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働く婦人

中谷 宇吉郎 全1話 1,084字 2026年8月8日

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1. 働く婦人

「かつては搖籃をゆった手が、今はベーコンを持ち歸る」という見出しの記事があったので、讀んで見たら、アメリカの婦人の就業問題であった。

 アメリカでは、成年の婦人が、家にぶらぶらしているということは、あまりない。學校を卒業した娘が、家にいて、嫁入支度の藝事など習っていたら、どうかしたのかと不審がられるであろう。結婚しても、たいてい夫婦共稼ぎが常識になっている。細君が家でごろごろして居られるのは、獨立家屋をもち、自動車が二臺あるという階級と思って、まず差しつかえない。

 男も女も、一般的にいって、非常によく働いて、國全體の生産能率を上げている。そして天文學的な大量生産をして、國力を蓄積し、國民の生活水準の向上に資している。ここまでは、たいへん結構な話のようであるが、その蔭には、深刻な惱みがある。世の中には萬全ということはない。

 最近勞働省と商務省とから出された協同報告によると、現在アメリカで、職業についている婦人の總數は、二千二十萬人を超えている。全就業者六千萬人のうち、婦人がその三分の一を占めているわけである。

 數ばかりでなく、職業の種類も、次第に男子との區別がなくなって來ている。鐵道勞務者、水夫、熔接工、電車の運轉手、發電所の運用技術者、一般勞務者など、從來男の恆久的職業と考えられている所に、女がどんどん進出して來ている。家庭經濟の補助という意味ではなくて、恆久的職業としての婦人の就業が多くなった。波止場人足にまで進出して來て、一九五〇年の調査でも、既に七百五十四人を數えているから、今ではもっと増えているにちがいない。

 專門の知識をもった技術者も、非常に増えて來て、女醫が一萬二千人、辯護士が六千人、牧師が七千人近くという調子である。過去十年間にそれぞれ約五割増しているそうであるから、この割合で増えたら、たいへんなことになる。現在既に細君の收入によって生活し、自分は家事をやつている男が、八萬六千人いるそうである。

 ところで、現在のアメリカにおける最大の惱みの一つは、青少年の不良化の問題である。いわゆるティーン・エイジャーの犯罪が、だんだん増えて來て、かつ惡質になりつつある。新聞には、毎日のように、十五六歳から二十歳までくらいの青少年の、いろいろな犯罪記事が出ている。社會事業家などは、その最大の原因として、母親が家にいないという點を擧げている。能率一點張りのアメリカの生活では、娯樂までも能率的になっている。そういう生活で、母親が家庭にいなかったら、青少年が不良化することもやむを得ない。婦人の就業問題に伴う惱みの最大なものは、この點にある。

働く婦人 — 中谷 宇吉郎 — https://noveliz.cc/n/4pgxz04n99

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