火星兵団

14話 9 ああ天狗岩(6)

8,051字 約16分 2007年2月15日 公開

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 同じ夜のことであった。

 崖の上に並んでいる蟻田博士の天文台では、新田先生が、昼間からぶっ通しで、望遠鏡をのぞいていた。

「おい、新田。お前は、なかなかがんばり屋だのう。たのもしい奴じゃ」

 と、蟻田博士が、いつになく新田先生をほめて、椅子から立って来た。博士もなかなかがんばり屋で、この天文台へかえって来てからは、ぶっ通しで、本を読んだり、しきりに鉛筆をはしらせて、むずかしい計算をするなど、勉強をつづけていたのであるが、その博士が、今になって、やっと新田先生の熱心さに気がついたのであった。

「おほめにあずかって、恐れ入ります。しかし私は、モロー彗星の衝突が起っても、何とかして地球の人類を助けたいのです。それを考えると、じっとしていられないのです」

 新田先生は、その問題のため、全く熱中していたのである。千二少年が無実の罪におちているのを早く助け出したいと思っていた先生であるが、博士からモロー彗星のことを聞くと、更にこの方の事件がたいへん急に迫った問題だと考えたので、何とかして、人類を惨禍から救う道がないかと、その糸口をみつけることに熱中していたわけであった。

 何しろ、天文のことについては、蟻田博士が、世界中で一番よく知っている。博士のそばにいる間に、せめて問題解決の糸口でも見つけておかないと、後がたいへんである。気まぐれな蟻田博士は、いつまた気がかわって、どこかへ姿をかくしてしまうかもしれないのだ。今のうちだと思って、新田先生は、しきりに勉強をしているわけだった。

 実は、こうして、望遠鏡ばかりのぞいていることについては、先生に一つの考えが、あってのことだった。

 新田先生の考えというのは、外でもない。それは、天空に飛去ったはずの火星のボートの姿を、この望遠鏡の中にとらえることなのである。

 火星のボートの話は、うそではないと先生は信じていた。あの千二少年が、うそをつくような少年ではないし、また千二少年が、枯尾花を幽霊と見ちがえるような、そんな臆病者でもないと信じていたのである。

 火星のボートは、一たん天狗岩の上に下りたが、それから間もなく姿を消してしまった。一体どうしたのであろうか。その火星のボートは?

 新田先生の思うには、火星のボートは、千二の父親の見ている目の前で、天狗岩から天空はるかに飛去ったのにちがいない。火柱が見えたというのは、火星のボートというのは、じつはロケットであって、ロケットのお尻から強くふきだすガスが、火柱に見えたのであろうと考えていた。

 しかしこの方は、なにぶんにもおかしくなった千蔵の言うことだから、あてにはならない。

 それで、とにかく例の天狗岩に姿をあらわし、そうしてまた天狗岩から飛去ったものが火星のボートであるとしたら、それは地球をあとに、火星へどんどん帰っていったにちがいない。

 ところで、火星と地球とのへだたりは、たいへん遠い。火星のボートが、火星へかえりつくのには、どんなに早く天空を飛んでいったにしろ、一週間や二週間はかかるであろう。そういうわけなら蟻田博士の自慢の大望遠鏡で宇宙をさがしていると、きっとその火星のボートといわれるものが、見つかるにちがいない。見つかれば、そこではじめて、火星のボートであったことが、ほんとうだとわかるし、さらにすすんで、火星のボートの秘密もいろいろとわかるにちがいない。

「何を観測しているのかね」

 と、蟻田博士は、望遠鏡のそばへ寄って来た。

「ああ、博士。ちょっと待って下さい」

 新田先生は、そう言って、博士をとどめた。ちょうどその時、新田先生は、望遠鏡の中に、赤い点のようなものが、ぶるぶるふるえながら、動いていくのを見つけていたのであった。

(これが、例の火星のボートではないかしらん)

