霰ふる

2話

1,187字 約2分 2021年11月4日 公開

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 山國(やまぐに)(やま)を、(まち)()けて、戸外(おもて)(よる)(いろ)は、部室(へや)(うち)からよく()れる。(くも)(くら)からう……(みづ)はもの(すご)(しろ)からう……(そら)所々(ところ/″\)(さつ)藥研(やげん)のやうなひゞが()つて、(あられ)()(なか)から、銀河(ぎんが)(たま)(くだ)くが(ごと)(ほとばし)る。

 ハタと()めば、()(そら)()れた(ところ)へ、むら/\と(また)一重(ひとへ)(つめた)(くも)(かさな)りかゝつて、薄墨色(うすずみいろ)縫合(ぬひあ)はせる、と(かぜ)さへ、そよとのもの(おと)も、蜜蝋(みつらふ)(もつ)(かた)(ふう)じた(ごと)く、乾坤(けんこん)(じやく)()る。……

 建着(たてつけ)(わる)()障子(しやうじ)雨戸(あまど)も、カタリとも(ひゞ)かず。(いたち)(のぞ)くやうな、(ねずみ)匍匐(はらば)つたやうな、()つて()めた(ひし)()が、ト、べつかつこをして、ぺろりと(くろ)(した)()くやうな、いや、(ねん)()つた、雜多(ざつた)隙間(すきま)()(あな)が、(さむ)さにきり/\と()()んで、呼吸(いき)()めて、うむと(こら)へて凍着(こゞえつ)くが、古家(ふるいへ)(すゝ)にむせると、時々(とき/″\)遣切(やりき)れなく()つて、(ひそ)めた(くしやめ)、ハツと噴出(ふきだ)しさうで不氣味(ぶきみ)眞夜中(まよなか)

 板戸(いたど)(ひと)つが()(まち)の、(みせ)の八(でふ)古疊(ふるだたみ)眞中(まんなか)(つくゑ)()いて對向(さしむか)ひに、洋燈(ランプ)(ひたひ)突合(つきあ)はせた、友達(ともだち)二人(ふたり)で、()(くに)地誌略(ちしりやく)()ふ、學校(がくかう)教科書(けうくわしよ)()んで()た。――其頃(そのころ)(ふう)をなして(おこな)はれた試驗(しけん)間際(まぎは)徹夜(てつや)勉強(べんきやう)終夜(しうや)(とな)へて、()()つた同志(どうし)()あかしに演習(おさらひ)をする、なまけものの節季仕事(せつきしごと)()ふのである。

 一(まい)……二(まい)、と兩方(りやうはう)で、ペエジを(やツ)つ、(とツ)つして、眠氣(ねむけ)ざましに(こゑ)()して()んで()たが、()()()けて、可恐(おそろ)しく陰氣(いんき)(とざ)されると、(ひく)(こゑ)さへ、びり/\と(こほり)(けづ)るやうに(くちびる)へきしんで(ひゞ)いた。

 (つね)さんと()ふお友達(ともだち)が、()()けたのを、フツと()めて、

(たみ)さん。」

 と()ぶ、……(ほん)()んでたとは、からりと調子(てうし)(かは)つて、引入(ひきい)れられさうに滅入(めい)つて(きこ)えた。

「……(なあに)、」

 ト、(ひと)(ひと)つ、自分(じぶん)(まつげ)が、(かみ)(うへ)へばら/\と(こぼ)れた、(ほん)の、片假名(かたかな)まじりに落葉(おちば)する、(やま)だの、(たに)だのを(その)まゝの()を、(じつ)相手(あひて)()ませて、傍目(わきめ)()らず()()たのが。

 ()ばれて()()げると、(かさ)(やぶ)れて、(かみ)(かぶ)せた、黄色(きいろ)(くすぶ)つたほやの(うへ)へ、(まゆ)(やさ)しい(ひたひ)()せた、(ほゝ)のあたりが、ぽつと(しろ)く、朧夜(おぼろよ)()ちた()かづらと()顏色(かほつき)

(さび)しいねえ。」

「あゝ……」

何時(なんじ)だねえ。」

先刻(さつき)()うつたよ。(ねむ)()つたの?」

 對手(あひて)(たちま)元氣(げんき)づいた(こゑ)()して、

(なに)(ねむ)いもんか……だけどもねえ、今時分(いまじぶん)になると(さび)しいねえ。」

其處(そこ)(みんな)()()るもの……」

 と()つた――(おほ)きな戸棚(とだな)、と()つても先祖代々(せんぞだい/\)(きざ)()けて何時(いつ)(だい)にも(うご)かした(こと)のない、……()(よこ)(ふすま)一重(ひとへ)納戸(なんど)(うち)には、民也(たみや)(ちゝ)祖母(そぼ)とが()()た。

 (はゝ)()(はや)うしたのである……

(つね)さんの(とこ)よりか(さび)しくはない。」

()うして?」

「だつて、(きみ)(うち)はお(やしき)だから、(ひろ)座敷(ざしき)(ふた)つも(みツ)つも(とほ)らないと、(おつか)さんや(なに)()()部屋(へや)()けないんだもの。()(あひだ)(きみ)(とこ)で、徹夜(てつや)をした(とき)は、(ぼく)は、そりや、(さび)しかつた……」

「でもね、(ぼく)(とこ)二階(にかい)がないから……」

二階(にかい)(さび)しい?」

 と民也(たみや)眞黒(まつくろ)天井(てんじやう)を。……

 (つね)さんの()も、(ひと)しく(あふ)いで、(つめた)(ひか)つた。

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