地底戦車の怪人

7話 地底戦車の怪人(7)

2,102字 約4分 2006年3月5日 公開

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 沖島速夫は、操縦席にのぼると、地底戦車を、ぎりぎりと、前進させ始めた。

 計器の針が、一どにうごきだした。

 (とら)われのリント少将は、

(この小僧め)

 と、沖島のうしろからピストルをつき出そうとしたが、思い出して、そのまま引込めた。いくらここで、ピストルを向けてみても、何にもならないのであった。なぜならば、沖島を撃って傷つけると、あとは誰が、この地底戦車をうごかすのか。リント少将は、ピストルをにぎって勝ってみるのはいいが、少将は、やがてこの戦車の中で、()えと寒さのため死んでしまうだろう。沖島をピストルで撃つことは、この地底戦車の中を自分の墓場とすることだと気がついたリント少将は、せっかく出したピストルを、引込めなければならなかったのである。

「今に、氷上へ、お出しいたしますよ。もうしばらくのご辛抱(しんぼう)です」

 沖島は、ゆうゆうと操縦のハンドルをにぎっていた。

(全く、ピート一等兵は、かわいい男だ。空襲さわぎのとき、パイ軍曹のすきを見て自分のうしろへ、この私をかくし、そして氷上へ出してくれたからな。そのおかげで、自分はうまい機会にリント少将を、戦車の中に缶詰にして、とっさに氷の下へもぐりこんだわけだが、まるで神さまがまもってくださるように、とんとん拍子にいったじゃないか!)

 沖島は、のん気に、そんなことを、思い出していた。

 地底戦車は、ごっとん、ごっとんと、ゆるやかに、氷の中を()っていった。

 その氷の上では、幕僚以下が、いよいよ青くなって大捜索をしているのであった。だが、さっぱり手がかりがない。そうでもあろう。地底戦車がはいりこむときにあけた氷上の穴は一時水がたまっているがさむさのために、たちまち(こお)りついてしまって、穴は元どおりにふさがってしまったから、どこから地底戦車が入りこんだのか、ちっとも見たところでは、分らないのであった。

 地底戦車の中では、沖島速夫が、地図をにらんで、しきりに、しるしをつけていたが、

「さあ、いよいよ氷上に出ますから、御安心ください」

 と、少将の方へあいさつをした。それとともに、地底戦車は、先がぐっとあがり、ぎりぎりと、斜めにのぼり始めた。

「もうすぐです。ちょっと、御覧(ごらん)に入れたいところへ出ますから、そのおつもりで」

 一体、沖島は、地底戦車を、どこへ顔を出させるつもりであろうか。

   大和雪原(やまとせつげん)

 地底戦車は、大きくゆれると、水平にもどって、それから間もなく、エンジンが、(とま)ったのであった。沖島は、操縦席をはなれて、出入口の扉に近よった。

 リント少将は、この中に取り残されてはたいへんと、沖島のあとを追って、彼の腰にだきつかんばかりである。

「リント少将閣下。日本人は、あくまで紳士的ですから、どうぞ御心配なく」

 そういって、彼は、扉を、がらがらとあけた。外から、さっと、まぶしい光線が、はいってきた。

「さあ、少将閣下から、お先にお()でください。この中に、あなたを閉じこめるようなペテンはいたしませんよ」

 リント少将は、いわれるまでもなく、まっ先に、戦車の外にとび出した。彼は、そこで、さっそく部下をよびあつめ、このらんぼうきわまる黄いろい幽霊を、とりおさえさせるつもりだった。

 だが、それは、少将の思いどおりには、いかなかった。

「あっ、ここは……」

 リント少将は、そういって、呆然(ぼうぜん)と氷上にたって、あたりを眺めまわした。

 あたりは、彼の部隊が(たむ)ろしているところとは、ちがう。まず、氷山のうえに、ひらひらとひるがえる日章旗が、リント少将をその場に、すくませてしまった。

「どうです、お分りですか。ここが、どこであるか」

「うむ」

「お分りのはずですが、私が、説明しましょうか。ここは、大和雪原です。西暦でいって千九百十二年、大日本帝国の白瀬(しらせ)中尉がロット海を南に進んで、この雪原に日章旗をたてたのです」

「大和雪原。それなら知っている。ああ、しかしいつの間に日章旗が……おお、そして、いつの間にあのように飛行機が……」

 と、リント少将は、氷上に翼をやすめている飛行機の群を発見して、おどろきの声をあげた。

「いや、別におどろかれることは、ありますまい。ここは、わが大日本帝国の領土であるがゆえに、飛行機がいても、ふしぎではないのではありませんか。わが日本人は今や、世界第一の飛行機乗りになったのです。内地から、こんなところへ飛んでくるのは、なんでもありません。丁度(ちょうど)地底戦車については、貴国が世界一であるのと、似たようなものです。では、少将閣下、大和雪原の日章旗をどうぞお忘れなきように、そしてここで活躍をはじめようとする日本人たちを妨害なさらぬように、私から、とくにお願いいたします。さっきもありましたが、日本機が、弾丸を一発もうたないのに、アメリカ機が、機銃をうって、挑戦してくるなどということは、もうおやめください。そっちの御損ですからね」

「うーむ」

「では、この地底戦車によって、閣下を、再び司令部のあるテント村へお連れいたしましょう。永々、この地底戦車をお借りしていまして、どうもありがとうございました」

 沖島速夫は、そういってリント少将に対して、いんぎんに礼をのべたのであった。

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