宇宙戦隊

8話 宇宙戦隊(8)

9,334字 約19分 2003年11月13日 公開

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 艇の尾部へもぐりこんで、空気のもれるところをさがしにいった帆村は、なかなかもどってこなかったし、報告もしてこなかった。

 艇を操縦している山岸中尉は、弟に命じて連絡にやらせた。

「機長」

 兵曹長が叫んだ。

「おい」

「見張報告。右舷上下水平、異状なし。左舷上に小さな火光あり。追跡隊かとも思う。そのほか異状なし」

「了解。その小さい火光に警戒をつづけよ」

「はい」

 山岸中尉は、暗視器をその方へむけて、倍率を大きくしてみた。まだはっきりと形は見えなかった。が、とにかく星の光ではなく、別の光源であった。あのあたりが、さっき脱出した「魔の空間」のある場所かもしれない。方位角と仰角(ぎょうかく)とではかってみると、だいたいその見当である。

 山岸少年が、報告にもどってきた。

「機長。尾部の漏洩箇所は、大小六箇であります。大きいのは、径五十ミリ、小さいのは十三ミリ。帆村班員は、瓦斯溶接(ガスようせつ)で穴をうめております。もうすぐ完成します」

「うむ」

 この方は、うまくいきそうである。山岸中尉は、ほっと一息ついた。

 しばらくすると、帆村がもどってきた。

「機長、もどりました」

「おう、ご苦労。どうした」

「見つけた穴は、ぜんぶ溶接でふさぎました。しかし、思うほど効果がありません」

「なに、思うほど効果がない……」

 中尉は室内気圧計へ目をやった。なるほど、穴はぜんぶふさいだのにもかかわらず、まだすこしずつ気圧が下がっていく。目につかない穴がどこかに残っているのだろう。

「どうしたのか」

 中尉は、たずねた。

「はい」

 と、帆村は言いにくそうにしていたが、やがて言った。

「艇の外廓に、ひびがはいっているように思うのです」

「外廓にひびが……」

 中尉はおどろいた。もしそうだとすると、修繕(しゅうぜん)の方法がないのだ。どうして外廓にひびがはいったのだろうか。やはり、あのときにちがいない。

 艇が「魔の空間」を爆破して、その爆破孔をとおりぬけるとき、やっぱり自分の仕掛けた爆発物のため、外廓にひびをはいらせたのにちがいない。

「もちろん、それはいまのところ、わずかな隙間を作っているだけですが、注意していますと、ひびはだんだん長く伸びていくようです。ですから、着陸までに本艇が無事にいるかどうかわかりません」

 帆村の心配しているのは、この点であった。この調子でいけば、ひびがだんだん大きくなっていくだろう。噴射をつづけているかぎり、その震動が伝わって、ひびはだんだんひろがっていく理窟である。といって、噴射をやめると墜落のほかない。

 しかもこの調子では、まだそうとうの高度のときに、艇内の空気はうすくなって、呼吸困難、または窒息(ちっそく)のおそれがある。

 思わざる危難がふりかかった。しかもその危険は刻々に大きくなろうとしているのだ。

 なんという気持のわるいことだろうか。

「よし、わかった。あとはおれにまかしてもらおう」

 と、山岸中尉は、歯切れのいいことばで言った。それにつづいて、中尉は胸の中で叫んだ。

(空中勤務に、予期しない困難が、あとからあとへと起るのは、有りがちのことだ。これくらいのことに、腰をぬかしてたまるか。危険よ、困難よ、不幸よ、さあくるならいくらでもこいだ。われら大和(やまと)民族は、きさまたちにとっては少々手ごわいぞ)

 空中勤務者は、あくまで冷静沈着でなければならない。空中で、これを失えば、自分で死神を招くようなものだ。

 その場合の死神は、ルーズベルトのおやじみたいなもので、こっちが死ねば、その死神といっしょに、ルーズベルトまでがよろこぶのだ。そんな死神を招いてたまるものか。冷静と沈着とを失ってならないわけは、ここにある。

