1話 雪の女王 ――七つのお話からできている物語――(1)
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さいしょのお話
鏡と、鏡のかけらのこと
さあ、いいですか、お話をはじめますよ。このお話をおしまいまで聞けば、わたしたちは、いまよりも、もっといろいろなことを知ることになります。それは、こういうわけなのですよ。
あるところに、ひとりのわるいこびとの妖魔がいました。それは妖魔の中でも、いちばんわるいほうのひとりでした。つまり、「悪魔」です。ある日のこと、悪魔は、たいそういいごきげんになっていました。というのは、この悪魔は、まことにふしぎな力をもつ、一枚の鏡をつくったからでした。つまり、その鏡に、よいものや、美しいものがうつると、たちまち、それが小さくなり、ほとんどなんにも見えなくなってしまうのです。ところが、その反対に、役に立たないものとか、みにくいものなどは、はっきりと大きくうつって、しかもそれが、いっそうひどくなるというわけです。たとえようもないほど美しい景色でも、この鏡にうつったがさいご、まるで、煮つめたホウレンソウみたいになってしまうのです。どんなによい人間でも、みにくく見えてしまいます。さもなければ、胴がなくなって、さかさまにうつってしまうのです。顔は、すっかりゆがめられてしまって、見わけることさえできません。そのかわり、そばかすが一つあっても、それが、鼻や口の上までひろがって、はっきりと見えてくるしまつです。
「こいつは、とてつもなくおもしろいや」と、悪魔は言いました。たとえばですよ、なにか信心深い、よい考えが、人の心の中に起ってきたとしますね、すると、鏡の中には、しかめっつらがあらわれてくるのです。こびとの悪魔は、自分のすばらしい発明に、思わず、吹き出してしまいました。悪魔は、妖魔学校の校長をしていましたが、この学校にかよっている生徒たちは、みんな、奇蹟が起った、と、言いふらしました。そして、いまこそはじめて、世の中と、人間のほんとうの姿が見られるのだ、と、口々に言いました。
こうして、みんなが、その鏡をさかんに持ち歩いたものですから、とうとうしまいには、その鏡に、ゆがんでうつらない国も、人間も、なくなってしまいました。そこで、今度は、天までのぼっていって、天使や、神さまをからかってやろうと、とんでもないことを考え出しました。みんなが、鏡を持って、高くのぼっていくと、鏡の中にうつるしかめっつらが、ますますひどくなってきました。そして、鏡をしっかり持っているのが、やっとになりました。みんなは、それでもかまわず、ずんずんのぼっていって、だんだん神さまと天使のところに近づきました。
が、そのとき、鏡は、しかめっつらをしながら、おそろしくふるえだしました。そのため、とうとう、みんなの手から離れて、地上に落っこちてしまいました。そして、何千万、何億万、いやいや、もっとたくさんの、こまかいかけらに、くだけてしまいました。こうして、いままでよりももっと大きな不幸を、世の中にまき散らすことになったのです。というのは、くだけ散ったかけらの中には、やっと砂粒ぐらいの大きさしかないのも、いくつかあったからです。こういうかけらは、広い世の中にとび散りました。そして、それが、人間の目の中にはいると、そこにいすわってしまうのです。そうすると、その人の目は、なにもかもあべこべに見たり、でなければ、物のわるいところばかりを、見てしまうようになるのです。なにしろ、一つ一つの、ほんの小さな鏡のかけらでも、鏡ぜんたいと、同じ力を持っているのですからね。
小さな鏡のかけらは、幾人かの人たちの心の中にさえ、はいりこみました。しかし、そうなると、ほんとうにおそろしいことです。その人の心は、ひとかたまりの氷のようになってしまうのです。また、鏡のかけらの中には、窓ガラスに使われるくらい、大きいのもありました。けれども、この窓から友だちを見ようとしたところで、そんなことは、とてもむりな話です。それから、めがねになった、かけらもあります。けれども、このめがねをかければ、物を正しく見たり、正しくふるまったりすることは、とうていできません。これを見た悪魔は、笑いころげて、もうすこしで、おなかが、破裂してしまいそうになりました。でも、ゆかいでたまりませんでした。まあ、それはともかくとして、外では、まだこの小さなガラスのかけらが、空中を舞っていました。
さあ、それでは、つぎのお話を聞きましょう!
