鉄人Q

20話 おばけウジャウジャ

3,171字 約6分 2017年3月16日 公開

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 ふたりが、とじこめられたのは、じつにとほうもない、ギョッとするような部屋でした。部屋ぜんたいが、銀色にかがやいていて、見通しがきかないほど、おそろしく広いのです。そして、その中に一つ目小僧のばけものが、何千人というほど、ウジャウジャ、うごめいているではありませんか。

 小林君もポケット小僧も、クラクラッと目まいがして、おもわず、そこにうずくまってしまい、じっと目をふさいでしまいました。

 なるほど、このうちはおばけやしきです。うちの中に、家ぜんたいよりも、ずっとひろい部屋があるのです。そして、そこに一つ目小僧のおばけが、数えきれないほど、むらがっているのです。

 そんなばかなことがあるはずはありません。きっと、魔法使いの妖術(ようじゅつ)にかかったのです。ありもしないものが、目に見えたのでしょう。

 ふたりは、しばらく、目をとじていたあとで、こわごわ、そっと目をひらいてみました。

「あっ、いけない。やっぱりおんなじだ。」

 何千人の一つ目小僧が、こっちを見つめているのです。

 そして、ふしぎなことには、その一つ目小僧どもは、みんなしゃがんでいるではありませんか。

 小林君は勇気を出して、ポケット小僧の手をひっぱって、いっしょに立ちあがりました。

 すると、あっ、何千人という一つ目小僧がみんないっしょに、パッと立ちあがったではありませんか。そして、じっと、こちらをにらみつけています。こちらへ、近よってくるようすはありません。

 小林君とポケット小僧は、一歩、まえに歩いてみました。すると、何千人もの一つ目小僧が、サッと、こちらへ一歩、ふみだしてくるのです。

 よく見ると、うしろ向きになっているやつが、たくさんいて、そいつらは、むこうへ一歩、遠ざかるのでした。

 そして、また、じっとしています。何千人というおばけが、マスゲームでもやっているように、みんなおそろいで動くのです。

 そのとき、ポケット小僧が、小林君の手をひっぱって、ささやき声で、

「うしろを見てみな。」

といいました。

 小林君が、ヒョイと、うしろをふりむきますと、あっ、うしろにも何千人の一つ目小僧が、ウジャウジャ、かたまっているではありませんか。

 ふたりは、ドアからこの部屋へ、はいったばかりです。ドアとふたりのあいだは、一メートルぐらいしか、ないはずです。ところが、いま見ると、そこが見通しもきかぬ、広い部屋にかわって、おばけが、はるかかなたまで、むらがっているではありませんか。

 さすがの小林少年も、あまりのおそろしさに、からだが、ふるえてきました。

 そのとき、また、ポケット小僧が、小林君の手をひっぱって、足の方を見よという合図をしました。

 小林君は、床を見おろしました。

 すると、フワーッと、からだが宙に浮いたような、たかいたかいがけの上から、とびおりたような、なんともいえない、みょうな気持になって、心臓がのどのへんまでおしあがってくるように感じました。

 ごらんなさい。足の下には、床板がなくて、そこしれぬ深さの中に、やっぱり何千人という一つ目小僧どもが、まっすぐに立ったり、さかだちをしたりして、ウジャウジャと、むらがっているではありませんか。

 クラクラッと、目まいがしました。そして、ふっと上を向いたのです。てんじょうは、どうなっているのだろうと、思ったからです。

 ああ、思ったとおりです。そこも、無限(むげん)の空にまで、つづいて、やはり何千人という一つ目小僧が、顔を下に向けて、さかだちしたり、まっすぐに立ったりして、見通しのきかぬ上の方まで、むらがっているではありませんか。

