妖怪学講義 02 緒言

2話 妖怪学講義 02 緒言(2)

7,263字 約15分 2021年6月6日 公開

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 しかして、その第一会は、明治十九年一月二十四日、大学講義室においてこれを開きたり。その後、会員ようやく増加せしも、余久しく病床にありて、その事務を斡旋することあたわざるに至り、ついに休会することとなれり。

 また、当時全国の有志にその旨趣を広告して、事実の通信を依頼したることあり。その今日までに得たる通知の数は、四百六十二件の多きに及べり。

 またその間、実地について研究したるもの、コックリの件、催眠術の件、魔法の件、白狐の件等、大小およそ数十件あり。その他、明治二十三年以来、全国を周遊して直接に見聞したるもの、またすくなからず。かつ数年間、古今の書類について妖怪に関する事項を捜索したるもの、五百部の多きに及べり。今その書目を挙ぐること左のごとし。

妖怪学研究参考ならびに引用書目

 この書目は、余が手帖中に記載せるままここに掲ぐ。序次錯雑なるも、請う、これをゆるせよ。〔原本はいろは順の旧仮名遣いで配列されているが、五十音順に直した。〕

あの部

嚢鈔(あいのうしょう) 東鏡〔吾妻鏡(あずまかがみ)〕 愛宕宮笥(あたごみやげ) 熱海誌 「アネロイド」晴雨計詳説及用法 阿弥陀経 安斎随筆 安政雑書万暦大成

いの部

云波草(いえばぐさ) 伊香保温泉遊覧記 厳島宮路の枝折 医道便易 稲荷神社考 稲生物怪録(いのうもののけろく) 淫祀論(いんしろん) 印判秘決集 陰陽五行奇書

うの部

宇治拾遺〔物語〕 雨窓閑話 空穂物語〔宇津保物語〕 雲萍雑志(うんぴょうざっし)

えの部

永代大雑書三世相(えいたいおおざっしょさんぜそう) 永代重宝〔記〕 易学啓蒙 易学通解 易経 閲古随筆 江戸名所図会 淮南子(えなんじ) 淵鑑類函(えんかんるいかん) 延喜式

おの部

王充論衡 往生要集 王代一覧 欧米人相学図解 大磯名勝誌 大雑書(おおざっしょ) 大雑書三世相 鋸屑譚(おがくずばなし) 小田原記 織唐衣(おるからきぬ) 温知叢書

かの部

怪談御伽桜(おとぎざくら) 怪談御伽童(おとぎわらわ) 怪談実録 怪談諸国物語 怪談全書 怪談登志男(としお) 怪談録 貝原養生訓 怪物輿論(よろん) 河海抄 学芸志林 格致叢書 花月草紙 花史左編 家相図説大全 家相秘伝集 家相秘録 合璧事類(がっぺきじるい) 河図洛書示蒙鈔(かとらくしょじもうしょう) 仮名世説 漢事始(からことはじめ) 神明憑談(かんがかり) 元三大師百籤(がんざんだいしひゃくせん) 元三大師御鬮(みくじ)判断 閑散余録 漢書 観相奇術 広東通志 韓非子

きの部

奇術秘法 鬼神新論 鬼神論 奇説集艸(きせつあつめぐさ) 奇説著聞集 木曾路名所図会 吉凶開示 亀卜秘伝(きぼくひでん) 救急摘方 救荒事宜(きゅうこうじぎ) 嬉遊笑覧 九星(きゅうせい)方位早操便覧 牛馬問(ぎゅうばもん) 窮理隠語 強識略 今古未発日時九星弁 近思録 近世奇跡考 近代世事談 禁中日中行事 錦嚢(きんのう)智術全書 禁秘抄(きんぴしょう)

くの部

旧事記(くじき) 奇魂(くしみたま) 倶舎論(くしゃろん) 蜘蛛(くも)の糸巻 群書類従 群芳暦 訓蒙浅語 訓蒙天地弁

けの部

苑日渉(げいえんにっしょう) 芸文類聚 桂林漫録 家語 園十筆(けんえんじっぴつ) 言海 元元集 元亨釈書(げんこうしゃくしょ) 元史 源氏物語 儼塾集(げんじゅくしゅう) 玄同放言 原人論(げんにんろん) 元明史略

