艶書

2話

1,384字 約3分 2011年9月9日 公開

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(わたし)見舞(みまひ)()つた歸途(かへり)です。」

 と(をとこ)口早(くちばや)()(つゞ)けて、

(ゆき)には、(なん)にも、そんな(やつ)()なかつたんです。(もつと)大勢(おほぜい)人通(ひとゞほ)りがありましたから()()かなかつたかも()れません。(かへり)()病院(びやうゐん)彼方(あつち)かどを、此方(こつち)(まが)ると、其奴(そいつ)姿(すがた)がぽつねんとして(ひと)ツ。(それ)が、()(うへ)の、ずんどに、だゞつ(ぴろ)(むかし)大手前(おほてまへ)()つた(とほり)へ、(くわツ)()(あた)つて、()うやつて(かげ)もない。」

 と(くも)(あふ)ぐと、(とり)()るやうに(をんな)見上(みあ)げた。

泥濘(ぬかるみ)捏返(こねかへ)したのが、()のまゝ(から)()いて、()(うみ)荒磯(あらいそ)()つた(ところ)に、硫黄(ゆわう)(こし)()けて、暑苦(あつくる)しい(くろ)(かたち)(しやが)んで()るんですが。

 何心(なにごころ)なく、(まばゆ)がつて、すツとぼ/\、御覽(ごらん)(とほ)高足駄(たかあしだ)歩行(ある)いて()ると、ばらり/\、カチリてツちや砂利(じやり)()げてるのが、(はな)れた(ところ)からも(わか)りましたよ。

 中途(ちうと)()ちるのは、(とゞ)かないので。()砂利(じやり)が、病院(びやうゐん)裏門(うらもん)の、あの日中(ひなか)陰氣(いんき)な、枯野(かれの)()(しづ)むと()つた、(さび)しい(あか)土塀(どべい)へ、トン……と……(あひ)()いては、トーンと(あた)るんです。

 (なん)ですかね、島流(しまなが)しにでも()つて、(こゝろ)遣場(やりば)のなさに、砂利(じやり)(つか)んで(うみ)投込(なげこ)んででも()るやうな、心細(こゝろぼそ)い、可哀(あはれ)(ふう)()えて、(それ)病院(びやうゐん)土塀(どべい)(ねら)つてるんですから、あゝ、()(どく)だ。……

 年紀(とし)(わか)し……許嫁(いひなづけ)か、(なに)か、()()へて(おも)(ひと)でも、入院(にふゐん)して()て、療治(れうぢ)(とゞ)かなかつた(ところ)から、無理(むり)とは()つても、世間(せけん)には愚癡(ぐち)から(おこ)る、人怨(ひとうら)み。よくある(ならひ)で――醫師(いしや)()ぬかり、看護婦(かんごふ)不深切(ふしんせつ)(なん)でも病院(びやうゐん)越度(をちど)(おも)つて、(それ)口惜(くや)しさに、もの(ぐる)はしく(おほき)(たて)ものを呪詛(のろ)つて()るんだらう。……

 と(わたし)()(おも)ひました。()うね、一目(ひとめ)()て、()(をとこ)のいくらか()(へん)だ、と()(こと)は、顏色(かほいろ)(わか)りましたつけ。……()(ふち)(あを)くつて、(いろ)(あか)(ちや)けたのに、(あつ)(くちびる)(かわ)いて、だらりと()いて、(した)()しさうに(あへ)ぎ/\――下司(げす)人相(にんさう)ですよ――(かみ)(なが)いのが、帽子(ばうし)(した)から(まゆ)(うへ)へ、ばさ/\に(かぶ)さつて、そして()血走(ちばし)つて()るんですから。……」

矢張(やつぱ)り、病院(びやうゐん)(うら)んで()るんですかねえ、(だれ)かが()()つてさ、貴方(あなた)。」

 と見舞(みまひ)途中(とちう)()()つてか、(をんな)()()いて俯向(うつむ)いた。

「まあ、()うらしく(おも)ふんです。」

()(どく)ですわね。」

 と(かほ)()げる。

雖然(けれども)(おどろ)くぢやありませんか。突然(いきなり)、ばら/\と擲附(ぶつか)つたんですからね。(なに)をする……も(なん)にもありはしない。狂人(きちがひ)だつて(こと)初手(しよて)から()れて()るんですから。

 ――頬邊(ほつぺた)は、()鹽梅(あんばい)(かす)つたばかりなんですけれども、ぴしり/\(ひど)いのが()ましたよ。(また)うまいんだ、貴女(あなた)()(いし)()げる手際(てぎは)が。面啖(めんくら)つて、へどもどしながら、そんな(なか)でも(それ)でも、(なん)拍子(ひやうし)だか、(かみ)(なが)工合(ぐあひ)()ひ、(また)(しま)らないだらけた(ふう)が、朝鮮(てうせん)支那(しな)留學生(りうがくせい)()ら。……おや、と(おも)ふと、ばら/\と(また)投附(なげつ)けながら、……

 ――畜生(ちくしやう)畜生(ちくしやう)――と口惜(くや)しさうに(わめ)調子(てうし)が、立派(りつぱ)同一(おなじ)先祖(せんぞ)らしい、お(たがひ)の。」

 とフト苦笑(にがわらひ)した。

「それから本音(ほんね)()きました。

 ――畜生(ちくしやう)(あま)畜生(ちくしやう)――

 大變(たいへん)だ。色情狂(いろきちがひ)。いや、(をんな)怨恨(うらみ)のある(やつ)だ……

 と……(なに)しろ(ひど)()()つて()げたんです。(たつ)(いま)(こと)なんです。

 (やつ)此處(こゝ)まで()て、(べつ)追掛(おひか)けては()ませんでした――(そで)なんか(はら)つて、()んだ()()ふものだ、と()(おも)ひましてね、(あせ)()いて、()(なん)です、(さか)()りようとすると、(した)から、ぞろ/\と十四五(にん)、いろの(はかま)と、リボンで、一組(ひとくみ)總出(そうで)()つたらしい女學生(ぢよがくせい)、十五六から二十(はたち)ぐらゐなのが(そろ)つて()ました。……」

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