 それから機長山岸中尉の、あざやかな指揮がはじまった。

 山岸少年に命じて、地上の本隊との間に無電連絡をとらせた。そして帆村に命じて、「魔の空間」へ突入してから後のことを、こまごまと地上へ報告させた。

 これは万一、この艇が空中分解をするとも、わが偵察隊の調べてきたところは本隊へ通じ、これから後の参考資料となるにちがいないからだった。

 竜造寺兵曹長には、見張をつづけさせた。兵曹長の目と判断は、百練をへたものであるから、ぜったいに信用がおけるのだった。

 そうしておいて、山岸中尉自身は、操縦桿をすこし前へ押しやって、艇を緩降下(かんこうか)の状態においた。

 両翼は、浮力をつけるために、せい一ぱいひろげた。そして噴射の速度をできるだけおそくして、その震動を小さくし、ひびが大きくなっていくのをできるだけふせぐことにした。

 また容器に残っている酸素の量をくわしく調べ、もっとも倹約して、生きていられるだけの酸素をすって、何時間呼吸をつづけられるかを計算した。その結果は、安心できる程度ではなかった。最悪のときは、三十分間にわたって、酸素なしで半気圧の空間を下りなければならないのだ。しかしほかに処置とてなかった。あとは運命である。「人事をつくして天命をまつ」のほかないのであった。

 中尉の頭脳の中は、きちんと整頓せられていた。これから先、どんなことが起っても、そのときはこうするという処置が考えられてあった。ただし処置なき出来事が起った場合は、運命にまかせることとしてあった。

 山岸中尉の処置よろしかったために、彗星二号艇の乗組員は、さしもの難関を突破して、ふしぎに白昼の地上に着いた。しかし艇は着陸にあたって大破炎上した。

 山岸電信員が、あらかじめ連絡をしてあったために、彗星二号艇の不時着の場所には、すぐさま本隊員がかけつけて火災を消し、艇の破れ目から四名の勇士を救いだした。

 それから四名は、本隊に帰還した。

 班長左倉少佐は、ただちに山岸中尉からはじまって、順々に隊員の報告を受けた。すべて(おどろ)くことばかりだった。中でも帆村荘六の怪鬼ミミ族についての報告は、班長をたいへんびっくりさせた。

「うむ、そうか。ミミ族の地球攻撃が、そこまで進んでいるとは知らなかった。この上は一日もむだにできない。ただちにミミ族をわが上空から追い払わねばならぬ」

 そう言って、班長左倉少佐は、山岸中尉と帆村とを連れ、あわただしく隊の飛行機にのって、いずれかへ出かけた。

   ストロボ鏡の発明

 いつの間にか、地球をうかがっていた、不逞(ふてい)の宇宙魔ミミ族のことは、放送電波にのって全世界へひびきわたった。そして世界中の人間は、はじめて耳にする怪魔ミミ族の来襲に色を失う者が多かった。

「もうだめだ。ミミ族というやつは、地球人類より何級も高等な生物なんだから、戦えばわれら人類が負けるにきまっているよ。こうとしったら、穴倉でもこしらえて、食料品をうんとたくわえておくんだった」

「どこか逃げだすところはないかなあ、噴射艇にのって、ミミ族のおいかけてこない星へ移住する手はないだろうか」

 などと、あいかわらず弱音をはく人間が、いわゆる文化国民の間に少くなかった。

 そうかと思うと、てんでミミ族を甘く見ているのんきな連中もいた。

「ミミ族だって、地球人類をすぐ殺すつもりでやってきたわけじゃあるまい。なにか物資をとりかえっこしたいというんだろう。そんならこっちもミミ族のほしい物をだしてやって、交易をやったらいいじゃないか。喧嘩腰(けんかごし)はよして、まずミミ族の招待会を開いて、酒でものませてやったらどうだ」

