5話 五
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明治廿三年の二月、父と共に信州軽井沢に宿る。昨日から降積む雪で外へは出られぬ。日の暮れる頃に猟夫が来て、鹿の肉を買つて呉れと云ふ。退屈の折柄、彼を炉辺に呼び入れて、種々の話をする。
木曾路の山へ分け入ると、折々に不思議を見る。猟夫仲間では之をえてものと云ふ。現に此の猟夫も七八年前二三人の同業者と連れ立つて、木曾の山奥へ猟に行つた。斯る深山へ登る時には、四五日分の米の他に鍋釜をも携へて行くのが慣例。
登山してから三日目の夕刻、一同は唯ある大樹の下に屯して夕飯を焚く。で、もう好い頃と一人が釜の蓋を明けると、濛々と※と出た。あツと驚いて再び蓋をすると、其中で物馴れた一人が「えてものだ、鉄砲を撃て。」と云ふ。一同直に鉄砲を把つて、何処を的とも無しに二三発。それから更に釜の蓋を明けると今度は何の不思議もない。
えてものの正体は何だか知らぬが、処々に斯ういふ悪戯をすると、猟夫の話。