14話 怪塔王(14)
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頭の上から、さっと照らしつけた青い光!
「おやっ――」
と、小浜兵曹長は、上を見あげました。
すると、下から二十メートルもあろうと思われる高い天井に、一つの青電灯がついたことがわかりました。
それと共に、今小浜兵曹長のいる室内の様子が、青い光に照らし出されて、大分はっきりわかってまいりました。
それは、実に細長い室でありました。まるで、煙突の中にいるような気がします。兵曹長の横たわっている所は、円くて、そして人間がやっと手足をのばして寝られるくらいの広さの床をもっていました。そこから上は、まっすぐに円筒形の黒い壁になっていました。
「ふん、怪塔王が好きらしい造りの牢獄だ」
その黒い壁に、もしや上にのぼれる梯子のようなものでもあるかと思いましたから、よく気をつけて眺めました。しかしそのような足掛りになるものは何一つとてなく、全くつるつるした壁でありました。
その時、小浜兵曹長の頭に、ちらりとひらめいた疑問がありました。
「なぜ、今頃になって、天井の青い電灯がついたのだろうか」
これはなにか、小浜兵曹長に対し、上からピストルでもうちかけるのではないかと思われました。そこで彼は身動きもせず、じっと天井の方に油断なく気をくばっていました。
その時でありました。
「はっはっはっはっ」
と、とつぜん破鐘のような笑い声が、頭の上から響いて来ました。
兵曹長は、はっと息をのみました。
「はっはっはっはっ。ふふん、やっぱり貴様だったのか。わしのロケットを執念ぶかくどこまでも追いかけて来た飛行機のりだな。なんだ、変な顔をするな。ははあ、わしがどこから見ているかわからんので、びっくりしているのだろう。あははは、こっちからは、貴様のそのぐるぐる目玉が大見えじゃ」
という声は、正しく怪塔王です!
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怪塔王のしわがれ声は、天井裏からうすきみわるくひびいて来ます。声はきこえますが、怪塔王の姿はふしぎにも見えません。
小浜兵曹長は、傷のいたみもわすれて、怪塔王の声のする方をじっと睨みつけていました。怪塔王は、これから何をしようというのでありましょうか。
「あははは、そんな恐しい顔をしても、もう駄目だよ。この牢獄へはいったが最後、二度と外へは出られないのだ。このへんで、すこし早目にお念仏でもとなえておくがいい」
怪塔王のいうことは、あいかわらず憎々しいことばかりです。このとき、小浜兵曹長はきりりと眉をあげ、
「やい、怪塔王、貴様は俺をなぜこんなところに入れたんだ。俺がどうしたというのか」
「わかっているじゃないか。貴様は、わしの乗っていた怪塔ロケットを空中で攻撃した。そのとき一人だけやっつけたが、貴様を殺しそこなった。わしはそれを残念に思っていたところ、貴様の方から、この白骨島へ踏みこんで来たではないか。そして貴様の方では気がつかないだろうが、あの岡の上から、貴様は怪塔ロケットの根拠地をすっかり見てしまったろう。こんなとこに怪塔ロケットの根拠地があるなんてことは、絶対秘密なんだ。それを知った上からには、いよいよ貴様を殺してしまうほかない」
「ふふん、そんなことか。なんだ、ばかみたいな話ではないか」
「なにがばかだ。こいつ無礼なことをいう」
「だって、そうじゃないか。ここに怪塔ロケットの根拠地があったということは、俺は無電でもって、すっかり本隊へ知らせておいたよ。だから今では、秘密なんてえものじゃないよ。お気の毒さまだね」
「えっ、無電で知らせたのか」
怪塔王の声は、おどろきのために、急にかわりました。ここぞとばかりに、小浜兵曹長は、