「そうだ、そうだ。ミミ族だって、地球人類だって同じ生物だ。話せばわかるにちがいない。ひとつ訪問団をこしらえて、ミミ族の代表者を迎えにいってはどうか」

「それがいいなあ。とりあえず僕は、ミミ族におくる土産物(みやげもの)を用意するよ」

 こんな連中も、多くではないが、のさばりでた。だが、こののんきな連中は、まもなく大きな失望に見舞われた。

 それはミミ族の一隊が突然カナダのある町にあらわれて、その町を、住民ごとすっかり天空へさらっていってしまったという、驚くべき事件が起ったからであった。

 もちろん警察飛行隊はすぐ出動して、嵐にまう紙屑(かみくず)のように、天空に吸いあげられていく町の人々や、木や、家や、牛や、馬や、犬などのあとをおいかけた。しかし一時間ばかりすると、どの飛行機ももどってきた。

 彼らの報告は、きまって同じだった。あの奇妙な竜巻をおいかけていったが、そのうちどこへ消えたか、彼らの姿が全然見えなくなったそうである。そして晴れわたった青い空に、太陽だけがかがやいていたという。

 こんな騒動が、世界のあちらこちらで起り、それはあとからあとへ世界中へ放送され、人々の恐怖は日とともにつのっていった。

 ふしぎなことに、そういう事件が相ついで起っても、ミミ族は一ども姿を見せなかった。ミミ族の方では、よほど注意して、人類の目にふれることをさけたのである。

 しかし、そうとは知らない騒動の町の学者たちは、帆村の報告した「ミミ族会見記」をうたがいだし、相ついで起る騒動も、じつは天災であって、ミミ族などという、宇宙生物のせいではないと力説する者さえでてくるしまつだった。

 これに対して帆村荘六は、すぐには弁明しなかった。それというのが、彼はわが地球人類の目をくらますミミ族の裏をかいて、ミミ族の行動がはっきり見える器械――それを帆村は「電子ストロボ鏡」と名づけたが、その器械を設計し、その試作をいくつかやっては、新しく改良を加えていたから、たいへん忙しかったのだった。

 この電子ストロボ鏡は、帆村の手によって、ついに完成せられた。そしてそれは大量生産にうつり、やがて各隊へくばられた。

 この電子ストロボ鏡には、大小いろいろとあって、大きいのは天文台の望遠鏡くらいもあったし、一番小さいものは、手のひらに握ってしまえるほどであった。しかしその能力にはかわりはなく、肉眼ではとても見えないものが、はっきり見えた。

 このストロボ鏡の一番大きいものは、左倉少佐のところにあった。

 それを参観にきたあるえらい軍人は、ストロボ鏡を通して、天空をのぞいてみてびっくりした。それもそのはずであった。一片の雲もなき晴れた大空に、楕円形の風船みたいなものが浮かんでおり、そしてよく見ると、その風船みたいなものの中に、(あり)くらいの大きさの生物が、さかんに走りまわっているのが見えた。

「見えましたか。その楕円形のものが、帆村荘六の名づけた『魔の空間』です。それから中にうごめいているのは、ミミ族であります」

「ほんとうに本物が見えているのかね。この望遠鏡みたいなものの中に、なにか仕掛があって、絵でも書いてあるのではないか」

 と、そのえらい軍人は、半分はじょうだんにまぎらわして、不審な顔をした。

「いや、絵がはりつけてあるわけではありません。絵でないしょうこには、ミミ族はしきりに活動しておりましょう」

「ふむ、なるほど、これは絵ではない。ふしぎだなあ。普通の望遠鏡では見えないものが、これで見るとちゃんと見えるのはどういうわけか」

「はあ。それはミミ族や楕円体は、たいへんはげしい震動をしているので、肉眼では見えません。しかしこの電子ストロボ鏡では、相手の震動がとまるところばかりを続けて見る仕掛になっているから、ちゃんと見えるのです。その原理は、ちょうどフイルム式の映画を映写幕にうつすときと似ています。いずれあとから、発明者の帆村荘六がくわしく御説明するでしょう」