 小林君とポケット小僧は、またうずくまってしまいました。

 ひどく息苦しいので、顔に手をやってみると、大きな仮面をかぶっていることが、わかりました。

「あ、ぼくたちは、さっき、一つ目小僧の仮面をかぶって、おばけになったんだ。それをすっかり、わすれていた。」

 小林君は、スッポリと、一つ目小僧の仮面を、ぬきとりました。ポケット小僧も、仮面をぬぎました。

 すると、おお、ごらんなさい。無限のかなたまで、むらがっている一つ目小僧どもが、パッと人間の子どもにかわってしまったではありませんか。

 みんな、同じような、顔をしています。

 背の高いのと、背の低いのと、ひとりおきにならんで、それが何千人とかたまって、じっとこちらを、にらんでいるではありませんか。

 あっ、なんだか見たような顔です。大きいやつも、小さいやつも、よく知っている顔です。

「なあんだ、そうだったのか。」

 小林君が、安心したように、つぶやきました。

「アハハハ……、なあんだ、そうだったのか。アハハハ……。」

 ポケット小僧も、同じことをいって笑いだしました。

「アハハハハ……。」

 小林少年も、笑いだしました。

 おばけの正体が、わかったからです。魔法のたねが、わかったからです。

 すると、ふたりをとりまいている何千という少年が、同じように、大きな口をあけて、

「アハハハハ……。」

と笑いだしたではありませんか。目のとどくかぎり、はるかの、はるかの向こうまで、二色(ふたいろ)の同じ顔が、同じように口をあけて、笑っているのです。

「なあんだ。これはかがみの部屋なんだよ。」

 小林君は、そういって、前に進んで、手をのばし、ツルツルした大きなかがみにさわってみました。

「四方にも、上にも、下にも、大きなかがみが、はりつめてあるんだよ。こんなに広く見えるけれど、ほんとうは、三メートル四方ぐらいの、小さな部屋なんだ。四方にかがみがはってあるので、ぼくたちの姿が、かがみからかがみへと、なんども反射して、こんなに大ぜいに見えるんだよ。ほらね、ぼくが、こうして、一つ目小僧の仮面をぬぐと、みんな、ぼくの顔になってしまうだろう。ね、わかったかい。」

「なあんだ、かがみかあ……。」

 ポケット小僧も、はりこの一つ目の仮面をかぶったり、ぬいだりして、ためしてみました。すると、ウジャウジャいるやつらが、みんな、そのとおりに動くのです。何千人ともしれないおばけどもが、一つ目小僧になったり、ポケット小僧になったりするのです。

 もう、わけがわかったので、こわくもなんともありません。ふたりは、どうすれば、このかがみの部屋から出られるだろうと、相談しはじめました。

 すると、そのときです。

「ワハハハハ……、どうだ、おばけやしきは、おもしろいだろう。」

と、大きな声が、ひびきわたりました。

 あっ、ごらんなさい。へんな顔が現われました。鉄人Qです。あのろう細工のような、ぶきみな顔です。

 その顔が、あちらにも、こちらにも、何百となく、宙に浮いて、笑っているのです。

「おい、きみたちは、ふたりの少年を、たすけだして、一つ目小僧にばけて、このうちの中を探ろうとしたんだろう。おれにはなにもかも、わかっているぞ。きみたちは、小林とポケット小僧だ。ワハハハハ……、ちょうどいい。おれは、あのふたりの少年よりも、きみたちこそ、うらみがあるんだからな。よしっ、きみたちに、このおばけやしきが、どんなにおそろしいところだか、よく見せてやろう。ワハハハハ……、用心するがいいぜ。」

 そういったかとおもうと、何百となく、宙に浮いていた鉄人Qの顔が、一度にパッと、消えてしまいました。

 かがみの上の方が、まるい戸のようになっていて、それを開いて、まるいあなから、鉄人Qが、顔だけ出していたのです。その顔が、四方のかがみに反射しあって、あんなに、たくさんに見えたのです。

 それはわかっていても、やっぱりきみが悪くてしようがありません。まだまだ、おそろしいものを見せられそうだからです。

 そのときです。立っている足の下が、なんにもなくなってしまいました。

 ふたりは、

「あっ。」

と叫んだまま、おそろしいいきおいで、下へおちていきました。

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