超人間X号

27話 妖怪博士

1,552字 約3分 2001年12月29日 公開

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 ところが、谷博士は何も悪者のために、こんな恐ろしい目にあわされているのではなかったのである。

 広い実験室には、博士のほかに、人一人見えはしなかった。ただ一人の機械人間(ロボット)が、機械の前に立っていただけであった。

 しかし、ふつうの人間ならば、百万ボルトの高圧電流を頭にあびては、一分、いや一秒でも、生きていられるはずはないのに、博士は平気で、にたにたと悪魔のような笑いを浮かべているではないか。

 しかも博士は、高い天井(てんじょう)から(つる)したロープの端の輪に両足をかけ、機械体操の要領(ようりょう)で、さかさにぶらさがっているのである。

 そのような恐ろしい放電は、六分ぐらいつづいた。

「もうよかろう、電気をとめてくれ」

 博士はひくい声でうめいた。

「先生、もうよろしいですか」

 機械人間は、念をおして、機械のスイッチを切った。

 実験室の中は一瞬、深い暗闇(くらやみ)に包まれたが、これはどうしたことだろう。博士の全身は夜光虫(やこうちゅう)のように、ボーッと青白い光りを放ち、髪の毛は針ねずみのように逆立(さかだ)って、その一本一本からは、ぱちぱちと音を立てて、ものすごい火花が飛んでいるではないか。

「一……二……三……」

 博士は、ひらりと宙を飛んで、空中でとんぼがえりをすると、床の上にまっすぐ降り立った。

「ああ、これでやっとせいせいした。たまには電気をかけないと、どうも疲れてやりきれないよ」

 まるで、あんまかマッサージでも、してもらったというように、博士はにやにやと笑って、腕に力こぶを作り、二三度深呼吸をしていたのであった。

「おい、あの五人の少年は、もう寝たかね」

 博士はタオルで、からだの汗をぬぐいながら、機械人間にたずねた。

「はい、もう部屋にかえって寝たと思いますが、見てまいりましょうか」

「きょうはおそいから、もういいよ。しかしあの五人の行動にはちょっとにおちないところもある。あすからあの部屋に、電臓(でんぞう)をしかけて、その行動をいちいち報告させるようにしてくれ」

「はい。かしこまりました。何にしかけましょうか」

「テーブルか、壁か、そうだ。壁がよかろう。むかしから壁に耳あり、というからな。はっはっは」

 博士は、自分のしゃれが、愉快でたまらないというように、両手をひろげて、大声で笑った。

「おい、着物をくれ」

「はい……」

 機械人間は、そばのテーブルの上においてあった博士の着物をとって渡した。じつにべんりな機械である。人間ならば、こんな真暗闇(まっくらやみ)の中では、何も目に見えないし、一歩も歩けはしないのに、この機械人間は、ちゃんと迷いもせずに、歩いたり、品物を見つけたりするのである。

「サルはどうしている。食物はよく食べているかね」

「はい。どうしておれを、こんな(おり)の中へ入れるんだ、などといって、大あばれにあばれておりますが、大丈夫ですよ。くたびれて寝てしまったようです」

 このふしぎな場所では、機械人間ばかりか、ふつうの動物や植物、いや生命を持たない道具までが、動いたり、話したりするのであったから、サルが話をするというのも、けっしてふしぎはないのであるが……。

「では、あすの準備はよろしくたのむ」

「承知しました」

「それでは寝てよろしい」

「お休みなさい」

 機械人間はピョコリと腰をかがめて一礼すると、扉を開けて、廊下へ出て行った。

「さあ、寝る前に、いっぺん、サルにあいさつをしておこうか」

 博士は、ぶきみな笑いを、唇のあたりに浮かべると、実験室の壁の前に立って片手を高くあげ、大声で叫んだ。

「ひらけ、ゴマ!」

 これはどうしたことだろう、何もなかった白壁(しらかべ)には、ポカリと畳一畳ぐらいの大きな穴があいたではないか。博士のからだは、音もなくその穴の中へと、吸いこまれて行った。

「とじよ。ゴマ!」

 中から聞こえる声とともに、壁の穴は、また音もなく、もとのようにとじてしまったのであった。

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