サーカスの怪人

4話 消えうせた怪人

1,478字 約3分 2017年10月13日 公開

読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
組み方

 ハルミさんがかけだしますと、骸骨紳士が、バスの中からヌーッとあらわれて、踏みだんをおり、ハルミさんのあとを追って、大またに歩いてくるのです。

 ハルミさんは、うしろを見ないで走っているので、すこしも気がつきません。

 骸骨紳士の足は、だんだん早くなり、しまいには、宙に浮くように足音をたてないで走りだしました。そして、ハルミさんのすぐうしろまで追いついて、いまにも、長い手をのばして、ハルミさんの肩をつかみそうになったではありませんか。

 もしハルミさんが、うしろをふりむいたら、あまりの恐ろしさに、気をうしなってしまったかもしれません。それほど、骸骨紳士は、ハルミさんにくっつくようにして走っているのです。でも、なぜか、ハルミさんを、とらえようとはしません。ただ、くっついているばかりです。

 さいわい、ハルミさんは、一どもうしろを見ないで、大テントの裏にたどりつき、そのまま中へかけこみました。

「助けてえ……、がいこつが……がいこつが……。」

 大テントの裏口をはいると、幕でしきった通路になっていて、いろいろな曲芸の道具がならべてあります。そこに立っていた道具がかりの木村(きむら)という男が、ハルミさんを、だきとめるようにして、

「アッ、びっくりするじゃありませんか。いったいどうしたっていうんです。」

と叫びました。

「あら、木村さん、バスの中に、あの骸骨がいたのよ。追っかけてきやしない? ちょっと、そとをのぞいてみて。」

「エッ? あいつがバスの中にかくれていたんですって。」

 木村は、そういって、ハルミさんのはいってきた裏口から、そっと顔を出して、そとを見ていましたが、

「なんにも、いやしませんよ。あんた、気のせいじゃないのですか? こわいこわいと思っているもんだから……。」

「いいえ、たしかにいたのよ。バスの中の鏡の前で、じっと、じぶんの顔を見ていたのよ。それがあの骸骨だったのよ。」

 ハルミさんは、いいはります。

 すると、通路の横にある団長室の幕があいて、サーカス団長の笠原太郎(かさはらたろう)が出てきました。

「なんだ。そうぞうしい。なにをさわいでいるんだ。」

 笠原団長は四十歳ぐらいの、がっしりしたからだの男でした。むらさき色のビロードに、ピカピカ光る金のぬいとりをした、だぶだぶのガウンをきて、頭には、同じ色のビロードに赤いふさのついた、トルコ帽をかぶっています。

「アッ、団長さん、三号のバスに、さっきの骸骨がかくれているんです。それで、あたし、むちゅうで逃げてきたんです。」

「なにッ、骸骨が? よしッ、みんなを集めろッ。そして、三号バスをとりかこんで、あいつを、ひっとらえるんだッ!」

 団長が大きな声で命令しました。すると、道具がかりが、かけ出していって、サーカス団員の男たちを呼び集めてきました。そして、十何人の男たちが、三号バスをとりかこみ、入口からのぞいてみますと、バスの中にはだれもおりません。逃げだしたのだろうと、そのあたりを、くまなく捜索しましたが、なにも発見することができませんでした。

 骸骨男は、いったい、どこへかくれてしまったのでしょう? ハルミさんを、大テントの裏口まで追っかけてきたのですから、バスの中にいないのは、あたりまえですが、大テントのそとの広場をすみからすみまでしらべても、どこにも見あたらないというのは、どうしたわけでしょう。テントの中へしのびこめば、まだ開演中ですから、サーカス団員や見物たちの目につかないはずはありません。

 またしても、怪物は、煙のように消えうせたのです。骸骨男は、なにかふしぎな魔法をこころえてでもいるのでしょうか。

目次に戻る

目次