二番めのお話
男の子と女の子
大きな町には、たくさんの家があって、大ぜいの人が住んでいます。ですから、みんながみんな、めいめいの庭を持つだけの場所がありません。それで、たいていの人は、植木ばちに花を植えて、それで満足しなければならないのです。
ちょうどそういうような町に、ふたりの貧しい子供がいました。ふたりは、植木ばちよりもいくらか大きい庭を持っていました。このふたりは、兄妹ではありませんが、まるで、ほんとの兄妹のように仲よしでした。ふたりの両親は、おとなりどうしで、どちらも屋根裏部屋に住んでいました。一方の家の屋根は、おとなりの家の屋根につづいていて、両方ののきを、雨どいがつたっていました。そして、その二つの屋根裏部屋から、小さな窓がむかいあっていて、といを、ひとまたぎしさえすれば、一方の窓からむこうの窓へ行くことができました。
どちらの両親も、窓のそとに大きな木の箱を置いて、その中に、みんなの食べる野菜を植えていました。それから、小さなバラも、一かぶずつ植えていました。バラは、みごとにしげっていました。そして、この箱は、といをまたいで置いてありましたので、箱の両はしが、もうすこしで、むこうの家の窓にとどきそうになっていました。ですから、両側に、いきいきとした、二つの花のかべができているようなぐあいでした。エンドウのつるは、箱の外へたれさがり、バラの木は長い枝を出して、窓のまわりにからみついて、たがいにおじぎをしあっていました。そのありさまは、まるで、緑の葉と花とでできた、がいせん門を見るようでした。箱はずいぶん大きかったし、それに、子供たちは、その上にはいのぼってはいけないと言われていましたから、ふたりはときどき、おかあさんのおゆるしをいただいて、屋根の上に出ました。そして、バラの下に置いてある、小さな椅子に腰かけて楽しくあそびました。
冬になると、こういう楽しみもなくなりました。窓ガラスは、よく、こおりついてしまいました。でも、そんなときには、子供たちは、銅貨をストーブであたためて、その熱い銅貨を、こおりついた窓ガラスに押しあてました。そうすると、そこに、まん丸い、すてきな、のぞき穴ができるのです。両方の窓ののぞき穴からは、やさしい、なごやかな目が、一つずつ、のぞいていました。それは、小さい男の子と、女の子の目でした。男の子はカイ、女の子はゲルダといいました。夏のあいだは、ふたりとも、ひとまたぎで、行ったり、来たりすることができました。ところが、冬になると、たくさんの階段をおりて、それからまた、たくさんの階段をのぼっていかなければなりません。外では、雪が、さかんに降っていました。
「あれは、白いミツバチが、むらがっているんだよ」と、年とったおばあさんが言いました。
「あの中には、ミツバチの女王もいる?」と、小さい男の子がききました。この子は、ほんとうのミツバチの中には女王がいることを、ちゃんと知っていたのです。
「ああ、いるよ」と、おばあさんは言いました。「女王バチはね、ミツバチが、いちばんたくさんむらがっているところを、とんでいるんだよ。みんなの中で、いちばん大きいのが女王バチでね、地面の上にちっともじっとしていないんだよ。黒い雲のほうへ、すぐまたとんでいってしまうのさ。冬の夜には、女王バチは、よく、町の通りをとびまわって、ほうぼうの家の窓からのぞきこむんだよ。そうして、ふしぎなことに、そのまま窓ガラスにこおりついてしまって、まるで、花をくっつけたようになるんだよ」
「うん、ぼく、見たことあるよ」「あたしもよ」と、ふたりの子供は、口々に言いました。そして、ふたりとも、それがほんとうのことだということを知りました。
「雪の女王は、ここへはいってくることができる?」と、小さい女の子がたずねました。
「はいってきたっていいや」と、男の子は言いました。「そしたら、ぼく、あついストーブの上にのせてやるから。そうすりゃ、とけちまうさ」
けれども、おばあさんは、男の子の髪の毛をなでながら、ほかのお話をして聞かせました。
