小桜姫物語 03 小桜姫物語

51話 四十八、妖精の世界

1,324字 約3分 2012年10月9日 公開

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 竜神界(りゅうじんかい)天狗界(てんぐかい)と、まるきり人間(にんげん)には見当(けんとう)のとれそうもない、別世界(べっせかい)のお(はなし)(いた)した(つい)でに、(ひと)(おも)()ってもっと見当(けんとう)のとれない()世界(せかい)物語(ものがたり)をさせていただきましょう。(ほか)でもない、それは妖精(ようせい)世界(せかい)のお(はなし)でございます。

研究(けんきゅう)()めに(そち)()せてやらねばならぬ不思議(ふしぎ)世界(せかい)がまだ(のこ)っている。』と、()()指導役(しどうやく)のお(じい)さんが(わたくし)(もう)されました。『人間(にんげん)(くさ)()をただ(くさ)()とのみ(かんが)えるから、矢鱈(やたら)(はな)を《むし》ったり、(えだ)()ったり、(はなは)だしく(こころ)なき真似(まね)をするのであるが、(じつ)()うと、(くさ)にも()にも(みな)(せい)……つまり(たましい)があるのじゃ。(せい)があればこそあんなにも(せい)(たの)しみ、あんなにも(うつく)しい姿態(すがた)(つく)りて、(かぎ)りなく子孫(しそん)(つた)えて()くのじゃ。今日(きょう)(そち)(みぎ)妖精達(ようせいたち)()()わせてやるから、()るべく無邪気(むじゃき)気持(きもち)で、彼等(かれら)()ってもらいたい。妖精(ようせい)というものは姿(すがた)可愛(かわい)らしく、(こころ)(わか)く、(すこ)しくこちらで敵意(てきい)でも(しめ)すと、(みな)(こわ)がって何所(いずこ)とも()れず姿(すがた)()して(しま)う。人間界(にんげんかい)妖精(ようせい)姿(すがた)()(もの)が、(たい)てい無邪気(むじゃき)小児(しょうに)(かぎ)るのもその(せい)じゃ。今日(きょう)見物(けんぶつ)天狗界(てんぐかい)竜神界(りゅうじんかい)(おお)がかりな探検(たんけん)とはよほど勝手(かって)(ちが)うぞ……。』

 ()んな(こと)(はな)してくれながら、お(じい)さんは(わたくし)(うなが)して(やま)修行場(しゅぎょうば)出掛(でか)けたと(おも)うと、そのまま一()途中(とちゅう)()()して、(たちま)ち一(ぼう)()(はる)かなる、(ひろ)(ひろ)野原(のはら)()(しま)いました。()ればそこら(じゅう)が、きれいな草地(くさち)で、そして恰好(かっこう)()いさまざまの樹草(じゅそう)……(まつ)(うめ)(たけ)、その()があちこちに点綴(てんせつ)して()るのでした。

『ここは妖精(ようせい)見物(けんぶつ)には誂向(あつらえむ)きの場所(ばしょ)じゃ。(たい)ていの種類(しゅるい)(そろ)って()るであろう。よく()をつけて()るがよい。』

 そう注意(ちゅうい)されている(うち)に、もう(わたくし)()には蝶々(ちょうちょう)のような羽翼(はね)をつけた、(おおき)さはやっと二三(ずん)から三四寸位(すんくらい)の、可愛(かわい)らしい小人(こびと)(むれ)がちらちら(うつ)って()たのでした。

『まあ(なん)という不思議(ふしぎ)世界(せかい)があればあったものでございましょう!』と(わたくし)はわれを(わす)れて、夢中(むちゅう)になって(さけ)びました。『お(じい)さま、彼所(あそこ)()ゆる十五、六(さい)(くらい)少女(しょうじょ)(なんと)品位(ひん)()様子(ようす)をして()ることでございましょう。衣裳(いしょう)(しろ)羽根(はね)(しろ)、そして(しろ)(ひも)(ひたい)鉢巻(はちまき)をして()ります……。あれは(なん)(せい)でございますか?』

『あれは(うめ)(せい)じゃ。若木(わかき)(うめ)であるから、その(せい)矢張(やは)少女(しょうじょ)姿(すがた)をして()る……。』

()(せい)でも矢張(やは)年齢(とし)をとりまするか?』

年齢(とし)をとるのは妖精(ようせい)人間(にんげん)同一(どういつ)じゃ。老木(ろうぼく)(せい)は、(かたち)(ちい)さくとも、矢張(やは)老人(ろうじん)姿(すがた)をして()る……。』

『そして矢張(やは)男女(だんじょ)区別(くべつ)がありまするか?』

無論(むろん)男女(だんじょ)区別(くべつ)があって、夫婦生活(ふうふせいかつ)(いとな)むのじゃ……。』

 そう()っている(うち)に、(くだん)(うめ)(せい)は、しばらく私達(わたくしたち)(ほう)(めず)らしそうに(なが)めて()ましたが、こちらに害意(がいい)がないと()って安心(あんしん)したものか、やがてスーッと、丁度(ちょうど)蜻蛉(とんぼ)のように、(そら)横切(よこき)って、(わたくし)足元(あしもと)()(きた)り、その無邪気(むじゃき)な、(ほがら)かな(かお)()みを(たた)えて、(した)から(わたくし)見上(みあ)げるのでした。

 不図(ふと)()がついて()ると、その小人(こびと)躰中(からだじゅう)から発散(はっさん)する、(なん)ともいえぬ高尚(こうしょう)香気(におい)! (わたくし)はいつしかうっとりとして(しま)いました。

『もしもし(うめ)(せい)さん、あなたは(なん)とまあ()(におい)()てていなさるのです……。』

 そう()いながら、(わたくし)()るべく先方(むこう)(おどろ)かさないように、(しず)かに(しず)かに(こし)(おろ)して、この可愛(かわい)少女(しょうじょ)とさし(むか)いになりました。

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