26話 怪老人
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お話は、すこし前にもどって、二十面相が警官の制服を着こみ、地下道の入口に番をしていたふたりの巡査を、うまくごまかして、裏の原っぱを、町のほうへいそいでいるときです。その原っぱに、ふしぎなことが起こりました。
原っぱには、人間の腰までかくれるほど、草がいっぱいはえているのですが、その草むらが、風もないのに、ざわざわと、動きはじめたのです。それも一ヵ所ではありません。あちらでもこちらでも、動いているのです。
草むらに、なにか動物がかくれていて、いちどに動きだしたのでしょうか。大きなヘビが草をわけて、はっているような、気みのわるい、動きかたです。
その動物は、警官に化けた二十面相のあとを追って、進んでいくようにみえます。あちこちの草の動きが、そのほうへそのほうへと、うつりかわっていくのです。
「ねえ、きみ、あのおまわりさん、あやしいよ。キョロキョロあたりを見まわして、逃げていくじゃないか。あとをつけてみよう。」
「うん、あいつ、ひょっとしたら、骸骨男の二十面相かもしれないぜ。明智先生は、たとえ警官でも、見のがしてはいけないっていわれたからね。」
そんなささやき声が、動いている草むらの中から、聞こえてきました。
すがたは見えないけれども、ひとりは小林少年、もうひとりは井上一郎君の声でした。
草むらの中を、はうようにして進んでいたのは、けだものではなくて、少年探偵団員だったのです。草むらは、ほうぼうで動いているのですから、その人数は、ふたりや三人ではありません。すくなくとも十人ぐらいの少年たちが、草むらに身をかくして、あやしい人間が出てくるのを、待ちかまえていたのです。
もう、夕がたで、あたりはうす暗くなっていました。その夕やみの中を、あやしい警官は、草をわけて走っていましたが、原っぱの中の小島のように、こんもりと、ひくい木のしげったところへくると、いきなり、そのしげみの中へ、とびこんで、すがたをかくしました。
「いよいよ、へんだな。みんなで、あのまわりを取りかこんで、見はっていることにしよう。」
「じゃ、みんなに連絡してくるよ。」
井上君が、草の中をはっていって、近くにいる団員にそのことをささやきました。すると、その団員が、つぎの団員にささやき、たちまち、小林少年の命令が、みんなにつたわりました。そして少年たちは、草むらに身をかくしたまま、木のしげみを、グルッと取りかこんで、あやしい警官をとり逃がさないように、見はりをつづけるのでした。
しばらくすると、がさがさと木の枝が動いて、しげみの中から、思いもよらぬひとりの老人があらわれました。
ねずみ色の背広に、ねずみ色のとりうち帽子をかぶった、しらがあたまの老人です。背中をまるくして、ステッキにすがって、草むらの中を、とぼとぼと、むこうへ歩いていきます。
「へんだぞ。変装したのかもしれない。しらべてみよう。」
小林少年は、井上君にそうささやいておいて、そっと木のしげみに近づき、かさなりあった枝をわけて、その中へしのびこみました。
よく捜してみても、そこにはもう、だれもいません。やっぱり、あいつは、老人に変装して逃げだしたのです。警官のすがたのままでは、気がついて、追っかけられる心配があるからでしょう。むろんこういうときの用意に、しげみの中へ、老人の服をかくしておいたのにちがいありません。
そんなら、警官の服がここに残っているはずだと、あたりを捜してみますと、木のしげみの奥にそれがまるめて、つっこんであるのを発見しました。
ふろしきづつみのようにして、こわきにかかえていた、ガウンのまるめたのも、いっしょにおいてありました。
小林君は、いそいで、しげみをとび出すと、井上君にささやきました。
「巡査の服が残してあるよ。だから、あの老人が二十面相だ。追跡しよう。……もうひとりいるといいな。」
「それじゃあ、ノロちゃんをつれていこうか。」
「うん、それがいい。そして、あとの団員たちには、明智先生に、このことをつたえるようにいってくれたまえ。」
井上君は、すぐそばの草むらにかくれていた、ノロちゃんの野呂一平君を呼び、そこにいたもうひとりの少年に、みんなに明智先生のところへいくように、連絡をたのみました。
そして、小林、井上、野呂の三少年は、やっぱり草の中に身をかがめて、大いそぎで、あやしい老人のあとをつけるのでした。