ノベリズ
春の夜は
228字 約1分 1999年1月27日 公開
或三月の夜(よ)、僕はペンを休めた時、ふとニツケルの懐中時計の進んでゐるのを発見した。隣室の掛け時計は十時を打つてゐる。が、懐中時計は十時半になつてゐる。僕は懐中時計を置き火燵(ごたつ)の上に置き、丁寧(ていねい)に針を十時へ戻した。それから又ペンを動かし出した。時間と云ふものはかう云ふ時ほど、存外(ぞんぐわい)急に過ぎることはない。掛け時計は今度は十一時を打つた。僕はペンを持つたまま、懐中時計へ目をやると、――今度は不思議にも十二時になつてゐた。懐中時計は暖まると、針を早くまはすのかしら?
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