火星兵団

36話 9 ああ天狗岩(28)

9,214字 約18分 2007年2月15日 公開

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 大江山突撃隊長は、ガス砲陣地のあるところから、すこし離れた小高い岡の上に立って、数名の観測員などを、さしずしていた。隊長をはじめ、いずれもみんな草や木の枝をあたまからかぶって、擬装していたものだから、空からは、これが人間だとは、見えなかった。

 観測員の一人が、しきりに、空を見上げている。彼の目の前には、一本のつながたれていた。そのつなを、下から上へ見ていくと、二百メートルばかり上に、一羽の(とび)のような形をした鳥が、つばさをひろげて、とんでいる。――いや空中に、ほとんど、じっとして、うごかないのであった。

 それは、もちろん、ほんものの鳶ではなかった。それは、たいへんにかるい気体をつめた一種の風船であって、その風船には、光電眼(こうでんがん)がついていた。

 光電眼は、テレビジョンと同じような、はたらきをもっている。球形のレンズに、外の景色はみんなおさめられる。すると、内側で、これが電気になって、つなの中をつたわって地上の観測員のところまでおくられる。あとは、テレビジョンと同じに、再び物の形にして、景色が見える。これも蟻田博士の発明品だった。

 この光電眼をつけた鳶は、二百メートルの高さのところから、火星の宇宙艇の基地をにらんでいた。宇宙艇の全部がとびだしたところが、この光電眼を通じて、観測員に、よく見えた。

「隊長、いよいよ全艇そろって、まい上りました。あとに、宇宙艇は、一つも、のこっていません」

「そうか。よろしい。どうも、蟻田博士の予言したことが、いちいちそのとおりになるねえ」

「はあ、そうですかねえ」

「いまに、全艇が、高空から、われわれめがけて、まい下りて来るだろう。これも博士の予言だ」

「ははあ、博士は、そんなことまで、見とおしていられるのですか」

 どこまで、えらい蟻田博士であろう。

 このように、えらい博士を、おかしいと思っていた大江山課長は、ときどき、それを思い出して今でも冷汗が出る。

「ああ、博士ですか。全艇そろって、ただ今、高度一千メートルのところを、急上昇中です。よろしいですか」

 大江山は、とびあがった火星の宇宙艇の様子を、刻々に、博士のところへ、電話でつたえるのであった。

 博士は、どこにいるのであろうか。

 博士は今、例のせまい研究室の中に、新田先生と一しょにいる。

 博士は、そのせまい室内にある操縦席みたいな椅子に、ふかく腰を下している。博士の前には、たくさんの計器が並んでいる。

 新田先生は、その隣の座席に、腰を下している。

 大江山隊からの電話は、博士の頭の上の高声機から、ひびいて来る。

「大丈夫だよ、大江山君。やがて火星兵団が、君の陣地を攻撃するだろう。しばらく、がんばっていてくれたまえ。あとは、こっちでいいようにやるから……」

 蟻田博士は、座席の下から、ぬっと、口のところまでのびている送話機の中に、声をふきこんだ。

「じゃあ、博士、どうかお願いします」

「よろしい。引きうけました」

 博士は、たのもしい言葉を、もらした。電話は、そこで切れた。

「博士、ほんとうに、大丈夫ですか」

「うん、自信はあるのだ。まあ、見ているがいい」

「この部屋に、いつまでも、こうしているのですか」

「そうじゃ。じゃが、間もなく、この部屋もろとも、出発じゃ」

「え?」

 先生は、ふしぎそうに、聞きかえした。

(この部屋もろとも、出発じゃ!)

