印度更紗

1話

1,253字 約3分 2021年11月4日 公開

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鸚鵡(あうむ)さん、しばらくね……」

 と眞紅(しんく)へ、ほんのりと(かすみ)をかけて、(あたら)しい()の《ぱつ》と(うつ)る、棟瓦(むねがはら)夕舂日(ゆふづくひ)()んだ(さま)なる瓦斯暖爐(がすだんろ)(まへ)へ、長椅子(ながいす)(なゝめ)に、ト(もすそ)(ゆか)上草履(うはざうり)爪前(つまさき)(ほそ)(たをやか)(こし)()けた、年若(としわか)夫人(ふじん)が、博多(はかた)伊達卷(だてまき)した平常着(ふだんぎ)に、お(めし)(こん)雨絣(あまがすり)羽織(はおり)ばかり、(つくろ)はず、等閑(なほざり)引被(ひつか)けた、()姿(すがた)は、敷詰(しきつ)めた絨氈(じうたん)浮出(うきい)でた(あや)もなく、(そで)()げた椅子(いす)()の、(みどり)(ふか)さにも押沈(おししづ)められて、()えもやせむと(あは)かつた。けれども、(うつく)しさは、(よる)(くも)(くら)(こずゑ)(おほ)はれながら、もみぢの(えだ)(うら)()くばかり、友染(いうぜん)(くれなゐ)ちら/\と、櫛卷(くしまき)黒髮(くろかみ)濡色(ぬれいろ)(つゆ)(したゝ)る、天井(てんじやう)(たか)(やま)()に、電燈(でんとう)(かげ)(しろ)うして、(ゆら)めく(ごと)暖爐(だんろ)(ほのほ)は、()(かく)れたる山姫(やまひめ)(にしき)()らす松明(たいまつ)かと()ゆ。

 博士(はかせ)旅行(たび)をした(あと)に、交際(つきあひ)ぎらひで、籠勝(こもりが)ちな、()夫人(ふじん)留守(るす)した(いへ)は、まだ(よひ)()も、實際(じつさい)(つた)(なか)所在(ありか)()るゝ山家(やまが)(ごと)き、窓明(まどあかり)

 (ひろ)住居(すまひ)近所(きんじよ)(とほ)し。

 (ひさ)しぶりで、()うして()()かせたまゝ、()()りの小間使(こまづかひ)さへ(とほ)ざけて、ハタと(ひらき)(とざ)した(おと)が、(こだま)するまで(ひゞ)いたのであつた。

 夫人(ふじん)は、さて(たゞ)一人(ひとり)(かべ)()せた塗棚(ぬりだな)据置(すゑお)いた、(かご)(なか)なる、雪衣(せつい)鸚鵡(あうむ)と、差向(さしむか)ひに()るのである。

御機嫌(ごきげん)よう、ほゝゝ、」

 と(つぼみ)(ふく)んだ(おもむき)して、鸚鵡(あうむ)(ゆき)照添(てりそ)(くちびる)……

 (かご)(うへ)に、(たな)(たけ)(やゝ)(たか)ければ、打仰(うちあふ)ぐやうにした、(まゆ)(やさ)しさ。(びん)()はひた/\と、羽織(はおり)(えり)()きながら、(かた)(うなじ)(ほそ)かつた。

「まあ、挨拶(あいさつ)もしないで、……默然(だんまり)さん。お()ましですこと。……あゝ、()(あひだ)(はと)にばツかり(かま)つて()たから、お(まへ)さん、一寸(ちよいと)(かんむり)(まが)りましたね。」

 ()五日(いつか)六日(むいか)心持(こゝろもち)(わづら)はしければとて、(きやく)にも()はず、二階(にかい)一室(ひとま)(こも)りツ(きり)、で、寢起(ねおき)(ひま)には、裏庭(うらには)(まつ)(こずゑ)(たか)き、(しろ)のもの()のやうな(まど)から、(くも)水色(みづいろ)(そら)とを()ながら、徒然(つれ/″\)にさしまねいて、蒼空(あをぞら)()遠方(をちかた)伽藍(がらん)(はと)()んだ。――眞白(まつしろ)なのは、(てのひら)へ、(むらさき)なるは、かへして、指環(ゆびわ)紅玉(ルビイ)(かゞや)(かふ)へ、朱鷺色(ときいろ)()(あし)して、(かる)()(とま)るまでに()れたのであつた。

「それ/\、お(かんむり)(とほ)り、(くちばし)(まが)つて()ました。()をくる/\……でも、矢張(やつぱ)可愛(かはい)いねえ。」

 と艷麗(あでやか)打傾(うちかたむ)き、

()(かは)り、(いま)ね、()ながら(ほん)()んで()て、面白(おもしろ)(こと)があつたから、お(はなし)をして()げようと(おも)つて、故々(わざ/\)(あそ)びに()たんぢやないか。途中(とちう)(さむ)かつたよ。」

 と、(ひし)()はせた、兩袖(りやうそで)(かた)(しま)つたが、(こぼ)るゝ蹴出(けだ)(やはら)かに、(つま)一靡(ひとなび)落着(おちつ)いて、(むね)()らして、(かほ)()き、

(いゝえ)、まだ()して()げません。……お(はなし)()かなくツちや……でないと(そで)(くは)へたり、()つたり、惡戲(いたづら)をして邪魔(じやま)なんですもの。

 お()きなさいよ。

 ()いかい、お()きなさいよ。

 まあ、ねえ。

 座敷(ざしき)は――こんな貸家建(かしやだて)ぢやありません。(かべ)も、(ゆか)も、(みな)彩色(さいしき)した(いし)()いた、明放(あけはな)した二階(にかい)大廣間(おほひろま)客室(きやくま)なんです。

 外面(おもて)の、印度洋(インドやう)()いた(はう)の、大理石(だいりせき)の《まは》り(えん)には、(のき)から()けて、(ゆか)()く……水晶(すゐしやう)(すだれ)に、(ほし)數々(かず/\)(ちりば)めたやうな、ぎやまんの燈籠(とうろう)が、十五、晃々(きら/\)()いて(なら)んで()ます。草花(くさばな)()蝋燭(らふそく)が、(つき)(かつら)()くやうに。」

 と(えり)(おさ)へた、(ゆび)(さき)

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