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千葉海岸の詩

原 民喜 全9話 383字 2022年3月13日

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1. a

我れ生存に行き暮れて

足どり鈍くたたずめど

満ち足らひたる人のごと

海を眺めて語るなり

2. b

あはれそのかみののぞき眼鏡に

東京の海のあさき色を

今千葉(ここ)に来て憶ひ出すかと

幼き日の記憶熱をもて妻に語りぬ

3. c

ここに来て空気のにほひを感じる

うつとりと時間をかへりみるのだ

ひなげしの花は咲き

麦の穂に潮風が吹く

4. d

青空に照りかがやく樹がある

かがやく緑に心かがやく

海の近いしるしには

空がとろりと潤んでゐる

5. e

広い眺めは横につらなる

新しい眺めは茫としてゐる

遠浅の海は遠くて

黒ずんだ砂地ばかりだ

6. f

暗い海には三日月が出てゐる

暗い海にはほの明りがある

茫として微かではあるが

あのあたりが東京らしい

7. g

外に出てみると月がある

そこで海へ行つてみた

舟をやとつて乗出した

やがて暫くして帰つた

8. h

夜の海の霧は

海と空をかくし

眼の前に闇がたれさがる

闇が波音をたてて迫る

9. i

日は丘にあるが

海はまだ明けやらぬ

潮の退いた海にむかつて

人影は一つ進んで行く

千葉海岸の詩 — 原 民喜 — https://noveliz.cc/n/d6j1s6zdct

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