 博士のいったことは、新田先生には、わけがわからなかった。そこで、えっと、ききかえしたわけであった。

「新田、この部屋が、かわった作りかたをしてあるのが、お前にはわからないか」

「えっ、かわった作りかたといいますと……」

「なぜ、こんなにせまいのだろうかと、考えなかったかね。また、なぜ、こんなにトンネルのように、奥行ばかりふかいのだろうかと、うたがわなかったかね」

 博士は、そういって、新田先生のけげんなかおを、たのしそうに眺めた。

「博士、わかりませんなあ」

「わからんか。よほど、お前は血のめぐりが悪い。じゃあ。これを見よ」

 博士は、そういって、前の計器盤の下についている押ボタンの一つを、指さきで押した。

 すると、にわかに、大きなエンジンが、まわりだしたような音がした。そうして部屋全体が、こまかくふるえているのだった。

 新田先生は、耳をすました。そうして、ふしぎそうに、あたりを見まわした。

 博士は、第二のボタンを押した。エンジンらしいものの廻転が、また一段と、早くなったようである。

「まだ、わからんか。――新田、お前の坐っているところの正面に、やがて窓があくから、よく気をつけていろ」

「はあ、窓ですか」

 そのとき、博士は、第三のボタンを押した。

 とたんに、新田先生は、ひどい力で、ぐうんとうしろへ、引かれたと思った。あたまが、ふらふらとした。なんだか、部屋が、走りだしたようである。ここは、ふかい地下だというのに、ふしぎなことである。

「ほら、外を見ろ」

「えっ!」

 先生の前のかべに、円い窓のようなものがあらわれ、明かるい光が外からはいってきた。先生は、その窓をのぞいて、あっとおどろいた。

 ゆれる部屋だ!

 新田先生は、窓から外を見て、びっくりしてしまった。というわけは、窓の外に、いきなり、市街が見えたからである。

 いや、走る市街であった。

「博士、これは、どうしたのでしょうか」

 それに対して、博士はおちついたこえで答えた。

「わからないかねえ。われわれは今、大空艇にのっているのだ」

「大空艇? 大空艇というと……」

「これは、わしが、かねてこしらえておいた新式の飛行艇だ。麻布の高台の下に、うずめておいたが、トンネルのような長い部屋と見せて、実は、魚雷を大きくしたような形の飛行艇なのだ」

「そんなりっぱなものが、地底にうずめてあったのですか」

「そうだ。しかしこの大空飛行艇は、飛行機ともちがうし、ロケットともちがう。わしが、苦心をして作った原子弾エンジンをつかっている世界無比――いや、ことによると、外の遊星にも、あまり類のない飛行艇じゃ。小型のくせに、今までのロケットなどの速度よりも、十倍でも二十倍でも早くなる。空気のないところへ出れば、もっと桁ちがいの快速度が出る」

「それが、どこから、とび出したのですか」

「研究所の横に、崖があったね。あの崖をつきぬけて、とびだしたのだ」

「じゃあ、今、窓の下にみえる市街は、東京市なのですか」

「そうじゃ。もう今は通りすぎて見えないが、あれは東京市じゃった。――そんなことは、おどろくに足りないが、この大空艇のすばらしい性能は、地球の引力圏外にとびだしてみれば、はっきりわかるのだ」

「え、引力圏外へ? すると、火星までも、とべるわけですか」

 新田先生は、目をまるくして、このおどろくべき新飛行艇の中を見まわした。

 新田先生は、感心している。なんというすばらしいこの大空艇であろうか。

 そういえば思いだしたが、このまえ、地底に変な長細い部屋が、しきってあると思った。あの時見た魚雷のしっぽのようなものは、実に、この大空艇の尾部だったのか。

 だんだん見ているうちに、これが空飛ぶ大空艇であることが、はっきりしてきた。

 博士のすわっているところは、たしかに操縦席であった。その前に、たくさんならんでいる計器は、空を飛ぶ時、ぜひとも、よく見ていなければならない速度計やコンパスや、そうして原子弾弁や加速度計などであったのである。

