31話 谷博士のものがたり
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「あなたは、ほんとうに谷先生なんですか。それでは、いまここから出ていった、谷博士はいったい何者でしょう」
戸山少年は、うんとおなかに力をいれて、十分念をおしたのである。
「わからないかね。君たちは、あれがX号の化けていることに気がつかなかったのかい」
サルは檻の中で、じだんだふんでくやしがっている。
「でも、先生は、目をわるくして、ぼくたちの顔をごらんになったことがなかったでしょう。それによく、ぼくたちだということが分かりましたね」
何しろ、いままで何度もだまされているので、戸山君もなかなかゆだんをしないのである。
「それはね、目は見えなくても、君たちの声はちゃんとおぼえていたし、それにX号が、君たちがこの研究所に来ていることを話してあったから、君たちがこの部屋へはいって来たときには、ちゃんとけんとうがついたんだよ」
サルは怒ったようだった。
「よく分かりました。だけど、この檻はどうしてあけたらいいのです」
「となりの部屋に、鍵がおいてあるはずだから、それをさがして来てくれたまえ」
戸山少年は、あわてて部屋をとびだして、となりの部屋をさがしたが、あいにくそこには鍵はなかった。ただそこにも大きな檻があって、中には谷博士と同じ種類のサルがぐうぐうと大きいいびきをかいて、眠っていたのである。
「先生、鍵はどうしても見つかりませんでしたよ」
戸山君は、さっきの部屋へかえって、サル――いや本物の谷博士に報告した。
「そんなはずはないんだが――さてはX号が持っていったかな」
サルはばりばりと歯ぎしりをした。
「ところで先生、先生はどうしてこんな所にとじこめられたのです」
「それがね、ぼくもゆだんしていたんだ。X号がぼくを病院からさらって逃げたことは、君たちもよく知っているだろう。ところが君たちが、ぼくに化けたX号をにせ者だと見やぶって、この研究所を襲撃したので、X号は火辻軍平のからだにはいっていては危険だと思ったんだね。それでぼくを殺して、ぼくのからだの中へはいりこみ、君たちの目をごまかしたんだ。そしてぼくの脳髄だけを、このサルのからだに移して、あとでまた、役に立てようとしたんだよ」
「すると、となりの部屋にいたサルは……」
「あのサルも、ぼくのからだと同じ、人工のサルだよ。ただむこうは、サルの脳髄しか持っていないし、こちらは人間の脳髄を持っているだけのちがいだよ」
「それでX号は、これからどんなことをやりだそうというのです」
「あいつは恐ろしいやつなんだ。智恵の力はふつうの人間とは、くらべものにならないくらいすぐれているが、感情だの、道徳だのというものは少しも持ってはいないんだ。あまり自分の力がすぐれているんで、あいつはこのごろでは、少し増長して来たらしく、地球上の人類を全部殺してしまって、自分らがそのかわりにとってかわろうとしているんだ」
「そんな恐ろしいことが、ほんとうにできるんですか」
少年たちは、恐ろしさにがたがたとふるえていた。
「できる。X号にならできるとも。君たちは、この地下室をなんだと思うかね」
「さあ、ぼくたちには、よく分かりません」
「X号の秘密工場だよ。あいつは、いつのまにか、機械人間の力をかりて、この三角岳の地下に、十六階の地下工場をつくりあげた。ここはその一番下の階なんだが、この上の十五階の一つ一つでは、ものすごい物ばっかりがいま作られている。
ぜったいに防ぎようのない、伝染病のばいきんだとか、なんの臭いもしない猛烈な毒ガスだとか、いまの人間の力ではまだ完成されていない、すごい威力を持った原子爆弾だとか。さいわい、この工場は、一週間ほどまえにできあがったばかりで、まだそんなものの大量生産にはうつってはいないが、もし一月もほうっておけば、その時は地球上の全人類が滅亡する時だよ」
なんと恐ろしいものがたりだったろう。少年たちのからだは、木の葉のように震えていた。どうしても、これはこのままにしておくことはできない。どんな方法をとっても、このX号の野心は粉砕しなければならないが、さてその方法は――
五人は、またしてもはっ、とかたずをのんだ。うしろの扉が音もなくひらいて、一人の機械人間がはいって来たのだった。