「本隊では、いまに大挙して、ここへ攻めて来るといっていたぞ」
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「なに? ここへ大挙して攻めてくるって?」
怪塔王は、思わず聞きかえしました。
小浜兵曹長が、声を大きくして、わが海空軍がこの白骨島へ攻めてくるぞと、おどろかしましたので、怪塔王もさすがにぎょっとしたようでありました。
「どうだ、おどろいたか」
怪塔王は、それには言葉をかえさず、しばらく天井裏からの声はきこえませんでした。
「おい怪塔王、このへんで降参してはどうだ。わるいようには、はからわないぞ」
兵曹長は、牢獄のなかから、大きな声で怪塔王をどなりつけました。
「なにをいうんだ。捕虜のくせに、口のへらない生意気なやつだ」
と怪塔王は、ついに腹をたてたようでありました。
「まあ、そこにそうしてひとりでいばって居るがいい。いまに貴様は、自分でもって、どうしても黙らなきゃならないようにしてやる。そうだ、その前に、貴様にいいものを見せてやる」
「なんだと!」
「ふん、貴様がいま居るところを、どんなところと思っているのかね。まあいい、いま扉をあけて、外を見せてやろう。これを見たら、貴様はもうすこしおとなしくなることだろう。――さあそろそろあけるぞ」
怪塔王の声が、まだおわらないうちに、ふしぎや、彼の頭の上で、ぎいぎいと音がして、壁に四角な穴があきました。そして青い光がすうっとはいってきました。
おや何だろうか。
兵曹長は、痛む体を腕でおこして、頭の上にあいた四角な壁穴をのぞきました。
「ああっ、これは!」
兵曹長は、思わず大きな声を出しました。
四角な壁穴の外にはあついガラスがはってありましたが、その向こうに見えたのは、おそろしい海底の風景でした。
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「どうだ、窓の外が見えるか。ゆっくり見物しているがいい」
そういいすてて、怪塔王の声は、天井裏から消えてしまいました。
窓外は、たしかに深い海底でありました。青い光に照らしだされて、大きな魚がおよいでいるのがみえました。海藻群が、ゆらゆらとまるで風をうけた林のようにゆらいでみえます。見るからに気味のわるい風景です。
そのうちに、小浜兵曹長がとじこめられている部屋の明かりが、海底にさしたものと見えて、魚がゆらゆらとガラス戸のところへ、よって来ました。
それをじっと見ていた小浜兵曹長は、はっとおどろきました。
窓を外からごつんごつんと鳴らしに来る魚が見えましたので、これをとくと見なおしますと、魚も魚、たいへんな魚でありました。それは、長さ四五メートルもあるような鮫だの、海蛇だのでありました。それ等のおそろしい魚は、みな腹をへらしているものと見え、歯をむいて小浜兵曹長の顔がみえる窓のところへ、一つ、また一つとよって来ます。おそろしい海底の有様でありました。
(怪塔王は、おれをこんな魚に食べさせようと考えているのか)
と、小浜兵曹長は、背中がぞっとさむくなるのをおぼえました。
だが、こんな魚に食べられてしまうのは、ざんねんです。なんとかここを逃げだす工夫はあるまいかと、兵曹長は壁をのぼるつもりで、ちょっと手をふれてみましたが、壁はぬらぬらしていて、とてものぼることはできません。さすがの勇士も、しょげていますと、その時、
「小浜さん、今たすけてあげますよ」
と、とつぜん頭のうえで、おもいがけぬ声がしました。兵曹長はおどろいて立ちあがり、上を見上げました。そのとき、上から一本の綱がするすると下って来ました。
生きていた帆村
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おそろしい海底牢獄へ、とつぜん下された綱一本!
