宇宙怪人

15話 ヘリコプター

2,591字 約5分 2017年6月16日 公開

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 平野ゆりかさんは、ひとまず、ぶじにすみました。しかし、宇宙怪人の地球への来襲は、そんな小さな事件でおわるものではありません。宇宙怪人のひとりが、ふと、ゆりかさんのかわいらしさにひかされて、みちくさをしていたのです。ゆりかさんが、ぶじにたすかったその日のことです。世界の空を、電波がとびちがっていました。そして、世界じゅうのラジオがわめき、世界じゅうの新聞が、大きな活字で、おそろしいことを書きたてました。

 どこかの遠い星の世界から、地球のようすをさぐりにやってきた、トカゲ怪人は、まず、日本とアメリカにあらわれたばかりでなく、こんどは、ソビエトの都モスクワの空に、七つの円盤がとんだのです。そして、それがモスクワの郊外の、どこかに着陸して、中から、トカゲ怪人があらわれたことも、日本やアメリカと、そっくりでした。

 それからの一週間には、つぎからつぎと、おそろしいことがおこり、世界じゅうが、ひっくりかえるような、さわぎになったのです。

 空とぶ円盤は、ドイツの都ベルリンにもあらわれました。フランスのパリからも、円盤の飛ぶのを見たという無電がはいりました。イギリスにも、おなじようなうわさがおこり、そのほか、インドにも、中国にも、アフリカにさえも、円盤が飛んだというしらせがあり、ラジオは、きちがいのようにわめきたて、号外のすずが、町々に、ひびきわたりました。

 ほんとうに、地球はじまっていらいのさわぎです。こうして何千、何万という怪円盤が、地球におしよせ、その中から、トカゲのからだにコウモリのはねをもった、あの怪人種が、何万、何十万とあらわれたら、いったい、この地球の人間は、どうなるのでしょう。それを考えると、世界戦争どころのさわぎではありません。

 世界じゅうの人々が、おそろしさに、ふるえあがってしまいました。いまにも、地球の空が、かぞえきれない円盤と、トカゲ怪人で、まっ黒におおわれてしまうのではないか。そして、地球の人間の全滅するときが、近づいたのではないかと、もう生きたそらもないのでした。

 どこの国でも、政府は、科学者をよびあつめ、軍の参謀部と連絡して、宇宙怪人征伐(せいばつ)のてだてを、しんけんに相談しました。そして、このことで、国際会議がひらかれるうわささえありました。

 日本でも、だんだん、おそろしいことがおこっていました。えらい科学者が、ゆくえ不明になりました。有名な俳優が、どこかへ、すがたをけしてしまいました。アメリカでも、日本でも、世間にしられた、えらい人が、つぎつぎとさらわれていくのです。ラジオも、新聞記事も、毎日毎日、そのことばかりです。

 そのうちに、日本にいる宇宙怪人が、けっして、ひとりでないことがわかってきました。

 ある日、東京の新聞社の写真部員が、空からのけしきを、写真にとるために、操縦士とふたりで、ヘリコプターにのって、神奈川県のほうをまわって、夕がた、東京に帰ってきたのですが、そのとちゅうはるかに東京の町が見えはじめたころ、目のまえの空中に、みょうなものが、飛んでいるのに気がつきました。

「オイ、あれ、カラスじゃないね。へんな鳥だね。」

 写真部員が操縦士に言いました。

「コウモリみたいだね。」

「そうじゃない。よく見たまえ、はねはコウモリとそっくりだが、からだが、ちがうよ。アレッ、へんだな、あの鳥、洋服をきているよ。」

 そう言ったかとおもうと、写真部員は、まっさおになってしまいました。

 一つ、二つ、三つ、四つ……、かぞえてみると、同じかたちのやつが、八つも、飛んでいるのです。遠くのやつは小さく、点のように、近くのやつは大きく、奇妙な洋服すがたが、ハッキリ見えます。

「オイッ、宇宙怪人だぜ。どうする?」

 どうすると言って、武器をもたないヘリコプターでは、どうすることもできません。ただ、できるだけ早く、東京について、応援を、もとめるほかはないのです。

 やがて、近くを飛んでいた宇宙怪人が、すぐ目のまえに、あらわれました。

 ヘリコプターのガラスばりの操縦席と、スレスレのところを、二ひきの怪人が、大きなコウモリのはねをひろげて、飛んでいるのです。

 逃げようともしません。おそいかかってくるわけでもありません。

 二ひきの宇宙怪人は、こちらが、なにもできないことを知って、ヘリコプターの中の人間を、からかっているのです。へんな飛びかたをして見せたり、ガラスに顔をくっつけるばかりにして、あざけっているのです。

 二ひきの怪人は、れいの銀仮面をかぶっていました。帽子は、おりたたんで、ポケットへでも、しまっているのでしょう。頭も、かみの毛のかたちも銀色です。

 ヘリコプターの中のふたりは、くやしいけれども、どうすることもできません。ただ、東京の本社へと、いそぐばかりです。

 やがて、宇宙怪人は、いつまでもからかっていては、あぶないと思ったのか、ヘリコプターのそばをはなれて、はるかむこうの、なかまのほうへ、飛びさっていきました。そして、八つの怪コウモリのすがたは、だんだん小さくなり、まもなく、夕空にとけこむように、見えなくなってしまいました。

 機上のふたりは、あまりのことに、しばらくは、口もきけませんでした。おそろしい夢を見たような気持ちでした。しかし、やがて、東京の町の上にさしかかると、ふたりは、やっと、声が出るようになりました。

「オイ、とくだねだぜ、こいつは……。八ぴきいたね。宇宙怪人が、八ぴきも東京にいるなんて、だれも知らないんだからね。」

「そうだよ。しかも写真入りの特大記事だ。」

「エッ、きみ、写真とったのか。」

「ウン、むがむちゅうで、シャッターを切ったよ。あいつらに、さとられないようにね。そこは、おれの本職だからね。宇宙怪人の写真をとったのは、おれが世界でさいしょだろうぜ。」

 写真部員は、ほこらしげに言うのでした。

 まもなく、ヘリコプターが新聞社にもどり、編集部の全員が、ふたりのまわりを、とりかこんで、この話をきいたのです。そのときの新聞社のさわぎも、たいへんでしたが、よく日、この記事と写真を見た東京都民のおどろきは、ことばでは、言いつくせないほどのものでした。

 いつかは、宇宙怪人のむれで、東京の空が、まっ黒になるかもしれない。そして、地球のさいごが来るかもしれないというおそれが、人々をふるえあがらせてしまったのです。

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