この部

孝経 考証千典 皇朝事苑 黄帝陰符経 黄帝宅経 弘法大師一代記 古易察病伝 古易八卦考 吾園随筆 後漢書 五行大義 国語 国史略 国朝佳節録 極楽物語 古語拾遺 古今考 古今事類全書 古今神学類聚抄 五魂説 古今著聞集 古今八卦拾穂抄(ここんはっけしゅうすいしょう) 古今妖魅考 古今類書纂要 五雑俎(ござっそ) 古事記 古始太元図説 古事談 五趣生死輪弁義(ごしゅしょうじりんべんぎ) 滑稽雑談(こっけいぞうだん) 諺草(ことわざぐさ) 護法新論 艮斎文略(ごんさいぶんりゃく) 今昔物語 昆陽漫録

さの部

西国事物紀原 再生記聞 瑣語(さご) 三界一心記(さんがいいっしんき)〔三賢一致書〕 三元八卦九星方位占独判断 三国仏教略史 三国仏法伝通縁起 三才図会 三災録 三代実録 山堂肆考(さんどうしこう) 算法闕疑抄(さんぼうけつぎしょう) 三余清事

しの部

塩尻 塩原繁昌記 史記 詩経 事言要玄集 地獄実有説(じつうせつ) 自娯集 事纂 子史精華事類統編 資治通鑑 地震考 七十五法名目(みょうもく) 視聴雑録 十訓抄(じっきんしょう) 実験須弥界説(じっけんしゅみかいせつ) 支那教学史略 島田幸安幽界物語 沙石集 拾芥抄(しゅうがいしょう) 周書 十八史略 宗門略列祖伝 周遊奇談 宿曜経 朱子語類 修善寺温泉名所記 出定後語(じゅつじょうこうご) 出定笑語 主夜神修法(しゅやじんしゅほう) 周礼(しゅらい) 荀子 春秋左伝 遵生八牋(じゅんせいはっせん) 春波楼筆記(しゅんぱろうひっき) 商家秘録 消閑雑記 蕉窓漫筆 掌中和漢年代記集成 成唯識論 初学便蒙集 諸活幹枝大礎学 書経 続日本紀(しょくにほんぎ) 続日本後紀 書言故事大全 諸国怪談空穂猿(うつほざる) 諸国奇談西遊記 諸国奇談東遊記 諸国奇談漫遊記 諸国奇遊談 諸国古寺談 諸国新百物語 諸国里人談 諸子彙函 庶物類纂 神易選 人家必用〔小成〕 人国記 新古事談 神社啓蒙 神社考 神籤(しんせん)五十占 神相全編〔正義〕 新続古事談 神代口訣(くけつ) 新著聞集 神童憑談(ひょうだん) 神皇正統記(じんのうしょうとうき) 神変仙術錦嚢(きんのう)〔秘巻〕 神幽弁論

すの部

水経 隋書 水土解弁(すいどかいべん) 墨色指南(すみいろしなん) 墨色小筌(しょうせん) 墨色伝 駿台雑話(すんだいざつわ)

せの部

聖学自在 星経 (ぜいご) 正字通 精神啓微 西籍(せいせき)慨論 清明通変占秘伝(せいめいつうへんうらないひでん) 清明(せいめい)秘伝速占 性理字義 性理大全 世事百談 世説 摂西(せっさい)奇遊談 説郛(せっぷ) 善庵随筆 山海経(せんがいきょう) 戦国策 洗心洞剳記(せんしんどうさっき) 仙台案内 先哲叢談 先哲像伝

その部

葬経 宋元通鑑 宋高僧伝 荘子 相州大山記 宋書 相庭高下伝 宋稗類抄(そうひるいしょう) 草木子 続高僧伝 続古事談 続文献通考 祖志 息軒遺稿 素問 徂徠集(そらいしゅう)

たの部

大学 太極図説 〔大乗〕起信論 大聖日蓮深秘伝 大道本義 大日本史 大日本人名辞書 太平記 太平御覧 太平広記 高島易占 高島易断 太上(だじょう)感応篇 霊能真柱(たまのみはしら) 譚海(たんかい) 耽奇(たんき)漫録

