探偵会話 下駄を探せ ――芝公園 女の殺人事件――

3話

561字 約1分 2018年5月17日 公開

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「――と思うね。行きあたりばったりの殺人だから、被害者の身許(みもと)がわかっても犯人との関係を手繰ってゆくわけにはゆかない。この点ちょっとむずかしいと思う。犯人の心理に入って考えればありふれた事件でしかないのだ。ただ僕がふしぎに思っているのは裸体の女の履き物、下駄がないということなんだ。着物などは売り飛ばすのに手頃だが、下駄みたいなものはどうにもならぬだろうし、犯人にしたって履き古した女の下駄まで大事に持ってゆくとは考えられない。草藪のどこかに裸体女の下駄がころがっているのではないだろうか。でなければこの女はどこから来た。或いは死体がはこばれて来た、というのだ? 身許を洗うにしてもこの行方不明の下駄に何か大きな手がかりが潜んでいるのではないかね……?(八月十八日記)

     *

 【付記】以上は十八日、探偵小説家海野十三氏によって書かれた芝公園事件への見透(みとお)しであるが、裸体女の殺害犯人は二十日検挙された――品川駅で知り合った被害者を就職を世話すると甘言(かんげん)をもって芝公園に誘い出し、暴行を加えたうえ、俄かに殺意を抱き絞殺、犯行をくらますために履物などを散らし隠していたのである。

 ――計画的に誘惑した女への突発的な殺意、前科に(おぼ)えのある大胆さ、履物の行方など……事件の経緯は海野氏の見透したとおりであった――(八月二十一日記)

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