夕方、カイは、部屋の中で着物をぬいでいました。ぬぎかけで、窓ぎわの椅子の上によじのぼって、小さなのぞき穴から外をのぞいてみました。外には、雪のひらが、二つ三つ、ひらひらと舞っていました。その中でいちばん大きいのが、花の箱のふちにのっかりました。と、その雪のひらは、みるみる大きくなって、とうとう、女の人の姿になりました。そのひとが身につけている着物は、とてもうすい、まっ白なしゃでできていましたが、それは、お星さまのようにキラキラする雪のひらを、何百万も集めてつくったものでした。そのひとは、見れば見るほど美しい、ほっそりとしたひとでした。でも、からだは、氷でできていました。キラキラする、まぶしいほどの氷で、できているのでした。それでも、そのひとは生きていました。目は、明るい、二つのお星さまのように、かがやいてはいましたが、おちついた、やすらかなようすは見えませんでした。女のひとは、窓のほうにむかってうなずきながら、手まねきしました。男の子は、ふるえあがって、椅子からとびおりました。なんだか、そのとき、窓の外を、一羽の大きな鳥が、とびさったような気がしました。
あくる日は、霜のおりた、よいお天気になりました。――それから、雪がとけはじめました。――やがて、春になりました。お日さまはキラキラかがやき、緑の草が顔を出し、ツバメは巣をつくりました。そして、窓は、あけはなたれました。小さな子供たちは、ふたたび、高い高い屋根の上の、小さいお庭にすわって、あそびました。
バラの花は、この夏は、たとえようもないほど美しく咲きました。小さな女の子は、讃美歌を一つおぼえました。その中には、バラの花のこともうたってありました。そして、歌の中にバラの花のことが出てくるたびに、女の子は、自分の花のことを思い出しました。女の子は、男の子にうたって聞かせました。そして、男の子も、いっしょにうたいました。
バラの花 かおる谷間に
あおぎまつる おさな子イエスきみ
それから、子供たちは、手を取りあって、バラの花にキスをしました。そして、神さまの明るいお日さまの光をあおいで、まるで、そこにみどり子イエスさまがいらっしゃるように、話しかけました。なんという美しい夏の日でしょう! 家の外で、いきいきとしたバラの花にかこまれているのは、まことに気持のよいものです。バラの花は、いつまでもいつまでも、咲きつづけようとしているようでした。
カイとゲルダは、そこにすわって、動物や鳥の絵本を見ていました。そのとき、教会の大きな塔で、時計がちょうど五時を打ちました。――カイが、こう言いました。
「あ、いたっ! 胸のとこを、なにかに、ちくりとさされたよ。目の中に、なにかはいったんだ!」
小さな女の子は、男の子の首をだきました。男の子は、目をぱちぱちやりました。けれども、なんにも見つかりませんでした。
「もう出てしまったんだろう」と、男の子は言いました。でも、まだ出てしまったのではありません。あの鏡、ほら、あの悪魔の鏡からとび散った、小さなかけらの一つが、とびこんだのです。わたしたちは、まだよくおぼえていますね。あのわるい鏡には、ふしぎな力があって、なんでも大きく美しいものは、小さくみにくく見えるのに、わるい、いやなものは、はっきりと大きくうつって、物のわるいところばかりが、すぐに目につくのでしたね。カイの心臓の中には、そのかけらが一つはいったのです。かわいそうなカイ! カイの心臓は、まもなく、氷のかたまりのようになるでしょう。しかし、いまは、もう、いたくはありません。けれども、やっぱりそれは、まだはいっていたのです。
「どうして泣くんだい?」と、カイはききました。「なんて、へんてこな顔をしてるんだい! ぼくは、もうなんともないんだぜ。チェッ!」それから、すぐまた、きゅうにさけびました。「そこのバラは、虫にくわれてらあ! それからさ、あっちのは、あんなにまがってるよ。きたならしいバラの花だなあ! まるで、植わっている箱みたいだ!」