「おや、こいつは困ったぞ」

 新田先生が、おどろいてふりむくと、博士は、にがい顔をして、しきりに、ボタンを押したり、スイッチを開いたり閉じたりしている。

「どうしました、博士」

「どうも、変だ。せっかくの原子弾エンジンが、ちょっと工合が悪いのだ」

「そうですか。困りましたね。どこが悪いのでしょうか」

「おお、ここがいけないのじゃな。冷却用の水が、うまくまわらないのだ。冷却管(れいきゃくかん)のいい材料がなくて、仕方なしに、つなぎ目に、ゴム管を使ってある。そのゴム管が、どうかしたのじゃないかと思う。ゴム管というやつは、折れたり、または上から重いものがのると、平ったくなってしまって、穴がふさがってしまう」

「博士、私が見てきましょう」

「お前に、わかるかなあ。しかし、わしは、ここをちょっと離れられないから、とにかくお前にたのもう。となりの部屋に、あかりをつけて、見てくれないか。ここに図面がある。ここのところだ」

 先生は、図面を持って、操縦室よりも先の方にある部屋を開いた。

(冷却管の故障だ)

 と、蟻田博士は、言うのであった。

 新田先生は、ほんとうに、そうかしらと、うたがいながら、図面を片手に機械室の中をのぞいた。そこは、せまいところへ、ごてごてと機械がならんでいて、電線やパイプが、まるではらわたのように壁や天井を、いっぱいにはいまわっていた。

 新田先生は、冷却管は、どこであろうかと、機械の間を見廻した。

 そのとき、先生は、

「おやっ」

 と、さけんだ。

「だれか、寝ている。人間だ!」

 先生は、機械のうしろに、せなかを円くして、たおれている人間を発見して驚いた。

 だれであろう? 何者であろうか?

 先生はちょっと尻ごみしたが、やがて、勇気を出して、その寝ている男をひきおこしてみた。

「ああ、千二くんじゃないか!」

 先生は、びっくりして大きな声を出した。意外にも意外!

 この思いがけない大空艇の客は、彼の教え子の千二だったのである。

 千二少年といえば、彼は、火星兵団の丸木につかまって、ながいこと捕虜になっていた。丸木は、少年が逃出さないようにと、電気帽をかぶせておいた。

 この電気帽というのは、電気のしかけで、人間の脳のはたらきをしばる。これは、脳のはたらきというものが、電気作用であるということをつきとめた火星人の学者がつくったものであった。千二は、これをかぶされていたために、丸木のところを逃出そうなどという考えが出ないように、しばられていたのである。

 その千二が、どうして、丸木のそばを逃出し、こんなところにもぐりこんで、寝ていたのであろうか。

 千二は、一体、どうして丸木のところを逃出せたのであろうか。

 そのわけは、すでに気がついておいでの読者もあろうが、ある朝、千二のかぶっていた電気帽のねじが、ゆるんで下に落ちたのが、その原因であった。

 電気帽のねじが落ちたことを、丸木は知らなかったのである。もし知っておれば、すぐさま千二のそばへよって、ねじを固くしめなおしたであろう。

 千二は、電気帽が落ちたとたんに、夢からさめたように気がはっとした。そうしてすべてをさとったのである。――電気帽みたいなものが発明されるかもしれないことは、この前、新田先生から教えられたことがあった。

 千二は、それから、丸木の目をのがれ、逃出したのであった。丸木は、そのときちょうど、警報におどろいて、外へ飛出したのであった。千二は、

(今だ。逃げるのは今だ!)

 と思い、裏口から、逃出したのである。

 少年の足は速い。どんどん山を下っていった。

 すると、ちょうど、幸いにも、一台のオートバイが、走って来た。千二は、それを見ると、神のたすけと思い、手を上げた。

 オートバイは、千二の前にとまった。操縦していたのは、一人の陸軍の下士官であった。

 千二は、手みじかにわけを言って、その下士官の車に、のせてもらったのである。

 東京まで、全速力で来た。

 下士官は、丸ノ内の方に、急用があったので、千二は、芝公園のところで下された。それから千二は、おぼえのある博士邸あとへやって来て、地底にはいる入口をみつけ、そうしてずんずんいくうちに、とうとうこの大空艇のおくまで来てしまったが、博士も先生にもあわず、そのうちに、疲れはてて、冷却管のうえに倒れて、寝込んでしまったのであった。