ちの部

竹窓随筆 中古叢書 中庸 長寿食事戒 朝鮮征伐記 珍奇物語

つの部

通変亀鑑

ての部

庭訓往来(ていきんおうらい) 輟耕録(てっこうろく) 天元二十八宿指南 伝習録 天朝無窮暦 天地麗気記 天地或問珍(てんちわくもんちん)秉燭(へいしょく)或問珍〕 天変地異 天変地妖決疑弁蒙〔決疑弁蒙〕 天保大雑書(てんぽうおおざっしょ) 伝法智恵の海

との部

東海道名所図会 淘宮学(とうきゅうがく)軌範 淘宮学秘書 唐詩選 唐宋八大家 動物電気論 東方朔秘伝置文(とうぼうさくひでんおきぶみ) 東洋心理初歩 兎園小説(とえんしょうせつ) 読書録

なの部

夏山閑話 南留別志(なるべし) 南翁軒相法 南斎志 南史 南朝紀伝 南畝(なんぽ)叢書

にの部

二十八宿一覧表 日用晴雨管窺(かんき) 日用早覧 二程全書 日本往生全伝 日本居家秘用 日本歳時記 〔日本〕社会事彙 日本書紀 日本仏法史 日本風土記 二礼童覧(にれいどうらん) 人相指南 人相千百年眼 人相早学(にんそうはやまなび)

ねの部

年山紀聞 年中吉事鑑(ねんじゅうきちじかがみ) 年中行事大成 年中八卦手引草(はっけてびきぐさ) 年暦調法記

のの部

農家調宝記 農政全書 信友随筆(のぶともずいひつ)

はの部

梅園叢書 梅花心易掌中指南 売買極秘 馬関土産 博異記 博物筌(はくぶつせん) 博聞叢談 博覧古言 八門九星(はちもんきゅうせい)初学入門 八門遁甲或問鈔(はちもんとんこうわくもんしょう) 八卦辻占独判断 八宅(はったく)明鏡弁解 初夢歌合(はつゆめうたあわせ) 万金産業袋(ばんきんすぎわいぶくろ) 万物怪異弁断〔怪異弁断〕 万物故事要略 万宝大雑書(ばんぽうおおざっしょ) 万宝全書 万宝鄙事記(ひじき) 万暦(ばんれき)大雑書三世相大全

ひの部

秘事思案袋 秘事百撰 秘伝世宝袋 一宵話(ひとよばなし) 百物語評判(ひゃくものがたりひょうばん)〔古今百物語評判〕 百法問答抄 (びんしょ)

ふの部

風雨賦国字弁(ぶこくじべん) 巫学談弊(ふがくだんぺい) 袋草紙(ふくろぞうし) 不思議弁妄 扶桑(ふそう)見聞私記 扶桑略記 物学秘伝 仏国暦象編 仏祖統紀 物理訓蒙 物理小識 物類相感志 筆のすさび 文海披沙(ぶんかいひしょう) 文会筆録 文献通考

への部

秉燭譚(へいしょくだん) 秉穂録(へいすいろく) 闢邪小言(へきじゃしょうげん)

ほの部

法苑珠林(ほうおんじゅりん) 方角即考 方角重法記 方鑒必攜(ほうかんひっけい) 方鑒弁説 蓬生庵(ほうせいあん)随筆 茅窓(ぼうそう)漫録 《ほき》 北越雪譜 卜筮早考(ぼくぜいそうこう) 卜筮増補(もうきょう) 北窓瑣談(さだん) 卜法(ぼくほう)類書 法華経 法華宗御鬮絵鈔(みくじえしょう) 本草綱目(ほんぞうこうもく) 本朝奇跡談 本朝高僧伝 本朝語園 本朝人相考 本朝年代記 本朝列仙伝 本命的殺即鑑(ほんみょうてきさつそっかん)

まの部

まじなひ三百ヶ条 魔術と催眠術 魔睡術

みの部

水鏡 道の幸 妙術博物(せん) 妙薬妙術集 民家必用永代大雑書三世相 民家分量記

むの部

夢渓筆談 無量寿経

めの部

明治震災輯録 名物六帖(めいぶつろくじょう)