こう言うと、カイは、はげしく箱をけとばしました。それから、二つのバラの花を、むしりとってしまいました。
「カイちゃん、なにするのよ!」と、女の子はさけびました。カイは、ゲルダがびっくりしたのを見ると、さらに、もう一つのバラの花も、むしってしまいました。そして、かわいらしいゲルダのそばを離れて、自分の家の窓の中にとびこんでしまいました。
それから、ゲルダが絵本を持っていくと、今度は、カイは、そんなのは赤ん坊の見るものだ、と言いました。また、おばあさんがお話をすると、ひっきりなしに、「だって、だって」と言っては、口をはさみました。そればかりではありません。すきさえあれば、すぐに、おばあさんのうしろへまわります。そして、めがねをかけて、おばあさんの話すまねをするのです。しかも、それがとってもうまかったので、みんなは、大笑いをしました。まもなく、カイは、近所じゅうの人たちの話し方も、歩き方も、まねすることができるようになりました。みんなのくせとか、よくないところを、カイは、じょうずにまねすることができました。それを見て、人々は、
「あの子の頭はすばらしい!」と、言いあいました。
けれども、それは、カイの目の中にはいって、心臓の中につきささっている、ガラスのせいだったのです。カイを心の底から好いている、小さなゲルダをさえ、からかうようになったのも、そのためだったのです。
あそびかたも、これまでとは、すっかりかわってきました。なんとなく、頭を働かせるような、あそびになりました。――雪の降りしきっている、ある冬の日のことでした。カイは、大きなレンズを持って、外に出ました。そして、自分の青い上着のすそをひろげて、その上に、雪のひらをつもらせました。
「ゲルダちゃん、このレンズをのぞいてごらん」と、カイは、言いました。見れば、雪のひらの一つ一つが、たいへん大きくなって、美しい花か、六角形のお星さまのようでした。それは、ほんとうに美しいものでした。
「ほら、とってもうまくできてるだろう」と、カイは言いました。「ほんとの花なんかより、ずっとおもしろいじゃないか。みんな、きちんとして、わるいとこなんか、ちっともないんだからね。だけど、とけなきゃいいんだけどなあ!」
それからすこしたつと、カイは大きな手袋をはめ、そりを肩にかついで、出てきました。そして、ゲルダの耳もとにこう言いました。「ぼくはね、みんなのあそんでいる広場で、そりに乗ってもいいって、言われたんだよ」こう言うと、カイは、さっさと、行ってしまいました。
広場では、いせいのいい子供たちが、ときどき、自分たちのそりを、お百姓の車に結びつけては、ずいぶん遠くまで、いっしょに走っていました。そうすると、すばらしく、よく走るのです。こうして、みんなが、いかにも楽しそうにあそんでいると、大きなそりが一台、やってきました。そのそりは、まっ白にぬってありました。なかには、あらい、白い毛皮にくるまって、白い、あらい帽子をかぶった人が、すわっていました。
このそりは、広場を二回、ぐるぐるまわりました。カイは、自分の小さなそりを、すばやく、そのそりに、しっかりと結びつけました。すると、カイのそりも、いっしょに走り出しました。そりは、だんだん早くなりました。またたくうちに、となりの通りへはいりました。そのとき、そりを走らせていた人が、ふりかえって、カイに親しそうに、うなずいてみせました。なんだか、ふたりは、もう前から知っているような気がしました。カイが、自分の小さなそりをほどこうとすると、そのたびに、その人がうなずいてみせるのです。それで、カイは、ついそのまま、また、すわってしまうのでした。
まもなく、ふたりは、町の門を通りぬけました。雪は、ますますはげしく、降ってきました。目の前に手をのばしても、もう見えないくらいになりました。けれども、そりはどんどん走りつづけます。そのとき、カイは、いそいで綱をゆるめて、大きなそりから離れようとしました。しかし、そうしてみたところで、どうにもなりません。カイの小さなそりは、大きいそりに、しっかりと結びつけられているのです。しかも、二つのそりは、風のように早く走っていきます。