 新田先生は、胸をわくわくおどらせながら、しきりに接眼レンズを前後に動かした。

 すると、例の赤い点のようなものが、だんだんはっきりして来て、やがて砲弾をうしろから見るような形をしていることや、その尾部からガスらしいものを、しゅうしゅうとふき出していることまでが、はっきり見えて来たのであった。

「あっ、見つけた」

 新田先生は、思わず声をあげた。たしかに火星のボートといわれる一種のロケットであった。しきりに上下左右にゆれてはいるが、火星のボートは、いつも同じ尾部を見せていた。スピードをあげ、どんどん前進していくところらしい。その行手は、やはり火星なのであろうか。

「何を見つけたのかね。ちょいと、望遠鏡をわしに貸しなさい」

 蟻田博士は、新田先生の体をおしのけるようにして、望遠鏡に目をあてた。そうして、しばらくピントを直していたが、そのうちに、大きな声をあげた。

「おや、これはめずらしいものにお目にかかるぞ」

 新田先生は、博士のうしろから、

「博士、そこに見えている、動く物体は、一体何でしょうか」

 と、せきこんで質問の矢を放った。

「これかい。これは宇宙艦さ」

 博士は、それを宇宙艦と呼んだ。

 怪人丸木は、それを火星のボートと言ったのである。

 新田先生は、口の中で、

(なに、宇宙艦! 宇宙艦とは?)

 と、くりかえした。宇宙を走るから、宇宙艦というのであろうか。

 博士は、望遠鏡に食いついたようになって、しきりにその宇宙艦のあとを目でおいかけている。

「おお、まちがいなく宇宙艦だ」

「博士、宇宙艦というのは何ですか」

「宇宙艦は何だと聞くのかね。宇宙艦は、わしの友人が、一度報告書に書いたことがあった。しかし、誰もその友人の報告書を信用しなかったし、その友人はまもなく急死してしまったのだよ。結局、その友人は、脳に異状があったため、ありもしないそんな変なものを見たように、報告したのであろうということだった。わしも、正直に言えば、その友人が、変になっていたのだと思っていた。が、これはどうだ。その友人の報告書に書いてあったとおりの形をした宇宙艦が、今レンズの向こうに見えているではないか。しかも、さかんにうごいている!」

 博士は、すっかりその宇宙艦に、気をうばわれている様子であった。

「博士、その宇宙艦というのは、どこの国で作ったものですか」

「作った国は、どこだというのかね。さあ、わしはまだよく研究していないが、さっき話したわしの友人は、ドイツの空軍研究所が、試験的に作ったものであろうと書いてあった。もっとも、ドイツの当局では、そんなばかな話はないと、さかんにうち消していたがね」

「博士は、あの宇宙艦が、ドイツで出来ると思っておられますか」

「いや、そうは思わない」

 蟻田博士は、望遠鏡の中にうごめく宇宙艦を、しきりに観察しながら、新田先生と話を続けている。

 博士は、その宇宙艦が、いつだか博士の友人のドイツ人が報告書にのせ、人々の注意をうながした宇宙艦だと言った。新田先生は、その宇宙艦は、ドイツ人に作れるかと、重ねて尋ねたが、博士は、いや、ドイツ人には作れないであろうと答えたのだった。

 そこで、新田先生は、急に頭の血管が、ちぢまったように感じた。先生はせきこんで博士に尋ねた。

「じゃあ博士、あの宇宙艦は、どこの国で作ったものだとお考えになるんですか」

「うむ。さあ、そのことだが……」

 博士は、すぐには、返事をしなかった。そうして、なおもしきりに、望遠鏡のレンズを動かしつづけた。

「博士、それは一体、どうなんでしょうか」

「うむ、待ってくれ」

 と、博士は、苦しそうにうめいた。

 新田先生はいらだって、もうだまっていられない様子だった。彼は、博士の洋服をつかむと、

「博士、私は、あの宇宙艦が、どこで作られたか、知っているのです」

「なんじゃ、お前が知っているって。ほほう、そんなはずはない。なにをお前は、ばかばかしいことを言出すのじゃ。あははは」

「いや、博士、私は申します。あれは、火星国でつくられた宇宙艦なのです。そうして、あの宇宙艦は、これまでにたびたび、この地球にやって来たことがあるのです。いかがですか、博士」