もの部

蒙求(もうぎゅう) 孟子 文選(もんぜん) 文徳実録

やの部

夜譚随録(やたんずいろく) 大和怪異記 和事始(やまとことはじめ) 大倭国(やまとのくに)万物記原 大和本草

ゆの部

唯一神道名法要集(ゆいいつしんとうみょうほうようしゅう) (ゆうけん)小録 酉陽雑俎(ゆうようざっそ) 愈愚(ゆぐ)随筆 夢合長寿宝(ゆめあわせちょうじゅだから) 夢はんじ

よの部

妖怪門勝光伝(ようかいもんしょうこうでん) 楊子太玄経 擁書(ようしょ)漫筆 妖婦録

らの部

礼記 雷震記 羅山文集

りの部

利運談 履園叢語 理斎随筆 琉球談 劉向(りゅうきょう)新序 梁書 旅行用心集 呂氏春秋

るの部

類聚国史 類聚名物考

れの部

霊獣雑記 暦講釈 暦日諺解 暦日講釈 列子 列仙伝 簾中抄(れんちゅうしょう)

ろの部

老子 論語

わの部

和漢三才図会 和漢珍書考 和漢年代記集成 和漢名数 和漢洋開化年代記 和漢暦原考 和訓栞 和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)

その他、雑誌、新聞ならびに西洋書籍の目次はこれを略す。

 その書目中、極めて通俗卑近のものまでを掲ぐるは、妖怪の問題は通俗の間に存するもの多きによる。

 それ、余がこのことに拮据(きっきょ)するや、ここに十年の星霜を経過すといえども、生来才学拙劣、究索その功を見ず。これに加うるに近年業務多端、もっぱら力をその一事に尽くすあたわず。忙裏荏苒(じんぜん)今日に至り、いまだ一回もその結果を世間に報告せざりしをもって、四方より妖怪事実を寄送せられたる諸氏は、これを督責してやまず。余、実に赧然(たんぜん)たらざるを得ず。ここにおいて、その研究の未熟を顧みず、匆々(そうそう)編成しきたりて、ここにこれを世に公にするに至る。その疎漏、誤脱の多き、余もとよりその責を任ず。碩学大家の嗤笑(ししょう)を招くも、またあえて辞せざるところなり。ただ余が微意は、さきに述ぶるがごとく、国家の隆治を助けて国民の本分を尽くさんとするにあれば、もしこのことにして幸いに文運の万一を裨補(ひほ)することを得ば、いずれの本懐かこれに過ぎん。余、もと無資無産なれば、実業を興して民力の伸暢を助くることあたわず。また、世情に暗く事理に通ぜざれば、政治を論じて国憲の拡張をはかることあたわず。ゆえに、その妖怪研究に着手したるは、余が衷情のやむべからざるに出ず。請う大方の君子、その微衷を察してこれを推恕(すいじょ)せよ。

 哲学は余が専門とするところなれば、年来多少これを研究したるも、理学、医学に至りては、余の全く知らざるところなり。しかれども、この部分を欠きて妖怪学を完結することあたわざれば、ここにその二科を加うるに至りたるも、その説明のごときは、余の憶測をもって論断を下したるものすくなしとせず。これまた、専門の諸士の批正を請わざるを得ず。しかして、哲学に属する部分も、その学とも〔に〕既設の学科にあらずして未設の学科なれば、余の独断憶想にかかるものまた多し。もしその誤解に至りては、他日再考のうえ訂正を加うることあるべし。余自ら知る、この事業は一人一代の力よく成功を期すべからざるを。けだし、その大成のごときは、数世の後をまたざるべからず。ゆえに余は、ただその苗種を学田中に培養するのみ。

 妖怪の事業は多く東洋に伝わるものを収集し、西洋に存するものはわずかに参考として掲ぐるに過ぎざるは、その研究の目的、わが国の妖怪を説明するにあればなり。しかしてわが国の妖怪は多くシナより入りきたり、真に日本固有と称すべきものははなはだ少なし。余の想定するところによるに、わが国今日に伝わる妖怪種類中、七分はシナ伝来、二分はインド伝来、一分は日本固有なるもののごとし。ゆえに、わが国およびシナの書類は、微力の及ぶ限りひろく捜索したるも、西洋の書類は、わずかに数十部を参見せしに過ぎず。