カイは、大きな声でさけびました。でも、だれの耳にも聞えません。雪は降りしきっています。そりは、矢のようにとんでいきます。ときどき、そりは、はねあがりましたが、それは堀や生垣をとびこしているようでした。カイは、こわくてたまらなくなって、「主の祈り」をとなえようとしました。ところが、どうしても、大きな九九の表しか思い出すことができないのです。
雪のひらは、だんだん大きくなって、とうとう、大きな白いニワトリのようになりました。そして、それらが両側にとびのくといっしょに、大きなそりがとまりました。すると、そりを走らせていた人が、立ちあがりました。見れば、毛皮も、帽子も、雪でできています。そのひとは、すらりとした、背の高い女のひとでした。かがやくように白い、女のひとでした。このひとこそ、雪の女王だったのです。
「ずいぶん遠くまできたのよ」と、雪の女王は言いました。「おやおや、ふるえているのね。わたしのシロクマの毛皮の中に、おはいりなさい!」女王は、こう言うと、カイを大きなそりに乗せて、自分のそばにすわらせました。そして、毛皮をかけてやりましたが、カイは、まるで雪の吹きだまりの中に、はいったような気がしました。
「まだふるえているの?」と、雪の女王はたずねました。そして、カイのひたいにキスをしました。ああ、しかし、なんというつめたさでしょう! 氷よりも、もっとつめたいのです。そして、それはもう氷のかたまりになりかけていた、カイの心臓の中にしみこみました。カイは、いまにも死にそうな気がしました!――けれども、それはほんの一瞬でした。すぐに、気持がよくなりました。もう、自分の身のまわりのつめたさを、感じなくなったのです。
「ぼくのそり! ぼくのそりを忘れないでね!」カイは、そりのことを、なによりもさきに思い出したのです。そこで、そりは、白いニワトリの一羽にゆわえつけられました。ニワトリは、そりを背中に乗せて、あとからとんできました。雪の女王は、カイにもう一度キスをしました。すると、カイは、小さなゲルダのことも、おばあさんのことも、家のことも、みんな、きれいに忘れてしまいました。
「もう、キスはしてあげないよ」と、雪の女王は言いました。「今度わたしがキスをすると、おまえは死ぬことになるからね」
カイは、雪の女王をながめました。なんという美しさでしょう! これよりもかしこそうな、じょうひんな顔は、思いうかべようとしても、とても思いうかべることはできません。この姿を見れば、いつか、窓の外から、自分のほうへ手まねきした時のように、氷でできているとは、とても思えません。カイの目には、女王は、どこにも欠点のない、美しい人に見えたのです。いまでは、すこしもこわくはありません。
そこでカイは、女王に、自分は暗算ができることを、それも、分数の暗算ができることを話したり、国の平方マイルのことや、「人口はどのくらい?」のことなどを、話したりしました。女王は、しょっちゅう、にこにこして聞いていました。けれども、カイは、自分の知っていることは、まだまだじゅうぶんではないような気がしました。ふと、広い広い大空を見上げました。すると、女王はカイを連れて、空高く黒い雲の上までとんでいきました。あらしが、ものすごい音をたてて、吹きまくっています。まるで、むかしの歌でもうたっているようでした。ふたりは、森をこえ、湖をこえ、海をこえ、陸をこえて、とんでいきました。はるか下のほうでは、寒い風が、ピューピュー吹いていました。オオカミがほえていました。雪がキラキラ光っていました。その上を、黒いカラスが、カーカー鳴きながら、とんでいきました、上のほうには、お月さまが、大きく、明るく、かがやいていました。長い長い冬の夜じゅう、カイは、そのお月さまをながめていました。そして、昼のあいだは、雪の女王の足もとで眠りました。
三番めのお話
魔法を使うおばあさんの花園