16話 消えたゾウ
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しかし、時はたっていきました。あと、もう五分で十時です。
四分、三分、二分……。ああ、その長かったこと!
とうとう一分前になりました。
チクタク、チクタク、腕時計の秒をきざむ音が耳につきます。あと、六十秒で十時なのです。
三人とも、まっさおになっていました。まるで、死刑の時がせまってくるような恐ろしさです。
二十秒、十秒……。
「あっ、あと五秒です。」
山口青年が、気でもちがったような、とんきょうな声をたてました。
そういううちに、ああ、ついに、十時きっかりになりました。
「十時です。……あいつは、とうとう、やってこなかったですね。」
恩田さんが、ほっと、ためいきをついて、ひとりごとのように言いました。
「もう、十時一分すぎました。あいつは、約束を守らなかった。恩田さん、われわれの勝ちですね。」
松波博士もうれしそうです。
「ワハハ……。ざまあみろ。二十面相のやつ、とうとう、手も足も出なかったじゃないか。あいつの負けですよ。ワハハハ、こいつはおかしい。」
山口青年が、またもや、気ちがいのように、わめくのでした。
すると、その時です。
「おれは、負けなかったよ。」
どこからか、気味のわるい声がひびいてきました。
思わず、三人は顔を見合わせました。
ああ、あいつは、やっぱり、部屋の中へしのびこんでいたのでしょうか。
「きさま、どこにいるんだっ! なんといったって、きさまの負けだぞっ。金庫は、一度も開かなかったじゃないか。とびらを開かないで、どうして中のものが、取りだせるのだ。
真珠のゾウは、金庫の中に、ちゃんとはいっている。きさまの負けだっ!」
山口青年が、空中を見すえながらさけびました。
「ウフフ……、とびらを開かないでも、とりだせるかもしれないよ。おれは、魔法つかいだからな。とにかく、金庫の中を調べてみるがいい。ゾウがまだあるかどうかね。」
恩田さんは、それを聞くと、心配のあまり金庫の前にとんでいって、暗号錠をまわそうとしました。
「あっ、待ってください。あいつの手かもしれません。あけないほうがいいと思います。」
山口青年が、恩田さんの手をひっぱって、とめました。
「おい、おい、なにを言っているんだ。今、なん時だと思うね。もう十時十分すぎだぜ。おれは十時と言ったら、十時かっきりだ。十分もすぎてからぬすむなんて、そんなまぬけなことはしないよ。まあ、ためしに金庫をあけてみたまえ。ゾウがはいっていたら、おなぐさみだよ。」
また、あやしい声です。さっきは、部屋の右のすみから聞こえてきたのが、こんどは、左のすみからです。目に見えないやつは、かってに部屋の中を歩きまわっているらしいのです。
そうまで言われては、開いてみないわけにはいきません。
「よし、それじゃあ、金庫をあけますよ。ふたりとも、わたしのそばによって、ゾウを守ってください。あいつが、横から手だしができないようにね。」
恩田さんが金庫に近づくと、松波博士も、山口青年も、そのうしろからついていきました。
暗号錠のダイヤルがまわされ、とびらがゆっくり開かれていきます。
あっ、なんでしょう? へんな音がしました。プスッというような音です。鉄のとびらが、きしんだのでしょうか……。
恩田さんが、あやしんで、開く手をとめました。
「あけてごらんなさい。ためらっていても、しかたがありません。」
博士が口ぞえをしたので、恩田さんは、ぜんぶとびらを開きました。
「やっ、ないっ。ゾウがなくなっているぞっ。」
恩田さんが、さけびました。
さっきまであったゾウが、かき消すように、なくなっているのです。
松波博士も山口青年も、からっぽの金庫の中をのぞきこみました。なにもないのです。
博士は、キョロキョロと、部屋の中を見まわしました。
「ふしぎだ、今の間に、透明人間が持っていったとしても、ゾウの姿は見えるはずです。自分のからだでない物まで消すことはできないはずです。エジプトの巻き物の時でも、巻き物だけは目に見えた。それが、人間の手首といっしょに、空中を飛んでいった。ところが、今はなにも飛ばなかった。ゾウは、まったく消えてしまったのです。」
これは、いったいどうしたことでしょう。一度も開かなかった金庫の中から、三人が見はっている前で、あの真珠のゾウが、なくなってしまったのです。
「アハハ……、おどろいたか。おれは、どんなふしぎでも、やってみせるのだ。魔法つかいだからな。真珠のゾウは、たしかにちょうだいした。おれの美術館に、またひとつ宝物がふえたのだ。」
そして、目に見えないやつは、どこにも出入り口のない地下室から、ゆうれいのように、外へ出ていったらしく思われました。
「ちくしょうめっ。」
山口青年は、くやしまぎれに、階段をかけあがって、その上にしまっている板戸に、ぶつかっていきました。
しかし、そこには、だれもいません。どこか、部屋の外の遠くのほうから、かすかに、笑い声が聞こえてくるばかりです。
山口青年は、すごすごともどってきました。そして、三人は、ぼんやりと顔を見合わせて、つっ立っているばかりです。
その時、階段の上の板戸を、コツコツと、たたく音が聞こえてきました。
だれでしょう。刑事が、あいずをしているのかもしれません。
「なんのご用ですか? あやしいやつが出ていくのを見ませんでしたか?」
恩田さんは、板戸の下までのぼって、大声に聞きかえしました。
板戸の上から、かすかな声がします。
「なにも見ません。宝物は、だいじょうぶですか?」
もう、とられてしまったのですから、板戸をしめておくことはありません。
五人の刑事が、どやどやと、下へおりてきました。そして、恩田さんから、ゾウが消えてしまったと聞くと、みんな、あっけにとられるばかりでした。
「おや、きみはどうして、ここへはいってきたのだ。あっちへ行っていなさい。」
刑事のひとりが、しかるように言いました。みんなのうしろに、かわいい女中さんが立っていたからです。
「この子はいいんですよ。きみ、なにか、わたしに言いたいことがあるのかね。」
恩田さんは、この女中さんが、小林少年の変装だということを、知っていたからです。
「ええ、ちょっと、お話がありますの。」
ああ、小林君は、これから、なにを言いだすのでしょうか?