1話 ガブリエレ・ダンヌンチオ 燕の歌
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彌生ついたち、はつ燕、
海のあなたの靜けき國の
便もてきぬ、うれしき文を。
春のはつ花、にほひを尋むる
あゝ、よろこびのつばくらめ。
黒と白との染分縞は
春の心の舞姿。
彌生來にけり、如月は
風もろともに、けふ去りぬ。
栗鼠の毛衣脱ぎすてて、
綾子羽ぶたへ今樣に、
春の川瀬をかちわたり、
しなだるゝ枝の森わけて、
舞ひつ、歌ひつ、足速の
戀慕の人ぞむれ遊ぶ。
岡に摘む花、菫ぐさ、
草は香りぬ、君ゆゑに、
素足の「春」の君ゆゑに。
けふは野山も新妻の姿に通ひ、
わだつみの波は輝く阿古屋珠。
あれ、藪陰の黒鶫、
あれ、なか空に揚雲雀。
つれなき風は吹きすぎて、
舊巣啣へて飛び去りぬ。
あゝ、南國のぬれつばめ、
尾羽は矢羽根よ、鳴く音は弦を
「春」のひくおと、「春」の手の。
あゝ、よろこびの美鳥よ、
黒と白との水干に、
舞の足どり教へよと、
しばし招がむ、つばくらめ。
たぐひもあらぬ麗人の
イソルダ姫の物語、
飾り畫けるこの殿に
しばしはあれよ、つばくらめ。
かづけの花環こゝにあり、
ひとやにはあらぬ花籠を
給ふあえかの姫君は、
フランチェスカの前ならで、
まことは「春」のめがみ大神。