26話 ニコラ博士の秘密
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ああ、ごらんなさい。はれわたった月光の空を、黒いマントをひるがえした、スーパーマンが、とんでくるのです。
これこそニコラ博士にちがいありません。博士のほかに、空をとべるやつがあろうとは思えないからです。
両手をグッと前につきだして、風をきってとぶスーパーマンは、お堂の上までくると、その屋根のまわりを、グルグルと、まわりはじめました。地上五十メートルほどの高さです。ニコラ博士は、そこから、下界のようすを、見とどけようとしているのです。
敵は、高い空中にいるのですから、どうすることもできません。ピストルを撃とうにも、あまり高いので、もしあいてを、ころしてしまうようなことがあっては、たいへんですから、それもできないのです。
ニコラ博士は、こちらをばかにしたように、いつまでも、お堂の上を、グルグル、グルグル、まわっていましたが、やがて、むこうの森のような木立ちの上へとんでいって、姿が、見えなくなってしまいました。
「森の中におりたのかもしれないぞ。」
少年のひとりが、大きな声でいいました。
いまに、こちらに出てくるだろうと、みんな、ゆだんなく、まちうけました。小林君はピストルをかまえることをわすれませんでした。
しかし、いくらまっても、ニコラ博士は出てくるようすがありません。どこかへ、とびさってしまったのでしょうか。それとも、森の中におりて、なにかたくらんでいるのではないでしょうか。
みんなはもう、まちきれなくなりました。
「森の中にはいって、ようすを見ることにしよう。」
小林君は、とうとう、しびれをきらして、森の中にはいってみる決心をしました。明智探偵もいっしょにいってくれることになりました。
少年探偵団員たちは、みんな小型の懐中電灯をもっていますので、てんでに、それをふりてらしながら、まっくらな森の中にはいっていくのです。小林団長はピストルをにぎって、先に立っています。
ひとかかえも、ふたかかえもあるような、大きなヒノキなどが、たちならんでいます。
懐中電灯はたくさんあっても、みんな万年筆型の小さいのですから、たいして明るくはありません。いやにチロチロして、なんだか、そのへんに、あやしいやつがかくれているような気がします。
木のみきから、木のみきを、グルグルまわって、すすんでいきましたが、森のまんなかへんにきたとき、とつぜん、ガサガサという音がしたかと思うと、先に立っていた小林君の頭の上から、なにか大きなものが、サーッとおちてきました。
アッというまに、小林君は、そこにたおれていました。
「だれだっ。きさま、ニコラ博士だなっ。」
小林君は、大声にさけびましたが、ふと気がつくと、右手ににぎっていたピストルが、ありません。
「ワハハハハハ、いかにも、おれはニコラ博士だ。小林君、きみのピストルは、いまもらったよ。こっちのは、おれのピストルだ。つまり二梃拳銃さ。きみたちは、だれももうピストルはもっていない。こうなったら、おれの命令にしたがうほかはないね。さあ、そこをのくんだ。ニコラさまのお通りだ。」
少年たちは、みんな、あとじさりをして、道をあけました。コウモリのようなマントをきた、白ひげのニコラ博士は、ゆうゆうとその間をとおって、森の外に出ていきました。
だれもてむかうものはありません。少年たちがおそれをなしたのは、むりがないとしても、名探偵明智小五郎は、いったい、どうしたのでしょう。ふしぎなことに、そのへんに、姿が見えません。まさかにげだしてしまったわけではないでしょう。いや、にげだすどころか、そのとき、明智探偵は、ニコラ博士に気づかれぬよう、ある場所で、ひじょうにだいじな仕事をしていたのです。
森を出たニコラ博士は、お堂の前に立っていた園田さんのそばへ、両手にピストルをかまえながら、近づいていきました。
「おい、さっき小林からうけとった、ダイヤモンドを、おれにわたせ。おれはニコラ博士だ。いうことをきかなければ、きみの命がないぞ。」
地の底からひびいてくるような、いやな声です。二梃のピストルをつきつけられては、命令にしたがうほかはありません。園田さんは、ポケットから「青い炎」をとりだして、博士の前に、さしだしました。博士はそれをうけとって、
「よし、よし、これでおれも、約束をはたしたわけだね。ワハハハハハ、じゃあ、あばよ。」
といいすてて、また森の中へはいっていきました。
少年たちは、まだ森の中にいましたが、だれもこの怪人にてむかうものはありません。
やがて、さっき小林君の上から、とびおりた、大きなヒノキのそばへくると、二梃のピストルを、両方のポケットにいれ、いきなり、そのみきにすがりついて、木のぼりをはじめました。まるでサルのように、木のぼりがうまいのです。たちまち、枝や葉のしげった中に、姿が見えなくなってしまいました。
小林少年は、べつの木のみきにかくれて、そっとそのようすを見ていました。懐中電灯はつけなくても、やみに目がなれて、ぼんやりと、そのへんが見えるのです。
小林君は、いまに木の上で、どんなことがおこるかを、あらかたさっしていましたので、それをたのしみにして、まちかまえているのです。
ここで、お話は、そのヒノキの上の枝葉のしげった中にうつります。
ニコラ博士は、二梃のピストルをポケットにいれ、両手で木のみきをかかえながら、第一の横枝から、第二の横枝へと、だんだん上のほうへ、のぼっていきました。
そして、第三の横枝にのぼりついたときです。ハッと気がつくと、両方のポケットが、かるくなっていました。
びっくりして、足でからだをささえ、両手でポケットをさぐってみますと、ピストルがありません。二梃ともなくなっているのです。
ふしぎです。おとしたはずはありません。ひょっとしたら、この木にはサルかなんかがいて、ピストルを、よこどりしたのではないでしょうか。
「ウフフフフ、ニコラ博士、びっくりしているね。ぼくだよ、明智小五郎だよ。ピストルは、ぼくがちょうだいして、下へなげおとしてしまったのだよ。これで、きみもぼくも、武器がなくなったのだから、ごかくの戦いができるというものだ。」
ああ、名探偵はここにかくれて、ニコラ博士のかえってくるのを、まっていたのです。博士はスーパーマンのように、空をとぶためには、どうしても、この木のてっぺんに、かえってこなければならないわけがあったのです。明智探偵は、そのことを、ちゃんと知っていました。
明智は、さらに、ことばをつづけます。
「ぼくがどうしてこんなところにいるか、そのわけは、きみももう、さっしているだろうね。
いうまでもなく、きみの空とぶ羽根を、こわしてしまうためさ。きみがどうして、スーパーマンのように、空をとぶか、その秘密を、ぼくは知っているのだ。数年前、あるフランス人が、人間が背中につけてとべる、ヘリコプターを小さくしたような機械を発明した。日本にたったひとり、その機械を買いいれたやつがいる。きみはそれを使ってスーパーマンのまねをしていたのだ。夜や、うすぐらい日には、プロペラが見えないので、いかにもスーパーマンがとんでいるように思うのだ。
きみは、その機械を、この木のてっぺんにかくしておいて、ダイヤモンドをうばうために、おりていったが、それが手にはいったので、またプロペラを背中につけて、空へとびたつために、ここにもどってきた。だが、もうだめだよ。あの機械は、きみが下におりているうちに、ぼくがこわしてしまった。きみはもうとべないのだ。スーパーマンが飛行の術をうしなってしまったのだ。」
そのとき、パッと、二つのまるい光がいれちがって、まっくらな木の葉の中に、二つの人間の顔が、明るくてらしだされました。
明智探偵と、ニコラ博士とが、それぞれ懐中電灯をとりだして、あいての顔をてらしたのです。