続先生を囲る話

2話 ○ 津浪と金庫の話

582字 約1分 2019年11月28日 公開

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 三陸の津浪の被害地を、地球物理学会の錚々たる先生方一同で見学に行った時、大変な難問にぶつかってしまった。それは何とかいう一番大きい金庫が津浪のために打ちあげられて、小さい家を二軒もとび越して山手の方へ持って行かれたという話が現場で立証されてしまったのである。金庫の旧の位置も津浪で持ってこられた現在の場所も確定したのだから、頭の良いことでは自信のある若い地球物理学者が揃った手前、何とか説明しなくては済まされない。津浪の浪が一局所に集ってきて、ホースから迸り出る水のような作用が生じたとかいう風な名論が続出したが、とても何百貫とある金庫を家二軒とび越させる力は出てこない。散々皆で頭をひねっている中に、誰かがちょっとその金庫の大きさと目方から比重を計算してみたら、〇・四とか〇・五とかいう値が出てしまった。何のことはない、金庫は浮いてきたのである。そこで前から黙ってきいておられた隊長格の某博士が感嘆の声を発せられた。「なるほどそういえば軍艦だって浮いているからなあ」というのである。

 その後曙町の応接間に寅彦先生をお訪ねした時、ちょっと茶目気を出してこの話を持ち出したことがあった。少しは驚かれるかと思って、「何にしても何百貫とあるものですから」と言いかけたら、「君、目方じゃ駄目だよ、比重でなくちゃ」といわれたのでギャフンとなってしまった。

(昭和十三年一月)

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