 帆村荘六の発明した、この電子ストロボ鏡は、ミミ族にとっておそるべき器械だった。

 もはやミミ族は、この器械の前には姿をかくすことができなくなったのである。

 こうしてミミ族は、帆村の発明のために、急に形勢不利となった。

   (たたかい)はこれから

 帆村荘六の発明した電子ストロボ鏡によって、今まで地球人類の目には見えなかったミミ族や、「魔の空間」がよく見えるようになって、人類はたいへん力を加えた。

 だが、この電子ストロボ鏡の発明だけで、人類はミミ族を征服できるわけではなかった。帆村の発明は、敵の姿が見えるようになったというだけのことにすぎない。ミミ族を攻撃するには、もっとミミ族という怪生物を調べ、そしてミミ族が、どんな力に弱いかを知らなければならない。

 帆村荘六が、山岸中尉の隊からはなれ、新しく作られたミミ族研究所長に就任したのは、この際まことに結構なことであった。

 帆村は、山岸少年を連れていった。そのほかに、頭脳明晰な科学者を十数名集めて、このミミ族研究所は、いそがしく発足したのであった。

 班長左倉少佐は、帆村にぜひ一日も早く、ミミ族の正体と弱点とを探しだしてくれるようにと頼んだ。左倉少佐は、山岸中尉から「魔の空間」脱出当時のすべての話を聞いて、今は帆村をぜったい信用しているのだった。そして帆村の研究のため、あらゆる便宜をはかる決心だった。

 帆村は事実たいへん便宜をえた。海軍航空隊を出動させることなんか、全くすぐやってくれるし、宇宙線を通さない丈夫な箱――それはミミ族の(おり)に使うつもりだった――を作るのに、なかなか手まどると聞けば、隊の資材や労力を貸してくれるという風で、帆村のやりたいことや、欲しいものは、思いどおりにかなった。

 そのために、帆村はいよいよミミ族と正面からぶつかる用意を、わずかあれから三箇月後に完了したのだった。帆村はそのことを報告するために、一日左倉少佐を訪ねたのであった。左倉少佐はたいへん喜んで、すぐ別室から山岸中尉を呼びよせ、二人で帆村の報告を聞くことにした。

「おかげさまで用意はととのいましたから、いよいよ明日から、ミミ族狩りをはじめます。また御支援を願わねばなりません」

 帆村はミミ族狩りの決行を報告した。

「そうか。いよいよやるか。しかし相手は、人間ばなれのした恐しい奴だから、じゅうぶん気をつけるように……」

 班長は注意を与えた。

「はい。じゅうぶん注意します」

「で、どういう風に、ミミ族狩りをするのか」

「は。ミミ族は、こちらに電子ストロボ鏡のあることを知らないらしく、好きなときに、空から地上へ「魔の空間」を近づけてきます。私はそのうちに、どこか内地の手ごろなところへ下りてくるやつを、攻撃してみるつもりです」

「そうか。で、攻撃兵器は……」

「いま、二種だけ用意してあります。一つは怪力線砲です。これはごぞんじのとおり、短い電磁波を使ったもの。もう一つは音響砲です」

「音響砲、それは初耳だなあ」

 左倉少佐は、山岸中尉と顔を見あわせる。

「班長、その音響砲は、帆村君の最近の発明兵器です。なかなか有効です」

 山岸中尉がにこにこして言った。

「私の発明したものには違いありませんが、大したものではありません。要するに特別の音響が、ホースから水がとびだすように、一本になって相手にかかるのです。この音響は、多くは人類の耳には聞えない超音波です。これを『魔の空間』にあびせると、『魔の空間』を震動させている機関に異状がおこり、そして『魔の空間』は墜落するのではないかと思うのです」

「なるほど、それは面白い考えだ」

「とにかく私の、いま持っている(ねら)いは、『魔の空間』を撃墜するためには、『魔の空間』の原動力になっている、強くて周波数の高い震動を、なんとかして邪魔して停止させることと、もう一つは、ミミ族の生活力は宇宙線であるから、ミミ族を捕らえて、宇宙線の供給をだんだん少くしてゆくと、ミミ族はおとなしくなるだろうということと、この二つです。いかがですか」

