妖怪研究

1話 妖怪研究(1)

1,900字 約4分 2007年12月6日 公開

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       一 ばけものの起源

 妖怪(えうくわい)研究(けんきう)()つても、(べつ)專門(せんもん)調(しら)べた(わけ)でもなく、(また)さういふ專門(せんもん)があるや(いな)やをも()らぬ。()(かく)(わたし)はばけものといふものは非常(ひぜう)面白(おもしろ)いものだと(おも)つて()るので、(これ)(くわん)するほんの漠然(ばくぜん)たる感想(かんさう)を、(いさゝ)(こゝ)()ぶるに()ぎない。

 (わたし)のばけものに(くわん)する(かんが)へは、世間(せけん)所謂(いはゆる)化物(ばけもの)とは餘程(よほど)範圍(はんゐ)(こと)にしてゐる。()づばけものとはどういふものであるかといふに、元來(ぐわんらい)宗教的信念(しうけうてきしんねん)(また)迷信(めいしん)から(つく)()されたものであつて、理想的(りさうてき)(また)空想的(くうさうてき)()形象(けいしやう)假想(かさう)し、(これ)極端(きよくたん)誇張(こてう)する結果(けつくわ)(いきほ)異形(いげう)(さう)(てい)するので、(これ)(わたし)のばけものゝ定義(ていぎ)である。(すなは)(わたし)()ふばけものは、餘程(よほど)範圍(はんゐ)(ひろ)解釋(かいしやく)であつて、世間(せけん)所謂(いはゆる)化物(ばけもの)は一の分科(ぶんくわ)()ぎない(こと)となるのである。世間(せけん)で一(くち)化物(ばけもの)といふと、(なに)妖怪變化(えうくわいへんげ)魔物(まもの)などを意味(いみ)するやうで(きは)めて淺薄(せんぱく)らしく(おも)はれるが、(わたし)(かんが)へて()るばけものは、餘程(よほど)(ふか)意味(いみ)()るものである。(とく)藝術的(げいじゆつてき)觀察(くわんさつ)する(とき)非常(ひぜう)面白(おもしろ)い。

 ばけものゝ一(めん)(きは)めて雄大(ゆうだい)全宇宙(ぜんうちう)抱括(はうくわつ)する、(しか)()の一(めん)(きは)めて微妙(びめう)で、(ほとん)()()(さい)(わた)る。(すなは)(もつと)高遠(かうゑん)なるは神話(しんわ)となり、(もつと)卑近(ひきん)なるはお伽噺(とぎばなし)となり、一(ぱん)學術(がくじゆつ)(とく)歴史上(れきしじやう)(おい)ても、(また)(ぱん)生活上(せいくわつじやう)(おい)ても、(じつ)微妙(びめう)なる關係(くわんけい)(いう)して()るのである。()歴史上(れきしじやう)(また)社會生活(しやくわいせいくわつ)(うへ)からばけものといふものを取去(とりさ)つたならば、(きは)めて乾燥無味(かんさうむみ)のものとなるであらう。(したが)つて吾々(われ/\)()らず()らずばけものから(あた)へられる趣味(しゆみ)如何(いか)豊富(ほうふ)なるかは、想像(さうざう)(あま)りある(こと)であつて、(たしか)にばけものは社會生活(しやくわいせいくわつ)(うへ)に、(もつと)()くべからざる要素(えうそ)の一つである。

 世界(せかい)歴史(れきし)風俗(ふうぞく)調(しら)べて()るに、何國(なにこく)何時代(なにじだい)(おい)ても、化物思想(ばけものしさう)()(ところ)(けつ)して()いのである。(しか)らば化物(ばけもの)(かんが)へはどうして()()たか、(これ)研究(けんきう)するのは心理學(しんりがく)領分(れうぶん)であつて、吾々(われ/\)門外漢(もんぐわいかん)であるが、(わたし)(かんが)へでは「自然界(しぜんかい)(たい)する人間(にんげん)觀察(くわんさつ)」これが(この)根本(こんぽん)であると(おも)ふ。

 自然界(しぜんかい)現象(げんしやう)()ると、()るものは非常(ひぜう)(うつく)しく、()るものは非常(ひぜう)(おそ)ろしい。(あるひ)神祕的(しんぴてき)なものがあり、(あるひ)怪異(くわいい)なものがある。(これ)には(なに)(その)(おく)偉大(ゐだい)(ちから)(ひそ)んで()るに相違(さうゐ)ない。(この)偉大(ゐだい)現象(げんしやう)(おこ)させるものは人間以上(にんげんいじやう)(もの)人間以上(にんげんいじやう)(かたち)をしたものだらう。(この)想像(さうざう)宗教(しうけう)(もと)となり、化物(ばけもの)創造(さうざう)するのである。(かつ)(また)人間(にんげん)には由來(ゆらい)好奇心(かうきしん)()る。(この)好奇心(かうきしん)刺戟(しげき)せられて、空想(くうさう)空想(くうさう)(かさ)ね、(つひ)珍無類(ちんむるゐ)(かたち)創造(さうざう)する。(ゆゑ)化物(ばけもの)各時代(かくじだい)各民族(かくみんぞく)(かなら)()くてならない(こと)になる。(したが)つて世界(せかい)各國(かくこく)(その)民族(みんぞく)差異(さい)(おう)じて化物(ばけもの)(ことな)つて()る。