「ややっ、どうしてお前は、そんなことを知っているのか」

 博士は始めて望遠鏡から目を離すと、新田先生の顔を、穴のあくほど、じっと見すえたのであった。

 博士の目は、ゴムまりのように大きく開いて、新田先生を見すえた。

「おい新田、お前はどこでそんなことを聞きこんだのか。それともお前は、おかしくなったのではないか」

 博士は、新田先生をつまらん弟子だと思い、いい加減にあしらって来たのであるが、とつぜん博士の心にちくりと痛い質問を投げかけたばかりか、その果に、宇宙艦が火星国でつくられたことを、新田先生に言いあてられて、びっくりした。

 それもそのはずであった。宇宙の秘密、殊に火星の事情などは、蟻田博士以外に誰も知る者がないと思っていたのに、とつぜん新田先生にあばかれてしまって、博士のおどろきは、一方(ひとかた)でなかった。

 博士は、元来世間の事情にうとい人であったから、天狗岩事件が新聞に出たことなどには、気がついていないらしかった。

 新田先生は、そこで改めて、千二少年の話、火星のボートが天狗岩へ来たこと、それから怪人丸木が殺人事件を起してまで、ボロンの壜をうばって逃げたことなどを、すっかり博士に話をしたのであった。

 博士は、たいへん真剣な顔になって、一々、ふむふむとうなずきながら、新田先生の話に耳をかたむけた。

 話しおわって、新田先生は、ここぞと思って博士に重大な質問を放った。

「博士は、丸木という怪人物について、なにか、お心あたりはありませんか」

「ああ、丸木――とかいったね、その怪人物は。さあ、わしは、なんにも知らないよ」

 博士はそっけなく答えたが、新田先生の(にら)んだところでは、博士は、その怪人物丸木のことについて、たいへん心をひかれている様子であった。

「丸木、丸木か? おい、新田。その丸木なる者は、どのくらいの大きさだったかね」

「大きさ? ああ、背丈のことですか」

「そうだ、丸木の背丈のことだ」

 と博士は、新田先生に言われて、質問を言直した。

「丸木の背丈――と言って、別に変ったことはないようです。中背というところじゃ、ありませんかね」

「ありませんかねとは、はっきりしない言葉だね」

「だって博士、私は、丸木を見たことがないのです。千二少年から聞いた話なんですからね」

「おお、そうか。なるほど、なるほど。そうして、その千二という少年は、今どこにいるのか。すぐ、ここへ呼んでもらえまいか」

 博士は、丸木の話を聞くと、急に熱心になった。

「千二少年は、いま警視庁に留置されているのです。博士から、大江山捜査課長に、お話しになれば、会えないことはありますまい」

「そうか。では、わしは、これから大江山に会って来よう」

「たいへんお急ぎですね」

「うむ。いや、なに、ちょうど読書にあきたところだからのう」

 博士は、なぜか、ぽっと顔をあからめて、そう言うと、帽子もかぶらず、そのまま玄関から出て行った。

 新田先生は、博士について行って、また千二少年に会ってみたい気がしたが、しかし少し別に考えることがあったので、

「じゃあ、行ってらっしゃいまし」

 と、玄関で博士を送り出したまま、自分は急いで研究室の方へ引返した。

 新田先生は、室内にはいると、すぐさま、博士がさっきまで書見をしていた大きな机へ突進した。そうしてその大引出を、開いてみたのであった。

「確かに、博士は、あれを置いて行ったと思うのだが……」

 と、新田先生は、しきりに、何かを探し始めた。

17 意外な室内

 蟻田博士邸にはいりこんだ新田先生が、博士のすることについて、いろいろと気をつけていると、わりあい明けっぱなしの博士が、ただ一つたいへん用心をしていることがあった。それは、この天文台と棟つづきの奥まった一つの部屋に出入するのに、かならず鍵を用いていたことである。

