大宇宙遠征隊

4話 交替時刻

1,727字 約3分 2004年4月7日 公開

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「第六直艇夫、作業やめ。第一直艇夫、持ち場につけ!」

 高声器から、先任の当直操縦士の声が、ひびきわたる。

「そら、交替だ」

 だっだっだっと、靴音が廊下に入りみだれる。

 風間三郎少年は、ほのあかるい廊下を、元気に、弾丸のようにとんでいって、艇長室の前へいって、直立不動の姿勢をとった。

 噴行艇の中は、ずいぶん規律がきびしかった。作業中は身がるいときは、どんなときでも、()け足ときまっていた。ちょうど、帝国海軍の水兵さんと同じようであった。これはできるだけ敏捷(びんしょう)に身体をうごかす訓練のためと、もう一つは運動不足にならないためであった。すこしぐらい気持のわるい日でも、号令(ごうれい)をかけられて、艇内をあっちへこっちへ、二三度かけまわると、妙に元気をとりもどす。

 艇長室の前には、一人の少年が立って、風間の来るのを待っていた。それは、木曾九万一(きそくまいち)という、またの名、クマちゃんでとおっている、身体の大きな腕ぷしのつよい少年であった。

 風間三郎と、このクマちゃんこと、木曾九万一とは、大の仲よしであった。そこへかけてきた風間少年を見て、木曾は、にんまりと笑ったが、すぐまたもとのいかめしい顔になって、姿勢を正した。

 その間に風間が、気をつけをして立った。

「艇長室(つき)の艇夫交替」

 と、クマちゃんが叫んだ。

「艇長室附の艇夫交替」

 と、風間三郎が、反復していった。

「艇長室に(おい)て、辻艇長は睡眠中、コーヒー(わか)しは、もうすぐにぶくぶくやるだろう。ゴム風船地球儀は、目下印度洋(インドよう)の附近を書いていられる。艇長九時になっても起きないときは、オルゴールを鳴らして起せ。その外、引きつぐべきこと、および異状なし。おわり」

 やれやれ、妙な引きつぎ事項である。しかし艇長室の仕事は、まずこんなところである。風間三郎は、木曾九万一のいったとおりを、もう一度おさらえして(しゃべ)ってみる。

「あっ、いい忘れた。オルゴールの曲は『愛馬進軍歌』をやってくれってさ」

 木曾のクマちゃん、地金を丸だしにして、あわてて、後につけた。

「分りました。交替艇夫、休息についてよろしい」

「え、えらそうなことを!」

 木曾は、赤い舌をぺろんと出して、風間をからかった。そして、うやうやしく挙手の礼をかえして、廊下を向こうへいった。

 こうして、風間三郎が、本日の第一直をうけもつこととなった。次の交替時間は十二時であった。だから今から四時間を、艇長室にいて、艇長の身のまわりの用を()すのであった。

 風間は、艇長室の扉の把手(とって)に手をかけたが、どうしたわけか、すぐ手を放した。そしてその手で、指を折りかぞえ出した。

「ええと、一つ、コーヒー沸しは、もうすこしで、ぶくぶく()き出すぞ。それから二つ、ええと、ゴム風船の地球儀は、印度洋の附近を書いていられるところだと。それから三つ、オルゴールは『愛馬進軍歌』なり。それからもう一つ何かあったようだが……」

 もう一つの引きつぎ事項を、三郎は、(どう)わすれしてしまった。

「まあ、いいや」

 で、三郎は、扉を押して中に入った。

 中には、太陽光線と同じ色の電灯がついている。その電球は、天井一面のすり硝子(ガラス)の中に入っているので、下からは見えない。その代り、天井の上に、本物の太陽の光が、さんさんと照りかがやいているような気がする。とにかく、ここは艇長室だから、とくにいろいろ気をつけてあるのだった。

 部屋の正面に、ジュラルミンの扉がはまっていた。その扉には、薄彫(うすぼ)りの彫刻がしてあって、神武天皇御東征の群像が彫りつけてあった。これは、今大宇宙を(あま)がけりいく、われら日本民族の噴行艇群にうってつけの彫刻だった。

 かたん、かたん、かたん。

 コーヒー沸かしの(ふた)が鳴っている。三郎は、おどろいて、その(かたわら)へいった。すこし沸きかたが早かったようである。

 扉の向こうで、ぐうぐうと、うわばみみたいないびきが聞える。それは、艇長辻中佐の寝息にちがいなかった。中佐のいびきと来たら、これはだれも知らない者はない。

 三郎は、コーヒー沸しの前に、椅子をもっていって、腰を下ろした。そして、手をのばして、地球儀になるゴム風船が、ぺちゃんこのまま、いくつも押しこんである箱を手にとって、その中をさがしはじめた。

 すこぶるのんびりした朝の風景だった。

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