小桜姫物語 03 小桜姫物語

26話 二十三、豐玉姫と玉依姫

2,024字 約4分 2012年10月9日 公開

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 ()もなく以前(いぜん)小娘(こむすめ)(ふたた)(あら)われました。

()うぞおあがりくださいませ……。』

 ()われるままに(わたくし)小娘(こむすめ)(みちび)かれて、御殿(ごてん)(なが)(なが)廊下(ろうか)幾曲(いくまが)り、ずっと(おく)まれる()()案内(あんない)されました。(へや)は十(じょう)(ばか)りの青畳(あおだたみ)()きつめた日本間(にほんま)でございましたが、さりとて日本風(にほんふう)白木造(しらきづく)りでもありませぬ。障子(しょうじ)欄間(らんま)床柱(とこばしら)などは黒塗(くろぬり)り、(また)(えん)欄干(てすり)(ひさし)、その()造作(ぞうさく)の一()丹塗(にぬ)り、と()った具合(ぐあい)に、とてもその色彩(いろどり)複雑(ふくざつ)で、そして濃艶(のうえん)なのでございます。(また)(とこ)()には一(ぷく)女神様(めがみさま)掛軸(かけじ)がかかって()り、その(まえ)には陶器製(とうきせい)竜神(りゅうじん)置物(おきもの)()えてありました。その竜神(りゅうじん)素晴(すば)らしい(いきおい)で、かっと(おお)きな(くち)()けて()たのが(いま)()(まえ)(のこ)って()ります。

 ()(はな)った障子(しょうじ)隙間(すきま)からはお(にわ)もよく()えましたが、それが(また)手数(てかず)()んだ(たい)そう立派(りっぱ)庭園(ていえん)で、樹草(じゅそう)泉石(せんせき)のえも()われぬ配合(はいごう)は、とても筆紙(ひっし)につくせませぬ。(きょう)銀閣寺(ぎんかくじ)金閣寺(きんかくじ)庭園(ていえん)数奇(すき)(かぎ)りを(つく)した、(たい)そう贅沢(ぜいたく)なものとかねてきき(およ)んで()りますので、()(とき)(わたくし)はこちらからのぞいて()たことがございますが、竜宮界(りゅうぐうかい)のお(にわ)(くら)べるとあれなどはとても段違(だんちが)いのように見受(みう)けられました。いかに意匠(いしょう)をこらしても、矢張(やは)現世(げんせ)現世(げんせ)だけの(こと)しかできないものと()えます……。

 ナニそのお(へや)乙姫様(おとひめさま)にお()にかかったか、と()ッしゃるか――ホホホ(たい)そうお()()ねでございますこと……。ではお(にわ)(はなし)などはこれで()()げて、早速(さっそく)乙姫様(おとひめさま)にお目通(めどお)りをしたお(はなし)(うつ)りましょう。――(もっと)(わたくし)がその(とき)()にかかりましたのは、玉依姫様(たまよりひめさま)(ほう)で、豐玉姫様(とよたまひめさま)ではございませぬ。(もう)すまでもなく竜宮界(りゅうぐうかい)(だい)一の乙姫様(おとひめさま)()ッしゃるのが豐玉姫様(とよたまひめさま)(だい)二の乙姫様(おとひめさま)玉依姫様(たまよりひめさま)、つまりこの両方(ふたかた)御姉妹(ごきょうだい)間柄(あいだがら)ということになって()るのでございますが、何分(なにぶん)にも竜宮界(りゅうぐうかい)(こと)はあまりにも(おく)(ふか)く、(わたくし)にもまだ御両方(おふたかた)関係(かんけい)がよく(わか)って()りませぬ。お二人(ふたり)(はた)して本当(ほんとう)御姉妹(ごきょうだい)間柄(あいだがら)なのか、それとも豐玉姫(とよたまひめ)御分霊(ごぶんれい)玉依姫(たまよりひめ)でおありになるのか、()うもその(へん)がまだ充分(じゅうぶん)(わたくし)()()ちないのでございます。ただしそれが()うあろうとも、この御二方(おふたかた)()っても()れぬ、(ふか)因縁(いんねん)姫神(ひめがみ)であらせられることは(たし)かでございます。(わたくし)()()幾度(いくたび)竜宮界(りゅうぐうかい)(まい)り、そして幾度(いくたび)御両方(おふたかた)にお()にかかって()りますので、幾分(いくぶん)その(へん)事情(じじょう)には(つう)じて()るつもりでございます。