兵曹長は、夢かとばかりにおどろきました。とにかく先のことはわかりませんが、これ幸にまずこの海底牢獄からぬけだしたがよいと思いましたので、綱につかまってどんどんあがりました。
煙突のようにほそ長い海底牢獄を、綱をたよりにぐんぐん上へのぼっていきますと、もうあとすぐ天井にぶつかりそうなところに、一つの横穴があいていました。
綱は、そこから下へおろされているのでありました。
「おお、ここにぬけ穴があったか」
小浜兵曹長が、その横穴をひょいと見ると、そこに命の綱を一生懸命に引張っている帆村荘六の姿が、電灯の光に照らされて見えました。
「おお帆村君か。君は無事だったのか」
と、うれしさ一杯で、思わず兵曹長がさけびましたところ、帆村は、
(しーっ。黙っていてください)
と、眼と身ぶりでしらせました。
どうやら帆村は、小浜兵曹長すくいだしの途中で、怪塔王に気どられることを、たいへんおそれているようでありました。
小浜兵曹長にも、すぐそれがわかりましたので、あとは黙々として綱をたぐり、帆村のいる横穴へ匐いこみました。
「帆村君、助けてくれてありがとう」
と、兵曹長が思わず帆村の方へ手をさしだせば、帆村もそれをぐっと握りかえし、
「いいえ、たいしたことではありません。それより僕は、思いがけなく、小浜さんを迎えることができて、どんなにかうれしいんです」
「君こそ、よくこの島にがんばっていてくれたねえ。この島は怪塔王の根拠地らしいが、一体、怪塔王は何を計画しているのかね」
「それはいずれ後からお話しします。しかし、今は、それをお話ししているひまがないのです。それよりも、すぐここを逃げてください」
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「すぐ逃げろというのかね」
と、小浜兵曹長は帆村の顔を見つめ、
「いや、僕は逃げないぞ。怪塔王と一騎うちをやって、生捕にしてやるんだ。あいつは悪い奴だ。わが海軍に仇をするばかりか、俺の大事な部下の青江を殺しやがった。ここまで来れば、俺は命をかけて、怪塔王をとっちめてやるんだ」
小浜兵曹長には、青江三空曹の死が、どんなにか無念であったのでしょう。
「いや、待って下さい。怪塔王をやっつけるには時期があります。とにかく今夜、あらためて僕たちは会いましょう。こうしているうちにも、もし怪塔王がテレビ鏡をのぞけば、あなたの姿も僕の姿も、すっかり見られてしまうんです。見られたら最後、僕たちは殺されてしまいます。さあ、ぐずぐずしないで一刻も早く、ここを逃げて下さい」
帆村は一生懸命に、小浜兵曹長に脱走することをすすめました。
「そうか。そういうことなら、残念ながら、ひとまずここを逃げよう。どっちへ逃げるのかね」
小浜兵曹長は、おさまらぬ胸をやっとおさえました。
「わかってくれましたね。さあ、こっちへついて来て下さい」
帆村は、持って来た綱を、くるくるとまき、束にすると、それを肩にかついで、先に立ちました。横穴はかなり長く向こうへつづいています。
帆村と小浜の両人は、膝がしらが痛んで腫れあがるほど、一生けんめいに匐いました。
横穴はいくたびも曲りましたが、やがてついに尽きて、その代りにぽっかり洞穴に出ました。小浜兵曹長は、やっと腰をのばして、やれやれと背のびをしました。かなり広い洞穴です。じめじめしているのは、やはり海近いことをものがたっているのだと思われました。帆村は先に立って、岩をしきりに押しています。
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帆村は、しきりに岩を押していましたが、そのうちに、ぽっかり穴があきました。とたんに、黄いろい光がすうっとはいってきました。
「小浜さん。ここが海底牢獄の秘密の出入口なのです。さあここから出ていきましょう」
