16話 モリス・マアテルリンク こころ
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わが心
ああ、げに蔽はれたるわが心かな。
わが願の羊群は温室の内に在りて、
牧に暴風の來るを待つ。
まづ最も病めるものを訪はむ。
そはあやしき臭を放てり。
その中に入れば、われ母と共に戰場を過ぐる如し。
眞晝がた人人、一戰友を葬り、
歩哨は時の食を喫す。
また最も弱きものを訪はむ。
そはあやしき汗を流したり。
こゝに新婦は病み、
日曜に謀叛起り、
小兒、牢に引かる。
(その先、はるかに霧を隔てて、)
厨の口に横はるは垂死の女か、
あるは不治の患者の床の下に野菜を切る看護の尼か。
終に最も悲しきものを訪はむ。
(毒あるが故に、これを最後にしたり。)
ああ、わが唇は手負の接吻を受く。
この夏、城の妃は皆わが心の塔の内に餓死したり。
今ここに曙の光、祭を照し、
河岸づたひ羊の歩むを見る、
また病院の窓に帆あらはる。
胸より心へ行く道の遠さよ。
歩哨は悉く受持の地に死したり。
ひと日わが心の郊外に小やかなる祭ありき。
日曜の朝、人、失鳩答を苅入れたり。
天晴れたる斷食の日、尼寺の童貞は擧りて運河に船の行くを眺めたり。
其時、白鳥は毒水の橋の下に惱みぬ。
囹圄の周なる樹樹の枝は伐りとられ、
六月の午後、人、藥水を齎し、
患者の食は眼路のかぎりに擴げられたり。
わが心よ。
萬物の悲しさ、ああ、わが心よ、ああ、萬物の悲しさ。