       二 各國のばけもの

 ばけものが(くに)によりそれ/″\(こと)なるのは、各國(かくこく)民族(みんぞく)先天性(せんてんせい)にもよるが、(また)土地(とち)地理的關係(ちりてきくわんけい)によること非常(ひぜう)(だい)である。(たと)へば日本(にほん)小島國(せうたうごく)であつて、氣候(きこう)温和(をんわ)山水(さんすゐ)(がい)して平凡(へいぼん)別段(べつだん)高嶽峻嶺(かうがくしゆんれい)深山幽澤(しんざんゆうたく)といふものもない。(すべ)てのものが小規模(せうきも)である。その我邦(わがくに)雄大(ゆうだい)化物(ばけもの)のあらう(はず)はない。

 古來(こらい)我邦(わがくに)化物思想(ばけものしさう)(はなは)幼稚(えうち)で、(あるひ)(ほとん)()かつたと()つて()(くらゐ)だ。日本(にほん)神話(しんわ)化物(ばけもの)傳説(でんせつ)(はなは)(すくな)い。日本(にほん)神々(かみ/\)日本(にほん)祖先(そせん)なる人間(にんげん)であると(かんが)へられて、化物(ばけもの)などとは(おも)はれて()ない。それで神々(かみ/\)(うち)別段(べつだん)異樣(いやう)(さう)をしたものはない。猿田彦命(さるたひこのみこと)(はな)(たか)いとか、天鈿目命(あまのうづめのみこと)(かほ)がをかしかつたといふ(くらゐ)のものである。(また)化物思想(ばけものしさう)具體的(ぐたいてき)(あら)はした()(あま)(おほ)くはない。記録(きろく)(あら)はれたものも(ほとん)()く、弘仁年間(こうにんねんかん)藥師寺(やくしじ)(そう)景戒(けいかい)(あらは)した「日本靈異記(にほんれいいき)」が(もつと)(ふる)いものであらう。今昔物語(こんじやくものがたり)にも往々(わう/\)化物談(ばけものだん)()()る。

 日本(にほん)化物(ばけもの)後世(こうせい)になる(ほど)面白(おもしろ)くなつて()るが、(これ)(はじ)日本(にほん)地理的關係(ちりてきくわんけい)化物(ばけもの)想像(さうざう)する餘地(よち)がなかつた(ため)である。其後(そのご)支那(しな)から、道教(だうけう)妖怪思想(えうくわいしさう)()り、佛教(ぶつけう)(とも)印度思想(いんどしさう)(はい)つて()て、日本(にほん)化物(ばけもの)此爲(このため)餘程(よほど)豊富(ほうふ)になつたのである。(たと)へば、印度(いんど)の三()明王(めうわう)(へん)じて通俗(つうぞく)の三()入道(にふだう)となり、鳥嘴(てうし)迦樓羅王(かろらわう)(へん)じてお伽噺(とぎばなし)烏天狗(からすてんぐ)となつた。(また)日本(にほん)小説(せうせつ)によく(あら)はれる魔法遣(まはふづか)ひが、不思議(ふしぎ)(げい)(えん)ずるのは(おほ)くは、一(はん)佛教(ぶつけう)から一(はん)道教(だうけう)仙術(せんじゆつ)から()たものと(おも)はれる。

 日本(にほん)化物(ばけもの)貧弱(ひんじやく)なのに(たい)して、支那(しな)()ると(まつた)(ことな)る、支那(しな)はあの(とほ)尨大(ぼうだい)(くに)であつて、西(にし)には崑崙雪山(こんろんせつざん)諸峰(しよぼう)際涯(はてし)なく(つらな)り、あの(ふか)山岳(さんがく)(おく)には屹度(きつと)(なに)(おそろ)しいものが(ひそ)んでゐるに相違(さうゐ)ないと(かんが)へた。(きた)にはゴビの大沙漠(だいさばく)があつて、これにも(なに)怪物(くわいぶつ)()るだらうと(かんが)へた。彼等(かれら)はゴビの沙漠(さばく)から()(かぜ)惡魔(あくま)吐息(といき)だと(かんが)へたのであらう。()くて支那(しな)には(むかし)から化物思想(ばけものしさう)非常(ひぜう)發達(はつたつ)(なか)には(きは)めて雄大(ゆうだい)なものがある。(もつと)儒教(じゆけう)(はう)では孔子(こうし)怪力亂神(くわいりきらんしん)(かた)らず、鬼神妖怪(きじんえうくわい)()かないが道教(だうけう)(はう)では(さかん)(これ)唱道(しやうだう)するのである。

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