5話 各国民の覚醒を待つ
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今や世界の平和曙光の仄見えつつあることは前述の如くである。しかしながら一国といえども侵略的の企図を有する国家ある以上は、列国の軍備を制限せんとすることは実際不可能である。もし独逸が方針を一変して平和的となれば、世界平和は百尺竿頭更に一歩を進めるであろう。あるいはまた我が日本が名実共に世界的の大国の列に入っておるならば、日英両国連合して軍備制限の提議をなし、たとい直ちに実行は出来ざるまでも、列国をして真率に反省せしめる効果があるであろう。悲しい哉、日本は未だ世界に於てそれだけの地歩を占めていない。故に目下のところは平和の曙光を認めつつも、列強の兵力に応じて我もまた兵力を増減するの外はない。即ち我が国はここ当分の間は世界の風潮を指導するの力なきが故に、世界の風潮に伴うて進むの外はないのである。
しかし世界の風潮が漸次平和主義に傾きつつあることは事実である。実際、軍事費の負担は既にマキシマムに達し、人民の生活はミニマムまで下っておるのであるから、この上はもはや軍備競争の余地がない。もしこの上軍事費の負担を加えば、各国民共に一面に於ては益々平和の継続、戦争の絶滅を希求すると共に、社会主義的運動は一層激烈の度を加え来り、到底抑制すべからざるに至るであろう。各国の為政家も、人民も、今や漸く覚醒せんとしつつある。思うに軍備制限を実現し得るの時期も決して遠くはないであろう。ただカイゼルの在る間はこれを実行することは少しく困難であるかも知れないが、侵略的の行動を執るはカイゼルの一種の道楽で、独逸国民中には、むしろこれを喜ばないものが多いから、早晩我々の希望が実現せられて世界の平和を維持し、兵力を用いずして正義の力のみを以て国際間の紛議を決定するの時期が来ると思う。我々は須らくこの希望を抱いて、倦まず撓まず奮励努力すべきである。