 およそ妖怪の研究は卑賤の事業に似たるも、その関係するところ実に広く、その影響するところ実に大なれば、その説明のごときは、教育家、宗教家に必要なるは論なく、医師、文人、詩客、画工、俳優、史家、警官、兵士、政治家、法律家に至るまで、参考を要することは明らかなり。また、民間にありては、農工商のごとき実業に従事するもの、および婦人、女子に至るまで、みなことごとくその理を知るを要するは、余が弁をまたざるなり。ゆえに講義の目的は、広く通俗をして了解せしむるを主とし、例証はなるべく実際に適切なるものを選び、文章はなるべく簡易明瞭を本旨とし、他書引用のごときは、その書名、巻数、もしくは編名、丁数を掲げて、その捜索に便にす。読者請う、これを了せよ。

 余、先年この研究に着手せし以来、文科大学の速成を教授せんと欲して哲学館を創立し、また国学科、漢学科、仏学科の専門部を開設せんと欲して全国周遊の途に上れり。ゆえをもって、余の研究も一時中止せざるを得ざるに至れり。しかれども地方巡回の際、実地見聞したるものすくなからざれば、研究の一助となりしことは疑いをいれず。その巡回の場所は、このことに関係するところあれば、左に掲記すべし。

 巡回中滞在せし場所は、一道、一府、四十八国、二百十五カ所(もしこれにその際通行の国数を加うれば六十二国となる)。

伊勢国(山田、松阪、津、一身田、四日市、桑名) 尾張国(名古屋、熱田、津島、大野、半田) 三河国(豊橋、岡崎、北大浜、西尾、蒲郡、豊川) 遠江(とおとうみ)国(掛川、浜松、平田、中泉) 駿河(するが)国(静岡、小川、清水、藤枝) 相模(さがみ)国(大磯) 武蔵国(忍) 上総(かずさ)国(千葉、茂原) 近江(おうみ)国(大津、豊蒲、五ヶ荘、愛知川、八幡、彦根、長浜) 美濃国(岐阜) 上野(こうずけ)国(安中、松井田、里見、高崎、八幡) 岩代(いわしろ)国(福島) 陸前国(築館、一迫) 陸中国(盛岡、花巻) 陸奥(むつ)国(弘前、黒石、板屋野木、鰺ヶ沢、木造、五所川原、青森、野辺地) 羽前(うぜん)国(米沢、山形、寒河江、天童、楯岡、新庄、鶴岡) 羽後(うご)国(酒田、松嶺、湯沢、十文字、横手、沼館、六郷、大曲、秋田、土崎、五十目、能代、鷹巣、大館、扇田) 越後国(新井、高田、直江津、岡田、安塚、坂井、代石、梶、新潟、沼垂、葛塚、新発田、亀田、新津、田上、加茂、白根、三条、見附、浦村、片貝、千手、六日町、塩沢、小出、小千谷、長岡、大面、寺泊、地蔵堂、新町、加納、野田、柏崎) 丹波国(亀岡、福知山) 丹後国(舞鶴、宮津、峰山) 但馬(たじま)国(出石、豊岡) 因幡(いなば)国(鳥取) 伯耆国(長瀬、倉吉、米子) 出雲国(松江、平田、今市、杵築) 石見(いわみ)国(波根、太田、大森、大国、宅野、大河内、温泉津、郷田、浜田、益田、津和野) 播磨(はりま)国(龍野) 備前(びぜん)国(閑谷) 備後(びんご)国(尾道) 安芸国(広島、呉) 周防(すおう)国(山口、西岐波、宮市、徳山、花岡、下松、室積、岩国) 長門(ながと)国(馬関、豊浦、田辺、吉田、王喜、生田、舟木、厚東、萩、秋吉、太田、正明市、黄波戸、人丸峠、川尻、川棚) 紀伊国(高野山、和歌山) 淡路国(市村、須本、志筑) 阿波国(徳島、川島、脇町、池田、撫養) 讃岐(さぬき)国(丸亀、高松、長尾) 伊予国(松山、宇和島、今治) 土佐国(高知、国分寺、安芸、田野、山田、須崎) 筑前国(福岡、若松) 筑後国(久留米、吉井) 豊前(ぶぜん)国(小倉、中津、椎田) 豊後(ぶんご)国(日田) 肥前(ひぜん)国(長崎、佐賀) 肥後(ひご)国(熊本) 渡島(おしま)国(函館、森) 後志(しりべし)国(江差、寿都、歌棄、磯谷、岩内、余市、古平、美国、小樽、手宮) 石狩国(札幌、岩見沢) 天塩(てしお)国(増毛) 胆振(いぶり)国(室蘭)