 千二は、こうして新田先生のところへ、もどって来たのである。

「ふうん、そうだったのか。先生は、千二君が、どうしているかと思って、いつもいつも、心配していたよ」

 と、新田先生は、千二の手をとって、ためいきをついた。

「先生、ありがとうございます」

 千二も、胸が、いっぱいになった。

「おうい、新田。何をしとる。用がすんだら、さっさとこっちへこんか。何をぺちゃくちゃ、ひとりごとを言っとるのじゃ」

 博士が、隣の部屋でどなった。

 新田先生は、千二がもどってきた嬉しさで一ぱいで、博士から言いつけられたことを忘れていた。これは大変なことをした。

「はい、ただ今。――冷却管を今調べます」

「冷却管はもういいんだ。何を間がぬけたことを言っとる」

「はあ、冷却管は、もういいのですか」

「ちゃんと、なおったよ。お前が、なおしたから、なおったのじゃないか」

「ははあ、そうですか」

 先生はとんちんかんな返事をして、なおも冷却管のところを、のぞきこんでいる。

 千二が、それを見て、

「先生、冷却管がどうかしたのですか」

「うむ、冷却管に、水が通らなくなって、さわいでいたのだ。そこに見える冷却管がねえ……」

 と、先生は言ったが、その時、気がついて、笑い出した。

「あ、わかった。冷却管の上に、千二君が寝ていたんだ。だから、からだの重味で、冷却管がぺちゃんこになって水が通らなかったんだ。なあんだ、そんなことだったか」

58 遮蔽網(しゃへいもう)

 冷却管は、いつのまにか、うまくなおっていた。博士は、それで、やっとあんしんした。今や大空艇は、音たかく甲州の空をめがけてとんでいく。

「博士、冷却管の故障を見つけにいったところ、そこに、この少年がいたのです」

「なんじゃ、その少年がいたというのか。どこかで、見かけたような子供じゃが、だれだったかな」

「千二少年ですよ」

「千二少年? そうか、そうか。おもいだしたよ。天狗岩で、火星のボートを見つけたのは、この少年だったな」

「そうです」

「それから、火星人を見たのも、わしをのけると、この千二少年がはじめてじゃ。しかし、なぜ、となりにいたのかね」

 そこで先生は、千二にかわって、千二の身の上を話した。

 千二が、丸木につかまり、それから電気帽をかぶせられて、情心(なさけごころ)の先生をしているうち、電気帽のねじがゆるんで、下に落ちたため、われにもどり、ここまで、にげもどったいきさつを、話していると、

「もういい、話はそのくらいにしておけ。火星兵団の宇宙艇が、向こうに見えて来たわ」

「えっ、見えましたか」

「いるわ、いるわ。わが突撃隊のいる森の上に群れている。まるで(とび)が喧嘩しているように見える。おお、森をめがけて、なにか怪しい光線をかけている。あれは、鉄がとける怪力線にちがいない。お前たちも、そこにある望遠鏡をのぞいて見なさい」

 新田先生と千二は、博士に言われて、望遠鏡に目をあてた。なるほど、見える。博士の言ったとおりだ。

 そのとき博士が、こまったようなこえで言った。

「はて、あの中で、どれが丸木ののっている宇宙艇かしらん」

「丸木の乗っている宇宙艇ですか。それなら、ぼくがよく知っていますよ」

 千二が、前へすすみ出た。

「知っているか。知っているなら、おしえてくれ」

「望遠鏡でよく見ると、わかるんです。丸木の宇宙艇には、背中のところに、赤い三角の旗が立っていますよ。それが司令艇です」

「ほう、赤い三角の旗が立っているか。うむ見えた。あれじゃな。わかった、わかった」

「丸木の宇宙艇を、まっ先にやっつけるのですか」

 と、千二少年は、ちょっと気の毒になって、博士にたずねた。

「悪いやつは、えんりょなく、どしどしやっつけなければならん」

 すると千二が、

「博士。丸木は悪いやつかもしれませんが、ぼくは、丸木に情心をおこすことをおしえたので、ぼくは、言わば、丸木の先生です。そうなりますねえ」

「それはそうだ」

「ぼくは、丸木を、いい火星人になおしてやりたいのです」

「だめだよ。火星の生物は、植物の進化したやつなんだから、生まれつき、ざんこくだ。どんな、むごたらしいことでもやってのける。少しくらい、情の心をおしえても、たぶん、それはだめだよ」