「やあ、まるで冒険小説をよんでいるような気がするなあ。さあ、君のいくところへなら、どこへでもついていくよ」
「ええ、あまり大きな声をしないで、ついてきてください」
二人は秘密の出入口を出ました。外は明かるいお月夜でありました。くもりない濃い紺色の夜空には、銀のお盆のように光ったまんまるい月があがっていました。
「ああ、いい月だ。白骨島にも、こんなにうつくしい月が、光をなげかけるのかなあ」
今までは、どこまでも強いばかりの小浜兵曹長だとばかり思っていましたのに、彼は月をみてこんなやさしいことをいいました。本当の勇士は、強いばかりではなく、また一面には、このようにやさしい気持をもっているものです。
帆村の方は、そんなゆっくりした気持になれません。もしこんなことをしていることを怪塔王や見張番にみつかっては、それっきりです。ですから、兵曹長をはやくはやくとせきたてて、すぐ前を走っている塹壕のような凹んだ道を、先にたってかけだしました。
「どこへいくのかね」
小浜兵曹長も、おくれてはならぬと帆村のあとを追って、どんどんついていきました。
凹んだ道は、かなり曲り曲って、小高い丘の方へつづいていましたが、そこをのぼりきったところに、小さい煉瓦建の番小屋のようなものがありました。
「さあ、ここへはいってください」
帆村にせきたてられて、兵曹長が中にはいってみますと、室内は四畳半ぐらいのひろさで、中には藁が山のように積んでありました。
見張小屋の朝
1
小さい煉瓦建の番小屋――その中に山のように積んである藁!
「ああ、これはなかなかいい寝床がある」
小浜兵曹長は、子供のように無邪気に藁の山へかけあがりました。
このとき帆村は、
「では、小浜さん。だいぶん時間がたちましたから、私は怪塔ロケットへ一たん戻ります。今夜ふけてから、あらためてもう一度まいります。それまで、ここにかくれていてください」
「すぐ訊きたいこともあるんだが、あとからにするか。ではきっと、後から来てくれたまえよ、いいかね」
小浜兵曹長は、帆村をかえしたくはなかったけれど、やむをえず、かえしました。そのあとで、彼は藁の上に大の字になって、のびのびと寝ました。よほど疲れていたのでありましょう。まもなく彼はぐっすりと寝こんでしまいました。
やがて兵曹長が目をさましたときには、あたりはすっかり明けはなれ、明かるい日光が窓からすうっとさしこんでいました。
「あっ、とうとう夜が明けちまった。はてな、昨夜来るといった帆村探偵は、ついに顔を見せなかった。彼は一体どうしたのだろう」
あんなに約束していった帆村が、ついに昨夜やってこなかったということは、兵曹長を不安にしました。ひょっとすると、帆村は昨夜海底牢獄から自分をすくいだしたことを怪塔王にかぎつけられ、そのためにひどい目にあっているのではないかしらんなどと心配しました。
小浜兵曹長は、藁の上からおりて、いつもやりなれている徒手体操をはじめました。連日の奮闘で、体のふしぶしがいたくてたまりません。しかし体操をなんべんかくりかえしているうちに、だんだんなおってきたようです。それがおわると、兵曹長はふかく注意をしながら、そっと窓のところへ寄りました。
そのとき彼の眼は「おやっ」と異様な光をおびました。
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この見張小屋は、小高い丘のうえの岩かげに立っていました。そこからは、この島の怪塔ロケットの根拠地が、一目に見おろせました。
おそろしい白骨島ではありましたが、朝の風景は、たいへんきれいでありました。目の下の広場に林のように立ちならぶ怪塔ロケットは、全身に朝日を浴びて銀色にかがやき、いまにもさっと飛びだしそうに、天空を睨んでいました。
その広場に、ただ一人ぶらぶら歩いている人影がありました。なにか落しものでもしたと見え、背をまるくまげ、しきりに地上をさがしている様子です。なお見ていますと、その人は、深しものをしながら、だんだんこちらへ近づいてくるのでした。
