湯島詣

26話 言語道断 二十六

1,152字 約2分 2018年11月4日 公開

読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
組み方

「悪く思ってくれちゃあ困るよ、僕はね、知ってる(とおり)、遊ぶのはお前がはじめてだ。商売だから嘘を()くもんだと思っていたんだけれども、お前が見ッともない、たというそにでも好いたとか、何とかいって、そうして好いた真似(まね)をして見せる分には、好かれた者に違いはないのだから、好かれたんだと思っておいでなされば()い。いやに疑るのは見っともない、男らしくもない、とそういうから、成程そうだと、自分(ぎめ)で、好かれてると思ってる。ああ、ずっと()れられたんだと思って、これでも色男に成済(なりすま)しているんだ。だから、何も洗い(だて)をして、どうの、こうのと、詮議立(せんぎだて)をするんじゃあないけれども、今来る途中で、松の(すし)が、妙なことをいって(あて)(こす)ったよ。」

(いや)だ!」

 蝶吉は(ねや)透見(すきみ)したものを、(はずか)しめ、且つ自分のしどけなかったのを()ずるごとき、荒ッぽい調子であったが、また自ら(あやぶ)んで、罪の宣告を促して弱々しく、

「何か言っていましたか。」

「残らず、」と神月はきっぱり言った。

「へい、」と真面目に、蝶吉はたちまち三ツばかりものの言いざまに年紀(とし)を取ったが、急に気を換えて、

「だって、すっかり()くなってよ。西洋じゃあ(みんな)平気ですって。また田舎なんぞには当前(あたりまえ)だと思ってますとさ、(わたい)もうさっぱりしたんです。

 体にも障らなかったといって、今夜ねえ、床上げやら、何やらで、内の(ねえ)さんが赤飯を炊いてくれました。そして一杯飲んだんですもの、祝ったくらいじゃあありませんか、不可(いけな)くッて、え、え?」

 蝶吉は梓が何か易からぬ面色(おももち)があるのを見て、怪しむ様子。

 梓は急に(ことば)も出でず腕を(こまぬ)いて黙然としていた。

「よう、何を(ふさ)ぐのよ、(わたい)のことなんですか、不可くッて、」

「可いも悪いもお前、」

 言語道断だ。

「だってしかたがないじゃあありませんか、」と詮方(せんかた)なげに蝶吉はぱっちりした目を細うして、下目使いで莞爾(にっこり)したが、顔を上げてまじくりして、

「もっとも何なのよ。一度そんなことをしたものは、もうもう一生子供は出来ないッていうのよ。ですけれども、貴方嬰児(あかんぼ)はいらないんでしょう、ぎゃあぎゃあ泣いて可煩(うるさ)いから大(きらい)だって言ったじゃあありませんか。ですもの、三ツばかりの()が、父さん、母さんッて、生意気な口を利くのが可愛いんですから、余所(よそ)から貰うことにでもしましょうッていったら、それさえ面倒だ、可愛い口を利かせるなら鸚鵡(おうむ)を飼えば沢山だッて言ったんですもの。」

 梓呆れ果てて言葉なし。

 蝶吉はしたり顔で、

「ほら、御覧なさいな、可いじゃあありませんか、(わたい)も嬰児なんか欲しくないんですから、」

 と言い懸けて少し体を(ななめ)にして、秋波(ながしめ)で男を見ながら指示(さししめ)すがごとく、その胸に手を当てた。

「こっちのお乳をお(かず)にして、こっちの(おおき)い方をお(まんま)にして食べるんだって、」とぐッと()め附けて肩を(すぼ)め、笑顔で身顫(みぶるい)をして、

「厭、痛いわ!」

目次に戻る

目次