「でも、ぼくは、きっと、それが出来るとおもうのです。しかし、丸木はあばれん坊です。ですから博士、丸木をうまく捕虜にすることは出来ませんか。そうしたら、ぼくが……」

 と、千二が、ねっしんに、博士をといているうちに、博士は、はっとした顔になった。

「ああ、とうとう火星兵団は、わしたちを見つけたようじゃ。おお、方向をかえて、こっちへ向かって来るぞ。おい、新田、ガス砲の発射準備だ。その席について、ねらいをさだめるのじゃ」

 丸木を兵団長とする火星の宇宙艇は、ついに蟻田博士の、大空艇の姿を見つけたようである。

 さかんに、大江山ガス砲隊陣地を、怪力線で攻撃していた宇宙艇隊のなかから五箇艇ばかりが、艇の首を、こっちへ向きかえた。

「来るぞ。新田、いよいよ来たぞ」

 博士は、さけんだ。老人とも見えない元気をみせた博士であった。

 新田先生は、ガス砲の引金に指をかけ、敵影めがけて、ねらいをさだめた。

「博士、大丈夫です。用意は出来ました」

「そうか。まっ先にとんでくるやつから、うちおとそう」

 博士は、おちつきをみせた。

 千二少年は、望遠鏡に、ぴたりと目をあて、敵のようすが、どうなるかと、汗をかきながら、みている。

「博士、今、前からこっちへむかってくる艇の中には、丸木ののっている宇宙艇はまじっていないですよ」

「そうかね。お前は、そこで、そうして、丸木ののっている艇をみつけてくれ。わかったら、すぐ知らせるのだよ」

「博士、さっき、ぼくがおねがいしたことは、どうなるのですか」

「ああ、丸木を捕虜にすることか。まあ、考えておく。――そら、来たぞ」

「博士、敵は、なんだか、あやしい光線を出しました。あれは、怪力線じゃないのですか」

 と、新田先生がさけぶ。

「そうだ、あれは怪力線だ」

「では、わたしたちが今のっている大空艇は、やっつけられるのではありませんか。つまり、鉄のかべが、怪力線のため、どろどろととけてしまって、墜落するのではありませんか」

「なあに、大丈夫じゃ。わしは、そんなことは、ちゃんと、かんがえてあるのじゃ」

 そうしているうちに、火星兵団の怪力線は、ものすごく、大空艇にあつまってきた。

 火星の宇宙艇がはなつ怪力線は、きみのわるい光をあげて、蟻田博士たちののっている大空艇に、あつまってきた。

 さあ、たいへん。

 怪力線は、大空艇にあたって、金属でできた胴を、とろとろと、とかしてしまうであろう。そうなったら、たいへんではないか。

 しかし、博士は、大丈夫だという。

「ほんとうに、大丈夫ですか」

「まあ、見ておれ」

 博士は、大空艇を操縦して、おそれげもなく、火星の宇宙艇のまっただ中にとびこんでいく。

 敵の方では、おどろいた。ぱっと、四方に、とびのいて、みちをあけた。

 博士は、操縦桿をひいて、飛行機のように、あざやかに、宙がえりをうった。

「新田、撃て!」

 博士は、つよく、命令した。

「は」

 新田は、ねらいの中に、ちょうどはいってきた宇宙艇を、これさいわいと、うでに力を入れて、引金をひいた。

 ごうん、ごうん。

 機関砲からは、ガス弾が、うなりをあげて、とびだしていく。

 たちまち、火星の宇宙艇の胴中に、ミシンで穴をあけたような穴があいた。そうして、その穴からは、黄いろい煙が、すうっとでてきた。

 それが、その宇宙艇の致命傷であった。

 宇宙艇の巨体は、まもなく、胴のまん中から、ぱくりと二つにわれた。そうして、あわてふためき、空中にほうりだされる火星人が、黒豆を、ふりまいたように見えた。こんな痛快なことはない。

