黄金豹

20話 売店の怪

1,964字 約4分 2017年8月10日 公開

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 それから三十分ほどたちました。あとから、かけつけた、おおぜいの警官が、駅員たちと力をあわせて、広い駅の構内を、すみからすみまで捜しましたが、(ひょう)はどこにもいないのです。

 そのあいだ、乗客は改札口からいれないで、待たせておいたのですが、つぎからつぎと電車や汽車が発着するので、いつまでも、そのままにしておくことはできません。豹が駅の中にいないことが、たしかめられると、いそいで、通行どめをときました。

 まだ六時まえですから、駅の中は、それほど混雑しているわけではありません。売店なども、まだ戸をしめたままのところが多いのです。

 出勤時間の早い、ひとりの若い女事務員が、売店の並んでいるところを通りかかりました。すると、一けんだけ戸をあけている店がありました。新聞や雑誌や本を売る店です。

 女事務員は、婦人雑誌を買おうと思って、その店の前に立ちましたが、店員のすがたが見えません。売場のうしろに、しゃがんでいるのかもしれないと思って、映画雑誌や週刊雑誌の、さげてあるすきまから、中をのぞいて見ました。

 やっぱり、そうでした。だれかが、その中に、しゃがんでいるのです。

「ねえ、この雑誌くださいな。」

 声をかけますと、売場の台のうしろから、ヌーッと、顔を出しました。

 それをひとめ見ると、若い女事務員は、みょうな声をたてたかと思うと、いきなり、そこへ、くなくなと倒れてしまいました。気をうしなったのです。

 なぜ気をうしなったのでしょう。それは、売場の台のうしろから、ヌーッと顔を出したのは、人間ではなかったからです。金色をした猛獣の恐ろしい顔だったからです。黄金豹は、いつのまにか、こんなところに、かくれていたのです。

 むこうから歩いてきた会社員が、女事務員の倒れているのに気がつきました。いそいで、かけよって、助けおこそうとしましたが、そのとき、チラッと店の中を見ると、そこに、黄金豹の顔がありました。会社員は、ギョッとしてとびのき、いちもくさんにかけ出しながら、叫びました。

「た、たいへんだあ。あすこに、あすこに、金色の豹がいる……。」

 きちがいのように、そんなことをわめいて走っているので、たちまち、四方から人が、集まってきました。

「どうしたんだ? しっかりしたまえ。」

「豹だ。しかも、金色のやつだ。あの雑誌の売店の中だ。」

 それを聞くと、人々は青くなって、はんたいのほうへ逃げだしました。そして、駅員に、そのことを知らせましたが、駅員も恐ろしくて、そこへ近よる勇気はありません。

 しかし、さいわいにも、さっきの警官隊の一部が、まだ駅に残っていて、すぐに、かけつけてくれました。

「どこだ。どの店だ。」

「あれです、あの雑誌売場です。」

 会社員が、逃げ腰になりながら、遠くから、そのほうを指さします。

「よしッ。」というので、ピストルを手にした五、六名の警官が、その売店へ、ふみこんでいきました。そのうちのひとりは、店の前に倒れていた女事務員をかかえて、こちらへつれてきます。

 ところが、どうでしょう。店の中には、なにもいなかったのです。怪獣は、またしても、消えうせてしまったのです。

「おい、このすみに、だれか、倒れている。手をかしてくれ。」

 ひとりの警官が叫びました。見ると、そのうす暗いすみっこに、若い女が倒れていました。うしろ手にしばられ、目かくしをされ、さるぐつわを、はめられています。

 いそいで縄をとき、さるぐつわをはずして、たずねてみますと、その女は、売店の女店員で、店を開いたばかりのところへ、だれかがはいってきて、うしろから、はがいじめにされ、縄をかけられてしまったというのです。

「それは、どんなやつだった。顔を見なかったか。」

「いきなりうしろから、組みつかれたので、顔なんか見えません。」

 女店員は、まったく、なにも知らないのです。うしろから組みついたのは、黄金豹だったのでしょうか。あいつは魔物ですから、女をしばったり、さるぐつわをはめたりすることが、できないともかぎりません。

 それから、また、そのへんの捜索がおこなわれましたが、なんのかいもありません。豹はどこにもいないのです。

 警官たちが捜しつかれて、もとの売店の前にもどり、相談をしていますと、そこへ、ひとりのじいさんが、ヒョロヒョロと近づいてきました。

 あの黒背広の、白ひげのじいさんです。じいさんは、警官たちの前に立ちどまって、にやにや笑いながら、こんなことをいうのでした。

「また、逃がしましたね。むりはない。あいつは魔物ですからね。煙のように、パッと消えるのです。警察のちからでも、どうにもできますまい。だが、これからが見ものですよ。あいつ、こんどはなにをやると思います。うふふふ……、きっと、あんたがたの、どぎもをぬくようなことを、しでかしますよ。」

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