15話 柳に銀の舞扇 十五
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清葉は格子へ音訪れ兼ねた。
自分と露地口まで連立って、一息前へ駆戻ったお千世を捉えて、面前喚くのは、風説に聞いたと違いない、茶の缶を敲く叔母であろう。
悪戯児の悪関係から、火の番の立話、小紅屋へ寄ったまで、ちょっと時間が取れている。昼間近所へ振売だ、と云う。そんなお尻は鳶の突くが落だ、と云う。お茶と水とは附いて廻る、駿河台に水車が架ったか、と云う。
お千世さんは私が一所にここへ来たことを云ったのだろうか。……言って、そして聞えよがしに、悪体を吐くとすると、私に喧嘩を売るのかしら。何の怨みも無いものが、煩う人の見舞に来たのに、いかに分らずやの叔母だと云って、まさかそうした事ではあるまい。露地から急いで、……あのお千世さんが心づかい、台所から長火鉢、二階を股に掛けて、眼張っている、ものがもの。姉さんは姉さんゆえ、客に粗末の無いように、と先触れに駆込んだ処を、頭から喚き立てて、あの妓が呼吸を吐いて、口を利く間も措かず、立続けて饒舌るらしい。
それにしても、汚い口から出過ぎた悪体。お千世も同じ、芸者はお互い。筆がしらでも中軸でも一味についた連名の、昼鳶がお尻を突く、駿河台の水車、水からくりの姉さんが、ここにも一人と、飛込もうか。
それには用意がなければならず、覚悟もしないじゃ出来まいが、自分へ面当なら破れかぶれ。お千世へだけの事だったら、陰で綻を縫うまで、と内気な女が思直す。……
またその時、異う悪黙りに黙ってしまって、ふと手の着けられぬまで、格子の中が寂寞して、薄気味の悪いほど静まった。
これぞ、お千世の客が来て、門に近いのを、やっと囁き得た事を頷かせる。
「ええ。」
咳を優しくして、清葉が出窓際の柳の葉の下を、格子へ抜けようとする、とあたかもその時。
はらりと音して、寝ながら投げた扇が逸れたか、欄干を颯と掠めて、蒔絵の波がしら立つごとく、浅翠の葉に掛って、月かと思う影が揺ぐと、清葉の雪のような頬を照らす。……と思わず、受けたは袱紗の手。我知らず色傘を地に落して、その袖をはっと掛けて、斜めに丁と胸に当てた。
清葉は前刻から見詰めた扇子で、お孝の魂が二階から抜けて落ちたように、気を取られて、驚いて、抱取る思いがしたのである。
潜って流れた扇子の余波か、風も無いのにさらさらと靡く、青柳の糸の縺れに誘われた風情して、二階にすらりと女の姿。
お孝は寝床を出た扱帯。寛い衣紋を辷るよう、一枚小袖の黒繻子の、黒いに目立つ襟白粉、薄いが顔にも化粧した……何の心ゆかしやら――よう似合うのに、朋輩が見たくても、松の内でないと見られなかった――潰島田の艶は失せぬが、鬢のほつれは是非も無い。
生際曇る、柳の葉越、色は抜けるほど白いのが、浅黄に銀の刺繍で、これが伊達の、渦巻と見せた白い蛇の半襟で、幽に宿す影が蒼い。