をんな)()で。

怪我(けが)はしないか、何処(どこ)(いた)めはしなかつたか。(よし)(なん)ともない。」

 (をんな)が、あ、とも()はず、(こゑ)()いのを、過失(あやまち)はせぬ(こと)、と(うなづ)いて、さあ、()たうとすると(ちつ)とも(うご)かぬ。

()たないか、こんな(ところ)長居(ながゐ)無益(むえき)だ。()うした。」

(そつ)(ゆす)ぶる、()(したが)つて(ゆす)ぶれるのが、()んだ(うを)(ひれ)(つま)んで、(みづ)(うご)かすと(おな)工合(ぐあひ)で、此方(こちら)()めれば(じつ)()つて、()きも(しづ)みもしない(ふう)

 はじめて(おどろ)いた(いろ)して、

()うかしたか、お(うら)。はてな、(いま)(ころ)んだつて、(した)へは(おと)さん、怪我(けが)過失(あやまち)()さうぢやない。(なん)だか正体(しやうたい)がないやうだ。矢張(やつぱ)一時(いちじ)疲労(つかれ)()たのか。あゝ、()()へば前刻(さつき)から(ひと)にばかりものを()はせる。確乎(しつかり)してくれ、お(うら)()うしたんだ。」

(いま)(あはたゞ)しく()つた。青年(わかもの)矢庭(やには)(うなじ)()き、(ひざ)なりに()(むか)ふへ捻廻(ねぢま)はすやうにして、()(むね)(まへ)(ひね)つて、押仰向(おしあふむ)けた(をんな)(かほ)

 (いま)()(ふさ)がず、(れい)(みは)つて、()(ひそ)むべき(なや)みも()げに、(ひたひ)()ばかりの(すぢ)(きざ)まず、(うつく)しう(やさし)(まゆ)()びたまゝ、(またゝき)もしないで、()のまゝ見据(みす)えた。

 ()(かほ)と、()(とき)引返(ひきかへ)した身動(みじろ)ぎに、(ひるがへ)つた(つま)(みだ)れに、(ゆき)のやうに(あら)はれた(まる)膝頭(ひざがしら)……を一目(ひとめ)()るや、

「うむ、」と一声(ひとこゑ)、《だう》と枯蘆(かれあし)(こし)(おと)して、(ほと)んど痙攣(けいれん)(おこ)した(ごと)く、(あし)投出(なげだ)してぶる/\と(ふる)へて、

(ちが)つた/\。(つく)りものだ、(こしら)へものだ、彫像(てうざう)だ。昨夜(ゆふべ)()つて()つた形代(かたしろ)だ、こりや、……おゝ。」

 (おのゝ)()に、(をんな)(むね)確乎(しつか)()せば、(ふく)らかな(ゑり)のあたりも、(てのひら)(かた)()(つめ)たいのであつた。

(なん)だ、(また)これを()つて(かへ)るほどなら、(たれ)(いのち)がけに()つて、這麼(こんな)ものを(こしら)へやう。……(たぶらか)しやあがつたな! 山猫(やまねこ)め、(きつね)め、野狸(のだぬき)め。」

邪慳(じやけん)に、胸先(むなさき)()つて片手(かたて)引立(ひつた)てざまに、(かれ)棒立(ぼうだ)ちにぬつくり()つ。可憐(あはれ)艶麗(あでやか)(をんな)姿(すがた)は、背筋(せすぢ)弓形(ゆみなり)(もすそ)(ちう)に、(くび)られた(ごと)くぶらりと()る。

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