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書翰 059 大正十三年十一月四日 川端康成宛

横光 利一 全1話 962字 2020年6月14日

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1. 書翰 059 大正十三年十一月四日 川端康成宛

59 十一月四日消印 東京市外中野上町二八〇二より東京市本郷區駒込三十八牧瀬方の川端康成宛(封書・四百字詰原稿用紙五枚・ペン書)

昨日はどうも失禮。

とにかく癪に觸る。加宮や菅は論ずるに足らないとして、中河だつてさうだ。中河はあれを校正してをきながら、何ぜ俺か君かに一口知らさなかつたのか、もしそれだけの敏感さを持つて知らしてくれたら、俺なり君なり直接菊池氏の所へ行つて菊池氏に撤回させたんだ。もしそれでもきかないなら、そのときはそのときだつたのだ。とにかくあまり誰も彼も鈍感すぎる。かかる鈍感さは罪惡だ。俺たち文藝時代の者の競走心をマークで煽動させてをいて結團心を邪魔させ、その隙に乘じてあの大家達をどつしりと坐らせやうとした腹、憎むべき奴らだ。こんなことに加宮や菅が鈍感であつたと云ふことは、その鈍感の質が實に下品で露骨で、見るにたへん。これ以上文藝時代ともあらうものが、背競べをさせられて、しかも平氣で背くらべをして大家を持ち上げて默つてゐると云ふその顏つきは見てゐられないではないか。俺は自分一個の腹立たしさではないのだ。

こんなことを平氣で文藝春秋がやつたと云ふことは、第一、君と僕との顏をもうめちやくちやに踏み潰したんだ。君と俺との文藝時代の者達に對する苦境なんかも全然無視したやり方だ。いづれあんな背くらべをマークでされてゐて、默つてゐる奴ばかりもなからうと思ふが。もし默つてゐる奴ばかりなら、そのときは俺一人、文壇と角力を取つて、負けても勝つてもいい、打ち死にする覺悟だつたのだ。君に一言云はなかつたのは惡かつたのはそれは先づ赦して貰ひたい。君がゐなかつたのだから。

しかし、あのときは君がゐても僕はもう君の云ふことをきかなかつたと思つたからそれほど癪に觸つてゐたから、同感してくれるのは君と今と二人だらうと思つたのだ。他の者は僕に同感してくれてもしてくれなくともどうでもそんなことはかまはなかつたのだ。

蟲が良すぎると思つてはくれるな。僕はそれほど君を信頼してゐたのだから。

しかし、此の癪はこのままではとてもおさまらない。もし此のままで、をさまり返つてゐるやうな文藝時代だつたら、もうその時はその時だ。あまりにあほらしいからね。

とにかく、まだまだ納つてゐられない理由はこれだけではないが、とにかくまたお逢ひしたとき。

書翰 059 大正十三年十一月四日 川端康成宛 — 横光 利一 — https://noveliz.cc/n/dsj2307d9f

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