14話 帰ってきた博士
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死刑囚の死体紛失事件があってから、二カ月ばかりたった後のことである。
三角岳附近は、急に秋もふかくなった。附近の山々は、早くも衣がえにうつり、今までの緑一色の着物を、明かるい黄ばんだ色や目のさめるような赤い色でいろどった美しい模様のものに変えはじめた。
そのころのある日。
とつぜん谷博士が、この研究所へ戻って来た。
もちろんこの三角岳の研究所は、すぐる日の大爆発でなかば崩壊し、それにつづいて怪しい機械人間のさわぎでもって、この研究所はいよいよ気味のわるい危険なものあつかいされ、村人たちもだれ一人ここには近づかず、雨風にさらされ、荒れるにまかされていたのであった。
ただ、この方面の登山者たちの目に、谷研究所の半崩壊の塔が、怪しくうつらないではすまなかった。
「あのすごい塔は、どうしたんだね」
「へえ、あれは谷博士さまの研究所でございましたがね。なんでも雷さまを塔の上へ呼ぶちゅう無茶な実験をなさっているうちに、ほんとに雷さまががらがらぴしゃんと落ちて、天にとどくような火柱が立ちましたでな、それをまあ、ようやく消しとめて、あれだけ塔の形が残ったでがす。博士さまの方は、目が見えなくなって、それから後はどうなったことやら。おっ死んでしまったといううわさもあるが、いやはやとんでもねえことで、そもそも雷さまなんかにかかりあうのが、まちがいのもとでがす」
山の案内人は、こんなふうに説明するのであった。
「それはすごい話だ。時間があれば、ちょっとよって見物したいが、あいにく行く余裕がない。せめてあのすごい塔を、カメラへおさめていこう」
と、写真機を塔へ向ける。
「よし、君が写真をとるあいだ、ぼくは、双眼鏡でちょっくら見物しよう」
一人は八倍の双眼鏡を目にあてて、塔に焦点をあわせる。
「ほほう、双眼鏡で見ると、いよいよすごい塔だ。……おや、あの塔にだれかいるね。人間がひとり、塔の中を歩いているよ」
双眼鏡の男が、そういう。すると案内人がぴくんと肩をふるわせた。
「だんな、ほんとうですかい。ほんとに人間があの塔の中にいますか」
「いるとも。ちゃんと見える」
「はて、何者かしらん。このあたりの衆はだれひとり近づかないはず。だんな、その人はどんな姿をしていますか」
「ちゃんと服を着ているよ。頭のところに白い布で鉢巻きをしている。鉢巻きではなくて繃帯かもしれんが……。ちょいと君、これで見てごらん」
そこで案内人は、双眼鏡を貸してもらって目にあてた。ようやく視野に、その疑問の人物がはいって来た。
「やあ、あれは谷博士さまだ。博士さまは、ご無事だったのけえ」
「幽霊かもしれんよ」
「待った、だんな。このお山の中で幽霊なんていっちゃならねえ。お山が、けがれますからね」
「でも、君が塔の中の人を見て、あまりふしぎがっているからさ」
「いや、博士さまにまちがいはねえ。これは土産ばなしができたわ」
たしかにその人物は、ほんとに生きている人間であって、幽霊ではなかった。
谷博士さまが研究所の中を歩いていなさった――というニュースは、たちまちそのあたりの村々へ伝わった。
「博士さまは、これからどうするつもりかの」
「金になるものは売って金にかえ、三角岳から引きあげるのじゃなかろうか。あんなにこわれては、直しようもないからねえ」
「もう、それに、こんどというこんどは、雷さまの天罰にこりなさったろう」
村人たちがそんなうわさをしているとき、谷博士が村へひょっくり姿をあらわしたので、みんなびっくり仰天。
「みなさん、しばらくごぶさたをしました。あのときはたいへん心配をかけて、すまんことじゃった。こんどは一つみなさんにお礼をしたいと思って、研究所へ帰って来ましたから、どうぞよろしく」
博士は繃帯を巻いている頭をさげた。
「まあまあ、博士さま、なにをおっしゃいます。そんなごていねいな挨拶じゃ、みんなおそれいります。あのときは大してお役にもたてず、すみませんでした」
「いや、それどころじゃない。えらいことみなさんにごめいわくをかけました。ところでこんどわしは雷を使う研究はぷっつりやめて、あの研究所からべんりな機械を製造しますわい。そこで職工さんを二十名と雑役さんを十名雇いたいのじゃ。給料は思いきって出しますから、希望の人は、どんどんわしのところへ申しでてくだされ。その製造事業がさかんになると、しぜんこのへんの村々へも大きな金が流れこむことになりますわい。ぜひとも力を貸してくだされや」
博士は、そういって、みんなに協力を頼んだ。