牧羊神

23話 モリス・マアテルリンク 俊傑

834字 約2分 2011年2月20日 公開

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「智慧」は山嶽の中腹に坐して、

山川の白波(しらなみ)

左に折れ、

右に()れ、

谷間の岩を縫ひつ、(まと)ひつ、

流るるを見て、

分別らしき眼差(まなざし)に、不安の色を浮べたれど、

井然(せいぜん)たる山下(さんか)の村落に、

(くびき)(つな)がれたる(うし)(うま)

列も亂さず、靜かに勞作に向ふを見ては、

「智慧」の腦中に築かれたる宮殿に、

炬火(たいまつ)の焔、沈として、平安は(もど)り來りぬ。

平靜なる山川の景に、何の變化も無し。

人もし仰いで高きを望まば、

「智慧」は徐ろに手を擧げて、

(いちじ)るき山()()すを知らむ。

唯ひとりかの炎々たる熱望を抱きて、

(ひと)たび昇るとも、又更に高く昇らむとする人、

かの金色(こんじき)眩暈(げんうん)を避け難き人は、

其精神の聲のみを聞きて、毫も他を聞かず。

其大飛躍に足代(あししろ)となるものは喜悦なり、

危きを冒し、難きに就く沈痛の喜悦なり。

飄逸にして且活躍を好む其心は、

大風(たいふう)の黒き喇叭のいと微かなる音をだに逸せず。

斯る人は人生の戰鬪を一の祝祭とす、

そこには人、(ぐん)を成して行かず、ひとり行くを悦ぶ。

眼もくらむ深雪(みゆき)の光、

白妙の(けん)が峰を被ふ葬衣(はふりぎぬ)

かじかむ指を噛み、張りつむる胸を(むし)る。

大風(たいふう)擦子(おろし)、極寒の萬力(まんりき)

岩より岩へ轉ずる雪なだれ、

是等のものも(つひ)に止めえじ、

かの肅々(しゆく/\)として頑強に(いただき)を極めむとする(あゆみ)を。

しかすがに樂しきは谷底の命かな。

人の姿、人の聲、

()(むしろ)とし、日光を敷石としたる(へや)

砂石(しやせき)(かめ)、木づくりの古椅子。

週の日はすべて

勞作と辛苦との淺黒き(やぶ)に暮しつ。

日曜のたび毎に

紅白の花をかざして、

朝には御堂(みだう)の鐘の聲を()く。

夕されば、少女(をとめ)の姿、つねよりも(あだ)めきて、

口ふるれば、耻らひて身は(すく)めども、

かたくなに否むとに非らず、忽ちに(うべ)なふもよし。

されど、かの絶壁の細道をたどりて

徐ろにのぼりゆく人々は、

喜悦に醉ひ、未來に醉ひ、

人里を思ひ出づる歌聲に耳をも()さず、

孤獨なるその振舞を世の人の顧みずとも何かあらむ、

天に向ひ、無限に向ひ、今開く此戸よりして、

後の世は(こぞ)りて必らず續かむと、

わが夢の(はて)をも問はず、

(いたゞき)(きん)の照しと白雪(しらゆき)と蹈み轟かし、

いや高き光を、空に仰ぎつつ、

築き上げたる熱望と意志との(いはほ)

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