牧羊神

7話 ジュル・ラフォルグ 月光

480字 約1分 2011年2月20日 公開

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とてもあの星には住まへないと思ふと、

まるで鳩尾(みづおち)でも、どやされたやうだ。

ああ月は美しいな、あのしんとした中空(なかぞら)

(なつ)八月(はちぐわつ)良夜(あたらよ)に乘つきつて。

帆柱(ほばしら)なんぞはうつちやつて、ふらりふらりと

()けてゆく、雲のまつ(くろ)けの崖下(がけした)を。

ああ()つてみたいな、無暗(むやみ)()つてみたいな、

(たふと)いあすこの水盤(すゐばん)()つてみたなら(さぞ)よからう。

(つき)さまは(めくら)だ、險難(けんのん)至極(しごく)な燈臺だ。

哀れなる哉、イカルスが幾人(いくたり)()ておつこちる。

自殺者の眼のやうに、(あが)つてござるお月樣、

吾等疲勞者大會の議長の席につきたまへ。

(つめ)たい頭腦で遠慮無く散々(さんざん)(けな)して(もら)ひませう、

とても(なほ)らぬ官僚主義で、つるつる禿()げた凡骨(ぼんこつ)を。

これが最後の睡眠劑か、どれひとつその丸藥(ぐわんやく)

どうか世間の石頭(いしあたま)へも()けて呑ませてやりたいものだ。

どりや(うはぎ)甲斐甲斐(かひがひ)しくも、きりりと羽織(はお)つたお月さま、

愛の(ひえ)きつた世でござる、何卒(どうぞ)(えびら)の矢をとつて、

よつぴき引いて、ひようと()ち、この世に住まふ翅無(はねなし)

人間どもの心中(しんちゆう)(なさけ)(たね)を植ゑたまへ。

大洪水(だいこうずゐ)に洗はれて、さつぱりとしたお月さま、

解熱(げねつ)(かう)あるその光、今夜(こんや)ここへもさして來て、

寢臺(ねだい)一杯(いつぱい)(みなぎ)れよ、さるほどに小生も

この浮世から手を洗ふべく(さふらふ)

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