三人の盲の話

1話

1,158字 約2分 2022年11月4日 公開

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「もし/\、其處(そこ)()らつしやりますお(かた)。」……と()ぶ。

 ()ばれた坂上(さかがみ)は、()(こゑ)()くと、外套(ぐわいたう)(えり)から()悚然(ぞつ)とした。……(たれ)()可厭(いや)な、何時(いつ)(おぼ)えのある可忌(いまは)しい調子(てうし)()ふのではない。が、辿(たど)りかゝつた()のたら/\(あが)りの(なが)(さか)の、(した)から(ちやう)中央(なかば)(おも)(ところ)で、(もや)のむら/\と、(うご)かない(うづ)(なか)を、()(がく)れに、()いつ(しづ)みつする(てい)で、跫音(あしおと)(きこ)えぬばかり――四谷(よツや)(とほ)りから(あな)横町(よこちやう)(つゞ)く、(さか)(うへ)から、しよな/\()りて()て、擦違(すれちが)つたと(おも)ふ、と()(こゑ)

 (なん)約束(やくそく)もなく、(おも)ひも()けず行逢(ゆきあ)つたのに、ト()ながら行過(ゆきす)ぎるうち、()れなり何事(なにごと)()しには(わか)れまい。()ぶか、()めるか、(きつ)(くち)()くに(ちが)ひない、と坂上(さかがみ)不思議(ふしぎ)にも()(おも)つた。(もつと)(それ)は、或機會(あるきつかけ)五位鷺(ごゐさぎ)闇夜(やみ)(さけ)ぶ、(からす)()く、と(おな)意味(いみ)で、()くものは、其處(そこ)自分(じぶん)一人(ひとり)でも、(とり)(たれ)(むか)つて()ぶのか(わか)らない。けれども、可厭(いや)な、可忌(いまは)しい(こゑ)()かずには()むまい、と(おも)ふと(あん)(ぢやう)……

 ()て、()行逢(ゆきあ)つたものは、(ひと)ならびに(なら)んだ三(にん)づれで、どれも悄乎(しよんぼり)とした按摩(あんま)である。

 (なか)(はさ)まれたのは、弱々(よわ/\)と、(くび)(しろ)い、(かみ)()い、中年増(ちうどしま)(おも)(をんな)で、(りやう)(かた)がげつそり()せて、(えり)引合(ひきあは)せた(そで)(かげ)が――()せた(むね)(さう)乳房(ちぶさ)まで()(とほ)るか、と薄暗(うすぐら)く、(すそ)をかけて、(おび)(いろ)(おな)じやうに――(くろ)()して、ぴた/\ぴた/\と草履穿(ざうりばき)か、(つち)とすれ/\の(つま)()た。

 (さき)()つたのは(ねずみ)であらう、夜目(よめ)には()(もや)()つてなやした、被布(ひふ)のやうなものを、ぐたりと()て、(ふち)なしの帽子(ばうし)らしい、ぬいと、のはうづに(たか)い、坊主頭(ばうずあたま)()のまゝと()ふのを(かぶ)つた、(せい)のひよろりとしたのが、(どう)(うね)らして……(とほ)る。

 (あと)なる一人(ひとり)は、中脊(ちうぜい)(ほそ)(をとこ)で、眞中(まんなか)の、()盲目婦(めくらをんな)(かみ)(かげ)にも(かく)れさうに、(おび)(からだ)附着(くツつ)けて行違(ゆきちが)つたのであるから、(なり)恰好(かつかう)()れも判然(はつきり)としない(なか)に、()の三人目(にんめ)のが就中(なかんづく)(おぼろ)()えた。

 ()(くせ)、もし/\、と()つた、……(こゑ)()くと、一番(いちばん)あとの按摩(あんま)呼留(よびと)めた(こと)が、()うしてか()ぐに()れた……

(わたし)かい。」

 と()ぐに(こた)へて、坂上(さかがみ)()のまゝ立留(たちど)まつて、振向(ふりむ)いた……ひやりと(かた)から(すく)みながら、矢庭(やには)()える(いぬ)に、(畜生(ちくしやう)、)とて擬勢(ぎせい)(しめ)意氣組(いきぐみ)である。

「はあ、お前樣(まへさま)で。」

 と(しづ)んで()ふ。(はた)せる(かな)殿(しんがり)痩按摩(やせあんま)で、()(くち)をきく(とき)(もや)()ぐ、(つゑ)(かい)に、(なゝ)めに(にぎ)つて、(さか)の二三()(ひく)(ところ)に、伸上(のびあが)るらしく仰向(あをむ)いて()た。

 (さき)二人(ふたり)(あたま)(なが)いのと、(なに)かに黒髮(くろかみ)(むす)んだのは、芝居(しばゐ)樂屋(がくや)鬘臺(かつらうけ)に、(まげ)をのせて、(さかさ)(つる)した風情(ふぜい)で、前後(あとさき)になぞへに(なら)んで、(むか)うむきに()つて、同伴者(つれ)の、()うして立淀(たちよど)んだのを()つらしい。

 坂上(さかがみ)外套(ぐわいたう)(そで)()ぢて、(くびす)(よこ)ざまに()みながら、中折(なかをれ)(ひさし)から、對手(あひて)眉間(みけん)()かし()つつ、

(わたし)(よう)か。」

一寸(ちよつと)……お(はな)しが……ありまして……」と落着(おちつ)いたのか、(いき)だはしいのか、(ふゆ)()ふけをなまぬるい。

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