 帆村は、二人の顔を見くらべる。

「ミミ族のことは君にまかせるよ。われわれは戦闘を引き受ける。なあ、帆村君」

 少佐はそういって微笑した。

「班長の信頼は大きい。帆村君、しっかり頼むよ」

「山岸中尉。少しは私の考えを批評してください」

「われわれには、よくわからないのだ。正直に言えばね。が、とにかく面白い狙いだと思う。それでやり抜くことにしたがいいなあ」

「そういってくだされば、大いにはげみがつきます」

 帆村は、はじめて笑顔(わらいがお)になった。

 話はそれからいろいろとのびていったが、左倉少佐からも、帆村へ報告すべきことがあった。それは、いまも「魔の空間」にとどまっていると思われる、彗星一号艇の望月大尉たちにたいして、地上から、連日しきりに連絡をとっているが、まだ一度も連絡に成功しないこと、しかしミミ族は、こっちからの無電を聞いているらしく、時々奇妙な音響を聞かせること、それからもう一つの報告は、近くこの臨時研究班は解散し、それにかわって第一宇宙戦隊が編成せられ、左倉少佐が、その司令に就任することが内定しているというのであった。

「ほう、第一宇宙戦隊。いよいよ宇宙戦隊が誕生するのですね。それは結構なことだ。もちろんこれはミミ族と闘うためでしょうね」

「相手はミミ族だけではない。どんな相手であろうと、わが宇宙にけしからん野望をとげようとする者あらば、わが第一宇宙戦隊は容赦しないのだ」

 左倉少佐は決然と言いはなった。

   「魔の空間」の撃墜(げきつい)

 力強い第一宇宙戦隊の産声(うぶごえ)に、感激を新たにして、帆村荘六は、左倉少佐と山岸中尉の(もと)を辞してもどった。こうなれば、帆村の任務もますます重大である。ぜひとも成功して、ミミ族の正体をつきとめねばならない。

 その翌日から、いよいよ帆村所長の指揮で、ミミ族狩りがはじまった。

 電子ストロボ鏡で、天空をのぞいていると、ちょうど天空から、そろそろと降下してくる回転楕円体の「魔の空間」を発見した。それは約十(キロ)ばかり東へいった、山麓(さんろく)附近を目がけて下りてくるようだ。

「出動――」

 帆村は号令をかけた。所員と警備隊員とは、軍用自動車にとび乗って、街道を全速力で東へ走らせた。

 あと一粁ばかりのところで、車はとめられた。そして陣地がつくられ、車の上へ積んできた怪力線砲と、音響砲は下され、対空戦闘の用意はととのえられた。

「戦闘開始」

 と、帆村は警備隊長の竜造寺兵曹長へ命令を発した。竜造寺兵曹長は、こん度は特に志願して帆村の下につき、警備隊を指揮することとなったのだ。「魔の空間」から救いだされて以来、兵曹長は深く感激し、帆村に恩をかえしたいと思いつづけていたのだ。

「怪力線砲、撃ち方はじめ」

 兵曹長は、はじめ打ちあわせた順序により、まず怪力線砲から射撃をはじめた。目に見えないが、強い電磁波は、一直線にのびていって、天空をわが物顔に下りてくる「魔の空間」を突きさした。

「所長。怪力線は『魔の空間』に命中」

 と、兵曹長は叫ぶ。

 帆村はもちろん、電子ストロボ鏡でそれを見まもっていた。

「怪力線、射撃をつづけよ」

 と、帆村は命令して、「魔の空間」にどんな変化がおこるかと、目を皿のようにして見つめていた。が、三十秒、一分、一分三十秒とたっても、「魔の空間」は、なんの変化も示さず、あいかわらずゆっくりと下降をつづけているではないか。

(だめだ。怪力線砲は効果なしだ)

 帆村はそう思った。

「隊長、音響砲で砲撃を……」

 そういって、帆村は竜造寺兵曹長に命令した。

「音響砲、撃ち方はじめ」

 砲撃はすぐはじまったが、光も見えなければ、音もしない。音響はだすが、超音波のことだから、人間の耳には音と感じないのだ。だが、音響砲は頼もしくも、手ごたえがあった。

「あっ、『魔の空間』が落下の速度を早めたぞ。機関が故障になったのだ。ああ、()ちる墜ちる。あそこへ急げ」

 帆村は、狙った「魔の空間」が、音響砲の砲撃のため、故障になって墜落するのを見定めると、全員を急がせて、その落下の場所へ移動を命じた。あと僅か一(キロ)ばかりの距離であった。

