小桜姫物語 03 小桜姫物語

6話 三、輿入れ

1,707字 約3分 2012年10月9日 公開

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 やがて(わたくし)娘時代(むすめじだい)にも(おわ)りを()ぐべき時節(じせつ)がまいりました。(おんな)の一(しょう)大事(だいじ)はいうまでもなく結婚(けっこん)でございまして、それが幸不幸(こうふこう)運不運(うんふうん)(おお)きな岐路(わかれみち)となるのでございますが、(わたくし)とてもその(かた)から(はず)れる(わけ)にはまいりませんでした。(わたくし)三浦(みうら)(とつ)ぎましたのは丁度(ちょうど)二十歳(はたち)(はる)山桜(やまざくら)真盛(まっさか)りの時分(じぶん)でございました。それから荒井城内(あらいじょうない)の十幾年(いくねん)武家生活(ぶけせいかつ)……随分(ずいぶん)(たの)しかった(おも)()種子(たね)もないではございませぬが、(なに)(もう)してもその(ころ)殺伐(さつばつ)空気(くうき)(みなぎ)った戦国時代(せんごくじだい)北條某(ほうじょうなにがし)とやら(もう)老獪(ずる)成上(なりあが)(もの)から戦闘(たたかい)(いど)まれ、幾度(いくたび)かのはげしい合戦(かっせん)挙句(あげく)(はて)が、あの三(ねん)()しの(なが)籠城(ろうじょう)、とうとう武運(ぶうん)(つたな)三浦(みうら)の一(ぞく)は、良人(おっと)をはじめとして(ほと)んど全部(ぜんぶ)(しろ)(まくら)打死(うちじに)して(しま)いました。その時分(じぶん)不安(ふあん)焦燥(しょうそう)無念(むねん)痛心(つうしん)……(いま)でこそすっかり精神(こころ)平静(へいせい)()(もど)し、(べつ)にくやしいとも、(かな)しいとも(おも)わなくなりましたが、当時(とうじ)(わたくし)どもの(むね)には(まさ)修羅(しゅら)業火(ごうか)炎々(えんえん)()えて()りました。(はず)かしながら(わたくし)は一()神様(かみさま)(うら)みました……(ひと)(のろ)いもいたしました……何卒(どうぞ)その(ころ)物語(ものがた)(だけ)差控(さしひか)えさせて(いただ)きます……。

 大江家(おおえけ)一人娘(ひとりむすめ)何故(なぜ)他家(よそ)(とつ)いだか、と(おお)せでございますか……あなたの(さそ)()しのお上手(じょうず)なのにはほんとうに(こま)って(しま)います……。ではホンの(はなし)筋道(すじみち)だけつけて(しま)うことに(いた)しましょう。現世(げんせ)人間(にんげん)としては矢張(やは)現世(げんせ)(はなし)興味(きょうみ)()たるるか(ぞん)じませぬが、(わたくし)どもの境涯(きょうがい)からは、そう()った地上(ちじょう)事柄(ことがら)はもう(べつ)面白(おもしろ)くも、おかしくも(なん)ともないのでございます……。

 (わたくし)三浦家(みうらけ)への嫁入(よめい)りにつきましては(べつ)(ふか)仔細(しさい)はございませぬ。良人(おっと)(わたくし)(ちち)見込(みこ)んだのでございます。『たのもしい人物(じんぶつ)じゃ。あれより(ほか)にそちが良人(おっと)(かしづ)くべきものはない……』ただそれっきりの事柄(ことがら)で、(わたくし)はおとなしく(ちち)(おお)せに服従(ふくじゅう)したまででございます。現代(いまのよ)人達(ひとたち)から頭脳(あたま)(ふる)いと(おも)われるか(ぞん)じませぬが、(ふる)いにも、(あた)らしいにも、それがその時代(じだい)(おんな)(みち)だったのでございます。そして(ちち)のつもりでは、私達(わたくしたち)夫婦(ふうふ)(あいだ)男児(だんし)(うま)れたら、その一人(ひとり)大江家(おおえけ)相続者(そうぞくしゃ)(もら)()ける下心(したごころ)だったらしいのでございます。

 見合(みあ)いでございますか……それは矢張(やは)見合(みあ)いもいたしました。良人(おっと)(ほう)から実家(さと)(たず)ねてまいったように記憶(きおく)して()ります。(いま)(むか)(おな)じこと、(わたくし)両親(りょうしん)から()ばれて挨拶(あいさつ)()たのでございます。その(ころ)良人(おっと)はまだ(わこ)うございました。たしか二十五(さい)横縦(よこたて)(そろ)った、筋骨(きんこつ)(たくま)ましい大柄(おおがら)男子(おとこ)で、(いろ)(あま)(しろ)(ほう)ではありません。目鼻立(めはなだち)尋常(じんじょう)(ひげ)はなく、どちらかといえば面長(おもなが)で、眼尻(めじり)()った、きりっとした容貌(かおだち)(ひと)でした。ナニ歴史(れきし)に八十人力(にんりき)荒武者(あらむしゃ)(しる)してある……ホホホホ良人(おっと)はそんな怪物(ばけもの)ではございません。弓馬(きゅうば)(みち)()()れる、武張(ぶば)った(ひと)ではございましたが、八十人力(にんりき)などというのは(うそ)でございます。気立(きだ)ても存外(ぞんがい)()さしかった(ひと)で……。

 見合(みあい)(とき)良人(おっと)服装(ふくそう)でございますか――服装(ふくそう)はたしか狩衣(かりぎぬ)(はかま)穿()いて、お(さだ)まりの大小(だいしょう)二腰(ふたこし)、そして()には中啓(ちゅうけい)()って()りました……。

 婚礼(こんれい)(しき)のことは、それは何卒(どうぞ)おきき(くだ)さらないで……格別(かくべつ)(かわ)ったこともございません。調度類(ちょうどるい)前以(まえもっ)先方(せんぽう)(おく)(とど)けて()いて、(あと)から駕籠(かご)にのせられて、(おお)きな行列(ぎょうれつ)(つく)って()()んだまでの(はなし)で……(しき)はもちろん夜分(やぶん)()げたのでございます。すべては(みな)(ゆめ)のようで、今更(いまさら)その当時(とうじ)(おも)()して()たところで(なん)興味(きょうみ)(おこ)りません。こちらの世界(せかい)引越(ひきこ)して(しま)へば、めいめい()きが(ちが)って、ただ自分(じぶん)(あゆ)むべき(みち)を一(しん)不乱(ふらん)(あゆ)(だけ)(したが)って親子(おやこ)も、兄弟(きょうだい)も、夫婦(ふうふ)も、こちらではめったにつきあいをしているものではございません。あなた(がた)もいずれはこちらの世界(せかい)引移(ひきうつ)って()られるでしょうが、その(とき)になれば(わたくし)どもの現在(げんざい)心持(こころもち)がだんだんお(わか)りになります。『そんな時代(じだい)もあったかナ……』(とお)(とお)現世(げんせ)出来事(できごと)などは、ただ一(ぺん)幻影(げんえい)()して(しま)います。現世(げんせ)(はなし)大概(たいがい)これで(よろ)しいでしょう。(はや)くこちらの世界(せかい)物語(ものがたり)(うつ)りたいと(おも)いますが……。

 ナニ(わたくし)()ぬる前後(ぜんご)事情(じじょう)物語(ものがた)れと()っしゃるか……。それではごく手短(てみじ)かにそれだけ申上(もうしあ)げることに(いた)しましょう。今度(こんど)こそ、いよいよそれっきりでおしまいでございます……。

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