「あの男は、なにを探しているのだろうか」
小浜兵曹長は、たいへん興味をおぼえ、なおも窓のかげから、その男の行動をじっと見守っていました。
その男はだんだん丘の方へ近づいてきます。
そのうちに、男はふと顔をあげました。小浜兵曹長は、そのときはじめて男の顔を正面から見ることができました。
その瞬間、兵曹長はおもわず、
「あっ、あれは怪塔王だ!」
と叫んで、拳をにぎりました。
「たしかに怪塔王だ。あんな妙な顔をしている人間は、二人とないからな」
それからというものは、兵曹長は、前よりも熱心にこっちへ近づいてくる男の行動をじっと見つめていました。そのうちに兵曹長は唇を一の字に曲げ、
「そうだ。よし、これから出かけていって、怪塔王をつかまえてやろう、あいつはまだ俺がここにいることに気がついていないようだから。うむ、こいつは面白くなった」
と、兵曹長は自分の腕を叩いて、にっこり笑いました。
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小浜兵曹長がかくれていた丘の上の見張小屋の方へ近づいてくる人影が、意外にも怪塔王らしいとわかって、兵曹長は、小屋をとびだしました。
(うまく怪塔王のうしろへ出ることができれば、ちょっとした格闘のすえ、怪塔王を捕えることができるはずだ。怪塔王さえ捕えてしまえば、いくら怪塔ロケットがあったとしても、またこの白骨島に根拠地があったとしても、怪塔王たちは俺に降参するよりほかあるまい。うん、これはじつにすばらしい考えだ。よし、怪塔王を捕えてしまえ)
小浜兵曹長の胸は怪塔王を生けどりにした後のうれしさで、わくわくいたしました。
彼は見張小屋を後にし、岩の間をつたわって、だんだん山をおりていきました。
ときどき岩かどから、怪塔王の様子をうかがいましたが、どうやら怪塔王はまだこっちに気がついていないらしく、しきりに地面をさがしていました。
(よしよし、この調子なら、いましばらくは、きっと気がつかないことだろう。さあ早く怪塔王のうしろに廻ろう)
小浜兵曹長の追跡は、いよいよ熱をくわえて来ました。こんなことは軍艦の帆桁から下りるより、ずっとやさしいことでした。
だが、兵曹長はすこしやりすぎてはいないでしょうか。帆村探偵は、兵曹長が怪塔王の仲間に見られることをたいへんおそれていたのに、兵曹長は大胆にも小屋を出て、怪塔王を追いかけているのですから、ちとらんぼうのようにも思われます。
そのうちに、小浜兵曹長はついにうまく怪塔王のうしろに出ました。怪塔王は、なにも知らないで、まだ地面をさがしています。こうなれば、怪塔王は小浜兵曹長の手の中にあるようなものです。
「やっ!」
小浜兵曹長は、掛声もろとも、怪塔王のうしろからとびつきました。
大格闘
1
「この野郎!」
小浜兵曹長は、怪塔王の背後からとびついて、砂原の上におさえつけました。
「ううーっ」
怪塔王は、大力をふるって下からはねのけようとします。
そうはさせないぞと、兵曹長は怪塔王の首を締めるつもりで、右腕をすばやく相手ののどにまわしましたが、その時怪塔王にがぶりと咬みつかれました。
「あいててて」
犬のように咬みつかれたので、小浜兵曹長は、おもわず力をぬきました。
すると怪塔王の腰が、鋼の板のようにつよくはねかえり、あっという間もなく、兵曹長はどーんと砂原の上に、もんどりうって投げだされました。
「しまった」
兵曹長も、さる者です。砂原の上にたたきつけられるが早いか、すっくと立ちあがりました。そして踵をかえすと、弾丸のように、怪塔王の胸もと目がけてとびつきました。
「なにを!」
「うーむ」
小浜兵曹長と怪塔王とは、たがいに真正面から組みつき、まるで横綱と大関の相撲のようになりました。
