海潮音

1話 ガブリエレ・ダンヌンチオ 燕の歌

458字 約1分 2011年2月20日 公開

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彌生(やよひ)ついたち、はつ燕、

海のあなたの靜けき國の

便(たより)もてきぬ、うれしき(ふみ)を。

春のはつ花、にほひを()むる

あゝ、よろこびのつばくらめ。

黒と白との染分縞(そめわけじま)

春の心の舞姿。

彌生來にけり、如月(きさらぎ)

風もろともに、けふ去りぬ。

栗鼠(りす)毛衣(けごろも)脱ぎすてて、

綾子(りんず)羽ぶたへ今樣(いまやう)に、

春の川瀬をかちわたり、

しなだるゝ枝の森わけて、

舞ひつ、歌ひつ、足速(あしばや)

戀慕の人ぞむれ遊ぶ。

岡に摘む花、菫ぐさ、

草は香りぬ、君ゆゑに、

素足の「春」の君ゆゑに。

けふは野山も新妻(にひづま)の姿に通ひ、

わだつみの波は輝く阿古屋珠(あこやだま)

あれ、藪陰(やぶかげ)黒鶫(くろつぐみ)

あれ、なか(そら)揚雲雀(あげひばり)

つれなき風は吹きすぎて、

舊巣(ふるす)(くは)へて飛び去りぬ。

あゝ、南國(なんごく)のぬれつばめ、

尾羽(をば)矢羽根(やばね)よ、鳴く()(つる)

「春」のひくおと、「春」の手の。

あゝ、よろこびの美鳥(うまどり)よ、

黒と白との水干(すゐかん)に、

舞の足どり教へよと、

しばし招がむ、つばくらめ。

たぐひもあらぬ麗人(れいじん)

イソルダ姫の物語、

飾り(ゑが)けるこの殿(との)

しばしはあれよ、つばくらめ。

かづけの花環こゝにあり、

ひとやにはあらぬ花籠を

給ふあえかの姫君は、

フランチェスカの前ならで、

まことは「春」のめがみ大神(おほがみ)

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