 しかも博士は、その部屋へいく時は、きっと、横目でじろりと新田先生の様子をうかがい、それから先生に気づかれないように、そっと大引出をあけ、中から鍵を取出し、てのひらに握ってから、席をはなれるのであった。

 だが、鍵は時々がちゃりと音をたてることがあった。そういう時博士は、はっと息をとめ、ゆだんなく新田先生の顔を、しばらくじっと見つめていた。新田先生がそれに気がついた時は、博士は席を立つのをあきらめる。もし新田先生が気がつかないでいると見ると、はじめて席をはなれるのであった。そうして奥まった部屋へ出かけていくのであった。そういう時、研究室の廊下へ通じる扉には、かならず外からかけがねがかけられていて、先生がハンドルをまわしても、向こうへは、あかなかった。

 でも、新田先生は、博士が、その大切な鍵をつかって奥の部屋をあけているのを、ちゃんと見て知っていた。それは、扉の下の方に、一つの節穴があって、そこからのぞくと、廊下の奥で、博士がやっていることが、手にとるように、わかってしまうのだった。

 その部屋の中には何があるのかは、まだわからないが、これほど大切な鍵ならば、それをいつもポケットに入れておけばいいと思うのに、博士は用のない時は、鍵を持っているのがきらいらしく、いつも大引出の中へしまうことにしていた。

「ああ、あった。これだ、鍵は!」

 新田先生は、大引出の中の書類の下にかくしてある鍵を、ついに見つけ出したのであった。

「さあ、今のうちだ」

 新田先生は、蟻田博士の机から、鍵を取出すと、いそいで廊下へ飛出した。その奥には、博士が秘密にしている部屋がある。

 恩師の秘密にしている部屋を、その(ゆるし)もなくて、ぬすんだ鍵であけてはいるなんて、けっしていいことではなかった。しかし、ぜひともそれをしなければ、気のすまない新田先生であった。

 先生には、一つの信念があったのである。それは、秘密室へしのびこむのは、悪いことではないと信じていたのだ。なぜならば自分だけがとくをするために、むやみに他人の秘密室にはいるのは、どろぼうみたいなものである。しかし新田先生は、自分だけのとくを考えているのではない。そうすることによって、地球の全人類を、だんだん迫って来た大危難から救う道を発見したいのであった。どろぼうみたいなまねをするにはちがいないが、その気持は実に正しく、そうして尊いものであった。

「さあ、この鍵で、この部屋があくはずだ。どうかあいてくれますように」

 先生は、心の中で祈りながら、秘密室の鍵穴に鍵を入れてまわした。

 すると、がちゃりと錠のはずれる音がした。

「しめた!」

 先生は、喜びの声もろとも扉をおして、中へ飛込んだ。さて、どんなにおどろくべきものが、室内に積みかさねられてあるのであろうか。新田先生の胸は、どきどきと大きく動悸を打った。

