小桜姫物語 03 小桜姫物語

15話 十二、愛馬との再会

1,973字 約4分 2012年10月9日 公開

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 岩屋(いわや)修行中(しゅぎょうちゅう)に、モー(ひと)つちょっと面白(おもしろ)(はなし)がございますから、(つい)でに申上(もうしあ)げることに(いた)しましょう。それは(わたくし)が、こちらで自分(じぶん)愛馬(あいば)再会(さいかい)したお(はなし)でございます。

 (まえ)にもお(はな)(いた)しましたが、(わたくし)三浦家(みうらけ)嫁入(よめい)りしてから(はじ)めて馬術(ばじゅつ)稽古(けいこ)をいたしました。最初(さいしょ)(うま)()るのが(なに)やら薄気味(うすきみ)(わる)いように(おも)われましたが、()って()ります(うち)にだんだんと乗馬(じょうば)()きになったと()うよりも、(むし)(うま)可愛(かわい)くなって()たのでございます。()()らした(うま)というものは、それはモー不思議(ふしぎ)なほど可愛(かわい)くなるもので、(こと)によると経験(けいけん)のないお(かた)には、その真実(ほんとう)(あじわ)いはお(わか)りにならぬかも()れません。

 (わたくし)愛馬(あいば)(もう)しますのは、良人(おっと)がいろいろと(さが)した(うえ)に、最後(さいご)に、これならば、と見立(みた)ててくれたほどのことがございまして、それはそれは()さしい、美事(みごと)牡馬(めうま)でございました。背材(せたけ)はそう(たか)くはございませぬが、総体(そうたい)地色(ぢいろ)(しろ)で、それに所々(ところどころ)(くろ)斑点(まだら)(まじ)った(うつく)しい毛並(けなみ)今更(いまさら)自慢(じまん)するではございませぬが、(まった)素晴(すば)らしいもので、(わたくし)がそれに()って外出(そとで)をした(とき)には、道行(みちゆ)(もの)(あし)()めて感心(かんしん)して見惚(みと)れる(くらい)でございました。ナニ乗者(のりて)見惚(みと)れたのではないかと()っしゃるか……。御冗談(ごじょうだん)ばかり、そんな酔狂(すいきょう)(もの)(ただ)一人(ひとり)だってございません。(わたくし)(うま)見惚(みと)れたのでございます……。

 そうそうこの(うま)命名(めいめい)につきましては、良人(おっと)(わたくし)との(あいだ)に、なかなかの悶着(もんちゃく)がございました。(わたくし)()さしい名前(なまえ)がよいと(おも)いまして、さんざん(かんが)()いた(すえ)にやっと『鈴懸(すずかけ)』という()(おも)いついたのでございます。すると良人(おっと)(わたくし)意見(いけん)(ちが)いまして、それは(あま)面白(おもしろ)くない、是非(ぜひ)若月(わかつき)』にせよと()()って、(なん)(もう)しても()()れないのです。(わたくし)内心(ないしん)不服(ふふく)でたまりませんでしたが、もともと良人(おっと)見立(みた)ててくれた(うま)ではあるし、とうとう『若月(わかつき)』と()ぶことになって(しま)いました。『今度(こんど)(わたくし)()けて()きます。しかしこの()ぎに()(うま)()(はい)った(とき)はそれは是非(ぜひ)鈴懸(すずかけ)()ばせていただきます……。』(わたくし)はそんなことを良人(おっと)(もう)したのを(おぼ)えて()ります。しかしそれから()もなく、あの北條(ほうじょう)との戦闘(いくさ)(おこ)ったので、(わたくし)(のぞ)みはとうとう()げられずに(おわ)りました。

 とに(かく)名前(なまえ)につきては最初(さいしょ)()んないきさつがありましたものの、(わたくし)若月(わかつき)()きで()きで(たま)らないのでした。(うま)(ほう)でも(また)(わたくし)によく馴染(なじ)んで、(わたくし)姿(すがた)()えようものなら、さもうれしいと()った表情(ひょうじょう)をして、あの(おお)きな(からだ)をすり()けて()るのでした。

