透明人間

31話 うらぎられた透明人間 悪魔と天使

1,636字 約3分 2010年8月22日 公開

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「ところで、きみはこれから、どうするつもりだい? なんのために、このバードック町にやってきたんだ?」

 はじめに下宿(げしゅく)放火(ほうか)、つぎに、古着屋(ふるぎや)でおそろしい殺人(さつじん)をやりかけている。よくもわずかの間に、とんでもないことを仕出(しで)かしたものだと、むかしの友人のかわりはてた異様(いよう)なすがたをながめながら、ケンプ博士(はくし)がたずねた。

「うん。ぼくがここにきたのは、国外(こくがい)にのがれたかったからさ。はだかで暮らすのには、イギリスはまだ、(さむ)すぎるよ。洋服(ようふく)をきればすぐ人にあやしまれて、追いまわされるし、ぼくは、もっと(あたた)かい地方へいってしまいたいと思って、この港町(みなとまち)へきたのだ」

「それで?」

「ここからは、フランス行きの便船(びんせん)がでる。フランスへわたり、汽車(きしゃ)でスペインへいって、そこからアフリカのアルジェリアへいくつもりだ。アルジェリアなら、姿(すがた)をけしてはだかで暮らしても、いっこう(さむ)くはないだろうからね」

「アフリカにいくのか?」

「そうだ。ぼくの秘密(ひみつ)がしれてしまったからには、もう、どうしようもない……。ところが、それには、ぼくひとりではやれないのだ。ぼくが荷物(にもつ)をもって歩くわけにはいかない。そうすると、このまえの金貨(きんか)空中(くうちゅう)をとぶような(さわ)ぎになって、すぐ、大さわぎになってしまうんだ。そこで、あの浮浪者(ふろうしゃ)をやとったんだが、だいじな研究(けんきゅう)ノートと(かね)をもって、にげてしまった」

「浮浪者は警察(けいさつ)にいるよ」

「えっ、あいつが……」

 透明人間(とうめいにんげん)が、すっくと立ちあがった。

 そのとき、玄関(げんかん)のベルがなった。

 ベルの音をききつけると、透明人間(とうめいにんげん)はケンプ博士(はくし)から二、三歩とびさって、

「あれは、なんだ?」

と、するどく言いはなった。

「なにも聞こえないが……」

「いや、二階へあがってくる足音だ」

「気のせいだよ」

 警官(けいかん)がきたことを、あいてにさとられまいとして、ケンプ博士(はくし)は、おだやかに言った。

「ちょっと見てくる」

 博士がとめようとしたが、透明人間(とうめいにんげん)はドアに近づいていった。

 すると、博士がドアを背にして、その前に立ちふさがった。

「なんだ、きみは! じゃまをするのか」

 入口に近づけまいとする博士(はくし)から、ぱっと()びのいて、透明人間は()がまえた。

「おれをだましたな!」

 その声は、(いか)りにふるえていた。

警官(けいかん)をよびやがって、よくも裏切(うらぎ)ったな……裏切り者め!」

 透明人間(とうめいにんげん)はガウンの前をひらくと、すばやく、下に着ているものを()ぎはじめた。

 この男を、この部屋(へや)から外に出してはならない。博士はドアを(うし)()に開いて廊下(ろうか)にとびだし、バタンと()めた。カギがない。透明人間が内側(うちがわ)から開けようとして、博士がにぎる把手(とって)をひねった。その力は、ものすごく強かった。博士はドアを開けさせまいとして、奮闘(ふんとう)した。ドアのすき()からガウンの(うで)がのびた。博士はのどを()めつけられ、把手をはなした。博士はガウンの怪物(かいぶつ)に突きとばされた。

 博士(はくし)からの手紙で、いそいで()けつけた、バードックの警察署長(けいさつしょちょう)アダイ警部(けいぶ)は、玄関(げんかん)からホールを通って階段(かいだん)をのぼりかけたところで、目に見えない怪物と戦っている博士を見て、立ちすくんでしまった。

「なんだ?」

 怪物(かいぶつ)と戦う博士(はくし)は、倒されたり起きあがったりしながら、二階の廊下(ろうか)から階段(かいだん)のおどり場へのがれてきた。怪物のガウンが宙を飛んできて、博士におそいかかって倒した。目の前のできごとに、びっくりしている署長(しょちょう)を、ガウンの()けものがなぐり倒した。

 起きあがろうとする署長(しょちょう)を、怪物(かいぶつ)階段(かいだん)から下にけり落として、動けなくしてしまった。階下(かいか)には応援(おうえん)警官(けいかん)が二人いた。二人はあわてて、(ちゅう)を飛ぶガウンを追いまわした。追いまわすうち、ガウンは一階のホールの天井(てんじょう)へパッと()いあがったかと思うと、落ちてきて、そのまま、へなへなっと動かなくなった。

 玄関(げんかん)のドアが、人影(ひとかげ)もないのに開いて、バタンと()まった。

 署長(しょちょう)は起きあがったが、顔をしかめて、また、へなへなとすわった。そこへ、透明人間(とうめいにんげん)との格闘(かくとう)(きず)だからけの顔となった博士(はくし)が、ふらふらになって階段(かいだん)を降りてきて、くやしそうに言った。

「しくじった。にげてしまった」

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