 さて、先生の目には、どんなものがうつったか。

「あれっ」

 先生は、そこに棒立ちになったまま、目玉をぐるぐるっとまわした。思いもかけないこの部屋の有様であった。

 新田先生は、博士の秘密室の中で、一体何を見たのであろうか。

 意外にも意外! その部屋は、空っぽも同様であった。

 そのだだっぴろい部屋には、湿気のために、妙な斑点のついた床があるばかりで、その床の上には、何もないのであった。まるで、雨天体操場みたいなものであった。

「なんだ、何もないではないか」

 新田先生は、目をぱちくりした。

 全く何もないのであった。

「不思議だ、不思議だ。これは不思議だ」

 先生は、あまりの意外さに、つづけて同じ言葉をはいた。

 どう考えても変である。博士があれほど注意を払って、大切にしている部屋であるにもかかわらず、床ばかりで、何物もおいてないというのは、腑に落ちかねる。

 もっとも、鼠色によごれた壁には、背の高い柱時計がかけてあった。しかもその柱時計は、なぜかわからないが、並べて二つかけてあった。

 どっちも、たいへん古めかしい飾りがついている、振子形の旧式時計であった。

 振子は、どっちの時計の振子も、とまっていた。つまりうごかない二つの柱時計が、このがらんとした秘密室の留守番であったのである。

「まてよ、この二つの柱時計が、値打のある宝物なんかではなかろうか」

 新田先生は、柱時計がかかっているその下まで出かけていって、それをていねいに何度もよく見たのであった。

 たしかに古くて、時代がかったものであったが、作りもそうりっぱなものではない。むしろ安時計と見てもいいものだ。

「変だなあ。なんとなくわけがありそうな時計だけれど、どうもわけがわからない」

 そう言って、先生はなおも柱時計の文字盤を、じっと見すえたのであった。

 まるで、二つの柱時計が、留守番をしているような、がらんとした空部屋だ。これが、蟻田博士が、厳重に鍵をかけておく、秘密の部屋なのだ。

 しかし、こんながらんとした空部屋の、どこが秘密にしておく必要があるのであろう。空部屋ならば、扉に鍵をかけておいても、或はまた、鍵をかけないで、あけ放しにしておいても、同じことではないか。

 新田先生は、部屋のまん中に立って、あきれ顔で、部屋中をいくども見まわしたのであった。

「どうも、おかしい。しかし、博士が鍵をかけておく以上、この部屋には、何か重大な秘密のものがあるにちがいない」

 新田先生は、そのように判断した。

「でも、見たところ、あやしいのはこの二つの柱時計だけだが、一体こんな柱時計が、何の役をしているのであろうか」

 先生は、また柱時計のそばへいって、つくづくと見なおしたのであった。

 その柱時計の針は、どっちもとまっていた。また、時計の上には、ほこりがたまっていた。

「ふうむ、この時計は、近頃、ずっととまっていたんだな」

 新田先生は、柱時計の振子に、くものすがかかっているのを見て、そう言った。

 するといよいよわからない。博士は、たびたびこの部屋に出入しているのだ。きょうもたしか、この部屋にはいったことがあった。

 博士は、この時計が示している時刻を見るために、この部屋へ出入するのではあるまいかと思ったが、時計は振子がずっととまっているのであるから、見ても何にもならないはずであった。すると、ますますわからなくなる。この部屋の秘密は、一体どこにあるのであろうか。新田先生は、途方にくれてしまった。

「どうも、わからない!」

 新田先生は、蟻田博士の秘密にしている空室のまんなかにしゃがんだまま、とけないこの部屋の謎を、じっと考えこんだ。

 だが、先生は気が気ではない。警視庁へ出かけた博士が、いつ、ここへかえって来るか、知れないのだ。

 見つかれば、たいへんなことになる。博士にことわりなしに鍵を持出し、この秘密室にはいっているのだから、見つかれば、博士はどんなに怒り出すか知れない。その結果、せっかく新田先生が、博士の力を利用して、モロー彗星衝突によるわが地球人類の全滅を、何とかして食いとめたいと努力をしていることが、一切だめになる。

 先生は、腕ぐみをしてしゃがんだまま、しきりに頭をふったが、この部屋の謎は、一向にとけなかった。

 先生が、考えこんでから五、六分のちのことであったが、ふと先生は、あやしい物音を耳にした。

「おや、何の音だろうか、あれは……」

 先生は、けげんな顔で、聞耳をたてた。

 ごとん。――しばらくして、また、ごとん。

「ああ聞えた。あれは一体何の音だろうか。うむ、床下から聞えて来るようだ」

 先生は、足音をしのばせて、立ちあがった。どこかに、床下へはいる場所がありはしないかと、部屋の中を見まわしたが、何しろ、とっさのことでもあり、そんなものは見あたらなかった。

(どうしたら、床下が見えるだろうか?)

 先生は、考えた。

 ごとん。ごとん。

 又しても、怪音は床下から聞えて来る。

(そうだ。庭へ出て、外から床下をのぞいてみよう)

 先生は、そう決心すると、さらに足音をしのばせて、そっと部屋をたち出でた。

18 命びろい

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