 落城後(らくじょうご)(わたくし)があちこち流浪(るろう)をした(とき)にも、若月(わかつき)はいつも(わたくし)附添(つきそ)って、散々(さんざん)苦労(くろう)をしてくれました。で、(わたくし)臨終(りんじゅう)(ちか)づきました(とき)には、(わたくし)若月(わかつき)庭前(にわさき)()んで(もら)って、この()訣別(わかれ)()げました。『(おまえ)にもいろいろ世話(せわ)になりました……。』(こころ)(なか)でそう(おも)った(だけ)でしたが、それは(かな)らず(うま)にも(つう)じたことであろうと(かんが)えられます。これほど可愛(かわい)がった(せい)でもございましょう、(わたくし)岩屋(いわや)内部(なか)精神統一(せいしんとういつ)修行(しゅぎょう)をしている(とき)に、ある(とき)(おも)いも()らず、若月(わかつき)姿(すがた)(わたくし)()にはっきりと(うつ)ったのでございます。

(こと)によると若月(わかつき)()()んだのかも()れぬ……。』

 そう(かん)じましたので、お(じい)さまにお(たず)ねして()ますと、(はた)してこちらの世界(せかい)引越(ひきこ)して()るとの(こと)に、(わたくし)是非(ぜひ)()()(むかし)愛馬(あいば)()って()たくて(たま)らなくなりました。

(はなは)勝手(かって)なお(ねが)いながら、一()若月(わかつき)(もと)()れて()ってくださる(わけ)にはまいりますまいか……。』

『それはいと(やす)いことじゃ。』と(れい)(とお)りお(じい)さまは親切(しんせつ)(こた)へてくださいました。『(うま)(ほう)でもひどくそなたを(した)っているから一()()って()くがよい。これから一(しょ)()れて()って(あげ)げる……。』

 幽界(ゆうかい)では、何所(どこ)をドー(とう)って()くのか、途中(とちゅう)のことは(ほと)んど(わか)りませぬ。そこが幽界(ゆうかい)(たび)現世(げんせ)(たび)との(たい)した相違点(そういてん)でございますが、()(かく)私達(わたくしたち)は、(またた)()途中(とちゅう)(とお)()けて、()(ひと)つの(うま)世界(せかい)へまいりました。そこには見渡(みわた)(かぎ)(うま)ばかりで、(ほか)動物(いきもの)(ひと)つも()りません。しかし不思議(ふしぎ)なことには、どの(うま)もどの(うま)(みな)(たく)ましい駿馬(しゅんめ)ばかりで、毛並(けなみ)みのもじゃもじゃした、イヤに(あし)ばかり(ふと)駄馬(だば)などは何処(どこ)にも()かけないのでした。

(わたくし)若月(わかつき)(ここ)()るのかしら……。』

 そう(おも)(なが)ら、不図(ふと)(むか)うの野原(のはら)(なが)めますと、一(とう)白馬(はくば)(むれ)れを(はな)れて、()ぶが(ごと)くに私達(わたくしたち)(ほう)()()ってまいりました。それはいうまでもなく、(わたくし)(なつか)かしい、愛馬(あいば)でございました。

『まァ若月(わかつき)……(おまえ)、よく()てくれた……。』

 (わたくし)(こころ)から(うれ)しく、しきりに自分(じぶん)にまつわり()愛馬(あいば)(はな)を、いつまでもいつまでも(かる)()でてやりました。その(とき)若月(わかつき)のうれしげな面持(おももち)……(わたくし)(おぼ)えず(なみだ)ぐんで(しま)ったのでございました。

 しばらく(うま)と一(しょ)(あそ)んで、(わたくし)(たい)へん(かる)気持(きもち)になって(もど)って()ましたが、その()()()って()()にもなれませんでした。人間(にんげん)動物(どうぶつ)との(あいだ)愛情(あいじょう)にはいくらかあっさりしたところがあるものと()えます……。

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