 竜造寺隊長の指揮もあざやかに、全員は現場に車を乗り入れると、まだ地上まで墜ちきらない「魔の空間」を中心に、まわりをぐるっと取りまいて、陣地をつくった。

 附近の村の人々は、大さわぎをしている。

「なんだね、あれは……。でっけえ風船みたいじゃが、あんなでけえやつは見たことがねえだ」

「いやな色しとるな。殿様蛙の背中みたいじゃ。やれまあ、気持のわるい」

「これこれ、早く待避せんかちゅうのに。あれが地面にあたって大爆発すると、村の家が皆ふっ飛んでしまうちゅうぞや」

「えっ、それはたいへんじゃ……」

 村人たちは、こわさはこわし、気になるので見てはいたしで、待避壕をはいったりでたりの、混雑をくりかえしている。

 目に見える「魔の空間」だ。それははじめてのことだった。濃緑色と暗褐色のだんだらに塗られた、西瓜(すいか)のお化けのような「魔の空間」だった。

「帆村所長。あの『魔の空間』は、なぜよく見えるのですか」

 と、山岸少年が帆村の腕をひっぱった。

「ああ、そのことか。そのわけは、『魔の空間』の機関が、音響砲にやっつけられて、故障になったのだ。そうなると、『魔の空間』のはげしい震動がぴたりととまってしまったんだ。震動がとまれば、当然われわれ人類の目に見えるわけだ。『魔の空間』にしろ、ミミ族にしろ、震動していればこそ、われわれの目に見えないのだ。だから理窟はわかるだろう」

 帆村は説明してやった。

「すると、この前鉱山で解剖されかけた、ミミ族が、急に空中へとびあがり、姿が見えなくなったのは、そのときやっぱり震動を起したからですか」

「そうだ。解剖の前までは、あの緑鬼は仮死状態になっていたのさ。そのうちに、地上を飛んでいる宇宙線を吸って体力を回復(かいふく)し、空中へとび上ったのだ、そして身体の震動が一定のはげしい震動数に達したとき、われわれの目にはもう見えなくなったのだ」

「ふしぎな生物ですね、ミミ族は……」

「いや、今わかっているのは、彼らのほんの一部がわかっているだけにすぎない。ほんとうの正体は、これから探しあてるのだ。……ほら、いよいよ『魔の空間』が地面に激突するぞ」

 ものすごい光景が、起るだろうと予想していた者は、あてがはずれた。「魔の空間」は、すこしばかり土煙をあげ、二三度(はず)んだだけで、あとは丸パンを置いたように、ふくらんだ上部はそのままにして、地上へべったりと腰を下した。その大きさは、二階建の国民学校一棟が楽にはいるほどであった。だから、なかなか大きいものだった。

「隊長、攻撃だ。音響砲で攻めてみてください」

 帆村が竜造寺隊長に言った。

 警備隊員は、長い双眼鏡に引金をつけたような、奇妙な形の音響砲を手にとって、墜落した「魔の空間」に近づいていった。

「困ったなあ、中が見えない。帆村所長、なんとか処置がないですか」

 竜造寺隊長が困った顔でふりかえる。

「うまくゆくかどうかわからないが、サイクロ銃で切ってみよう」

 帆村は所員に持たせてあった、サイクロ銃をとりあげ、台尻を肩におしあてた。これは中性子を利用したすごい透過力のある銃である。あまり遠くまではきかないが、二百(メートル)以内なら、岩でも鋼板でもすぱりと切ってしまう力がある。そして近ければ近いほど、その透過力は一点に集中できる便宜があった。

 帆村は大胆にも、そのサイクロ銃をいつでも発射できるように身構えて、ずんずん「魔の空間」に近づいた。

「所長、あぶない。一人では危険だ」

 と、隊長が注意して、隊員とともに、すぐ後から追いかけた。と、帆村はどうしたわけか、五十米手前で、銃を持ったまま、ばったり倒れてしまった。

   ミミ族の正体

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