 これよりこの「緒言」を結ぶに当たり、余の素志、宿望を述べて、天下の諸士に告げんとす。吾人は身心の二根によりて天地の間に樹立する以上は、真理を愛し国家を護するの二大義務を有するものなり。これを内に顧みては、心天雲深きところ真理の明月を開ききたりて、これを愛しこれを楽しむは学者の本分なり。これを外に望みては、世海波高きところ国家の砲台を築ききたりて、これを護しこれを防ぐは国民の義務なり。余は一人にして、この二大目的を達せんとす。ゆえに余、つねに曰く、「権勢の道に奔走して栄利を争う念なく、毀誉の間に出没して功名をむさぼる情なく、ただ終身、陋巷(ろうこう)に潜みて真理を楽しみ、草茅に座して国家を思うの赤心を有するのみ」と。その言、狂に近しといえども、余、朝夕心頭に銘じて片時も忘るることなし。さきに妖怪研究に着手し、つぎに哲学館を創立し、つぎに専門科開設を発表し、今また『妖怪学講義』を世上に公にするは、みな護国愛理の二大目的を実行せんとするものにほかならず。妖怪の原理を究めて仮怪を排し真怪をあらわすは、真理を愛するの精神にもとづき、これを実際に応用して世人の迷苦をいやし世教の改進をはかるは、国家を護するの衷情にもとづく。果たしてしからば、妖怪研究の一事、よくこの二大目的を兼行するを得るなり。

 それ、余は理想の実在を信ずるものなり。これを物界の上に考うれば、天地万有ことごとく理想の結晶、凝塊なるを信じ、これを人界の上に考うれば、皇室国体はまたみな理想の精彩光華なるを信ずるものなり。ゆえをもって、世界の上にありては、万有の美妙と心性の霊妙と相和して、天地六合ことごとく靄然(あいぜん)たる神気の中に浮かぶを見、国家の上にありては、皇室神聖の純気とわれわれ忠孝の元気と相映じて、国体全く霊然たる神光の中に輝くを見る。今、余が妖怪研究の結果、よく仮怪を排して真怪を開くを得ば、人をしてこの理に体達せしむることを得べしと信ず。近年、世情ようやく澆季(ぎょうき)に移り、人心ようやく菲薄(ひはく)に流れ、国体まさにその神聖を減じ、忠孝まさにその活気を失わんとするに当たり、広くこの理を開示するは、ひとり真理のために要するのみならず、実に国家の急務とするところなり。

 さらに一言を宗教、教育の上に加えて、この一論を結ばんとす。余おもえらく、今日の宗教家も教育家もともに、迷雲妄霧の中に彷徨(ほうこう)して帰宿する所を知らず。しかして、よくこの雲霧を一掃すべきものは、実に妖怪学の講究なり。妖怪学によりてこれを一掃するは、あたかも心田の雑草を鋤去(じょきょ)するがごとし。ここにおいて、はじめて宗教、教育の苗種を繁茂せしむるを得べし。ゆえに余、まさに言わんとす、「妖怪学は宗教に入るの門路にして教育を進むるの前駆なり」と。宗教のいわゆる自力、他力の二宗も、ひとたび妖怪学によりて仮怪の迷雲をはらい去りてのち信念得道すべく、教育のいわゆる知育、徳育も、ひとたび妖怪学によりて真怪の明月を開ききたりてのち開発養成すべし。しかして宗教そのもの、教育そのものに至りては、やや余論にわたるをもって、ここにこれを述べず。これを要するに、妖怪学の目的は仮怪、仮妖を払って、真怪、真妖を開くにほかならず。余が巻首に提唱したる、心灯を点じて天地を読むとはこれをいうなり。ああ、これ人間最上の真楽にあらずや。そのつまびらかなるは、本論に入りて講述すべし。

〔原本(三版)には、このつぎに「妖怪学講義緒言に題す」という一文(明治二十六年八月十日付)が掲げられているが、すでに同文が本書十三頁八行目より十四頁二行目に掲載されているので、当該文は割愛した〕

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