 この豐玉姫様(とよたまひめさま)()われる御方(おかた)は、(だい)一の乙姫様(おとひめさま)として竜宮界(りゅうぐうかい)代表(だいひょう)(あそ)ばされる、(とうと)御方(おかた)だけに、矢張(やは)りどことなく貫禄(おもみ)がございます。(なん)となく、竜宮界(りゅうぐうかい)女王様(じょうおうさま)()った御様子(ごようす)自然(しぜん)にお(からだ)(そな)わって()られます。お年齢(とし)は二十七八(また)は三十(くらい)にお見受(みう)けしますが、もちろん神様(かみさま)実際(じっさい)のお年齢(とし)はありませぬ。ただ私達(わたくしたち)()にそれ(くらい)(おが)まれるというだけで……。それからお(かお)は、どちらかといえば(しも)ぶくれの面長(おもなが)眼鼻立(めはなだ)ちの(うち)何所(どこ)かが(とく)()()てて()いと(もう)すのではなしに、どこもかしこもよく(ととの)った、まことに品位(ひんい)(そな)わった、立派(りっぱ)御標致(ごきりょう)、そしてその御物越(おんものご)しは(いた)ってしとやか、(わたくし)どもがどんな無躾(ぶしつけ)事柄(ことがら)申上(もうしあ)げましても、(けっ)してイヤな(いろ)(ひと)つお()せにならず、どこまでも親切(しんせつ)に、いろいろと(おし)えてくださいます。その御同情(ごどうじょう)(ふか)いこと、(また)その御気性(ごきしょう)素直(すなお)なことは、どこの世界(せかい)(さが)しても、あれ以上(いじょう)御方(おかた)(また)とあろうとは(おも)われませぬ。それでいて、(おく)(ほう)には(りん)とした、(たい)そうお(つよ)いところも(おの)ずと(そな)わっているのでございます。

 (だい)二の乙姫様(おとひめさま)(ほう)は、豐玉姫様(とよたまひめさま)(くら)べて、お年齢(とし)もずっとお(わか)く、やっと二十一か二か(くらい)(おも)われます。お(かお)はどちらかといえば円顔(まるがお)()るからに(たい)そうお陽気(ようき)で、お召物(めしもの)などはいつも(おも)()った華美造(はでつく)り、丁度(ちょうど)(さくら)(はな)が一()にぱっと()()でたというような(おもむき)がございます。(わたくし)(はじ)めてお()にかかった(とき)のお服装(なり)は、上衣(うわぎ)(しろ)薄物(うすもの)で、それに幾枚(いくまい)かの色物(いろもの)下着(したぎ)(かさ)ね、(おび)(まえ)(むす)んでダラリと()れ、その(ほか)幾条(いくすじ)かの、ひらひらした(なが)いものを()きつけて()られました。これまで(わたくし)どもの()っている服装(ふくそう)(なか)では、一(ばん)弁天様(べんてんさま)のお服装(みなり)()()るように(おも)われました。

 ()(かく)この両方(ふたかた)竜宮界(りゅうぐうかい)()っての花形(はながた)であらせられ、お(かお)もお気性(きしょう)も、何所(どこ)やら共通(きょうつう)(ところ)があるのでございますが、しかし()きつづいて、幾代(いくだい)かに(わた)りて御分霊(ごぶんれい)()して()られる(うち)には、御性質(ごせいしつ)相違(そうい)次第次第(しだいしだい)(つよ)まって()き、(すえ)人間界(にんげんかい)(ほう)では、豐玉姫系(とよたまひめけい)玉依姫系(たまよりひめけい)との区別(くべつ)()なりはっきりつくようになって()ります。(がい)して豐玉姫(とよたまひめ)系統(けいとう)()いたものは、あまりはしゃいだところがなく、どちらかといえばしとやかで、引込思案(ひっこみじあん)でございます。これに(はん)して玉依姫系統(たまよりひめけいとう)(かた)(いた)って陽気(ようき)で、(すす)んで人中(ひとなか)にも()かけてまいります。ただ人並(ひとなみ)みすぐれて情義深(なさけふか)いことは、お両方(ふたかた)共通(きょうつう)美点(みてん)で、矢張(やは)御姉妹(ごきょうだい)血筋(ちすじ)(あらそ)われないように見受(みう)けられます……。

 あれ、(また)しても(はなし)側路(わきみち)へそれて先走(さきばし)って(しま)いました。これから(あと)(もど)って、(わたくし)(はじ)めて玉依姫様(たまよりひめさま)にお()にかかった(とき)概況(がいきょう)申上(もうしあ)げることに(いた)しましょう。

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