「撃て、撃て! 新田!」

 博士は、はげました。

「やります!」

 と、さけんで、先生は、ねらいを次へうつした。

「撃て、撃て!」

 博士は、叫ぶ。

「やりますっ!」

 新田先生は、敵の二番艇にねらいをつけて、引金をひいた。

 ごうん、ごうん、ごうん。

 ガス弾は、大空艇のへさきから、たてつづけに、撃ちだされる。

 敵の二番艇は、たちまち、黄いろいけむりにつつまれてしまった。

「ああ、先生、あぶない。うしろから、やってくるのがいますよ」

 千二少年が、叫んだ。

「なに、うしろから?」

 先生は、博士の方を見る。

「うしろは、ほうっておけ。うしろから来てもかまわん」

「大丈夫ですか、博士」

「大丈夫だ」

 と、言っているとき、大空艇は、突然烈しい震動をはじめた。

 がらがらがら、がたがたがた――と、今にも、大空艇が、ばらばらになってしまいそうに、烈しく震動する。

「博士、あの音は……」

「あの音か。あれは、うしろから来た火星の宇宙艇が、怪力線を、わが大空艇に、あびせかけたのだ」

「えっ、この艇に、怪力線が命中したのですか。そいつは、たいへんだ。艇はこわれてしまうのではありませんか」

「大丈夫だと、いくども言っているではないか」

「しかし博士、怪力線という奴は……」

「心配するな。そんなこともあろうかと、わしは、わが大空艇の外に、怪力線よけの遮蔽網をはっておいた。あの音は、その遮蔽網が怪力線を吸いとる時に出る音だ」

「ああ、そうですか。それは、よかった」

「おい、撃て、新田。あと三台の敵艇を、はやいところ、片づけろ」

 今、かれとわれとの戦闘は、火のように熱している。

 二台はうちおとされ、のこる三台の火星の宇宙艇は、にげるかと思いのほか、さらにはげしく蟻田艇におそいかかった。怪力線は、まるで大雷雨の中の電光のように、蟻田艇をつつんだ。艇を、やいてしまおうと、火星人はやっきとなっている。

 しかし、博士が、あらかじめこのことを考えて、艇をつつんでおいた遮蔽網は、よく怪力線をもちこたえている。

 時に怪力線は、はげしく艇の外を金づちで乱打するようにきこえる。そうして今にもこわれそうに、ものすごく震動する。そのたびに、

(もう、いけないのじゃないか)

 と、新田先生は気が気でない。

 だが、いつも、蟻田博士の用意しておいた遮蔽網は、怪力線をくいとめる。

「新田、どうした、早く撃てというのに……」

 博士のさいそくだ。

 先生は、

「ただ今……」

 と、こたえる。

 が、引金を引くいい時が、なかなかやってこない。敵の艇と、あまり近くによって、ぐるぐる空中戦をやっているため、敵の艇が狙いにはいって、さあ撃とうと思うとたんに()れてしまうのである。

「ガス砲は、撃放しにせよ。味方は一機だけ、敵は多い。どれにでも当ればいいのだ」

 博士のことばに、はげまされて、先生は思い切って引金を引放しにしていると、当るわ当るわ、たちまち敵の二台は煙をあげてふらふらとおちだす。

 そうなると、のこりの一台は、さすがに気おくれしてか、火星兵団の本隊のいる方へ、かじをとってにげだそうとした。

「待て、にがすものか」

 小気味よい追撃で、その一台もとうとう黄いろい煙をふきだして下界へ……。

59 命中また命中

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