小浜兵曹長は力自慢でしたが、怪塔王もたいへんに強いので、油断はなりません。
えいえいともみあっているうちに、兵曹長は得意の投の手をかける隙をみつけました。ここぞとばかり、
「えい!」
と大喝一声、怪塔王の大きい体を砂原の上にどーんとなげだしました。
怪塔王は、俵を転がすように、ごろごろと転がっていましたが、やっと砂原の上に起きなおったところをみると、いつの間にか右手に、妙な形のピストル様のものを持っていました。兵曹長は、はっと立ちすくみました。
2
「さあ、寄ってみろ。撃つぞ」
怪塔王は、砂原の上に、妙な形のピストルを手にして、小浜兵曹長の胸もとを狙っています。
これには、勇敢な兵曹長もちょっとひるみました。怪塔王の手にある妙な形のピストルは、このままではどうしても小浜兵曹長の胸を射ぬきそうです。
小浜兵曹長は、じっと怪塔王を睨んで立っていました。
兵曹長の息づかいは、だんだんとあらくなって来ます。額から頬にかけて、ねっとりした汗がたらたらと流れて来ます。
「うぬ!」
とつぜん、兵曹長の体は、砂原の上に転がりました。ごろごろっと転がって、怪塔王の足もとを襲いました。
そうなると、怪塔王のピストルのさきは、どこに向けたがいいのかわかりません。
だだーん、だだーん。
はげしい銃声がしました。砂が白くまきあがりました。
「こいつめ!」
いつの間にか、兵曹長は砂原の上に立ちあがっていました。
ピストルをもった怪塔王の右手に手がかかると、一本背負いなげで怪塔王の体を水車のようになげとばしました。
「ううむ」
小浜兵曹長は、呻る怪塔王に馬のりとなりました。妙な形のピストルは、兵曹長の靴にぽーんと蹴られ、はるか向こうの岩かげにとんでいってしまいました。
「さあ、どうだ。うごけるなら、うごいてみろ」
怪塔王は、帯革でもって後手にしばられてしまいました。怪塔王は、すっかり元気がなくなって砂上にすわりこんでしまいました。
「とうとう怪塔王を生けどったぞ! 怪塔王て、弱いのだなあ」
小浜兵曹長は、両手をあげて、声高らかに万歳をとなえました。
3
怪塔王は捕えられてしまいました。
小浜兵曹長は、大手柄をたてました。天にものぼるような喜びです。
縛られてしまえば、あんがいに弱い怪塔王です。
小浜兵曹長は、このとき怪塔王をひったてて塔のなかにはいり、ロケットを占領してしまおうと考えました。
怪塔王も捕え、怪塔ロケットも占領してしまうとなると、これはまたたいへんな大々手柄です。いさみにいさみ、はりきりにはりきった小浜兵曹長は、
「さあ、歩け!」
と、怪塔王をひったてました。
怪塔王は、おそろしい形相をして、小浜兵曹長をにらむばかりで、なにも口をきかなくなってしまいました。
すぐ近くに見える怪塔ロケットは、舵機を修理したらしいところ、また機体のところにペンキのぬりかえられているところから見て、これが例の、青江三空曹の生命をうばった恨みの怪塔ロケットであると思われました。だから、これが数多いロケット隊の司令機みたいなものでありましょう、兵曹長は、まずこれを占領するのが一番いいことだと思ったので、怪塔王をひったてて入口へさしかかりました。
ロケットの入口は、開いていました。
そのとき、中から、四五人の黒人や、ルパシカを着た東洋人らしい男が出て来ましたが、兵曹長を見ると、びっくりした様子で、腰のピストルをとりだそうといたしました。
「待て」
と、兵曹長は声をかけました。
「撃つのはいいが、撃てばその前に、俺はこの怪塔王の生命を取ってしまうがいいか」
といって、お先まわりをして、怪塔王から奪ったピストルをさしむけました。
これを見て、敵どもは二度びっくりです。怪塔王の生命は、兵曹長にしっかり握られているのです。うっかり撃てません。
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