牧羊神

16話 モリス・マアテルリンク こころ

530字 約1分 2011年2月20日 公開

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わが心

ああ、げに(おほ)はれたるわが心かな。

わが(ねがひ)羊群(やうぐん)温室(をんしつ)の内に在りて、

(まき)暴風(あらし)(きた)るを待つ。

まづ最も()めるものを()はむ。

そはあやしき(にほひ)を放てり。

その(なか)()れば、われ母と共に戰場を過ぐる如し。

眞晝(まひる)がた人人(ひとびと)一戰友(いちせんいう)を葬り、

歩哨(ほせう)は時の(しよく)(きつ)す。

また最も弱きものを訪はむ。

そはあやしき汗を流したり。

こゝに新婦(しんぷ)()み、

日曜に謀叛(むほん)起り、

小兒(せうに)(らう)に引かる。

(その(さき)、はるかに霧を隔てて、)

(くりや)の口に横はるは垂死(すゐし)(をんな)か、

あるは不治(ふぢ)の患者の(とこ)(した)野菜(やさい)を切る看護の尼か。

(つひ)に最も悲しきものを訪はむ。

(毒あるが故に、これを最後(さいご)にしたり。)

ああ、わが唇は手負(ておひ)接吻(せつぷん)を受く。

この夏、城の(きさき)は皆わが心の塔の(うち)餓死(がし)したり。

今ここに曙の光、祭を照し、

河岸(かし)づたひ羊の歩むを見る、

また病院の窓に帆あらはる。

胸より心へ行く道の遠さよ。

歩哨は悉く受持の地に死したり。

ひと日わが心の郊外に(さゝ)やかなる祭ありき。

日曜の(あさ)、人、失鳩答(しきうた)苅入(かりい)れたり。

(そら)()れたる斷食(だんじき)の日、尼寺(あまでら)童貞(どうてい)(こぞ)りて運河に船の行くを眺めたり。

其時、白鳥(はくてう)毒水(どくすゐ)の橋の(した)に惱みぬ。

囹圄(ひとや)(めぐり)なる樹樹(きぎ)の枝は()りとられ、

六月(ろくぐわつ)の午後、人、藥水(やくすゐ)を齎し、

患者の(しよく)眼路(めぢ)のかぎりに擴げられたり。

わが心よ。

萬物の悲しさ、ああ、わが心よ、ああ、萬物の悲しさ。

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