妖人ゴング

15話 少年人形

3,040字 約6分 2017年12月15日 公開

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「あそこまで、いってみようか。」

 チンピラのひとりが、そっと野上君に、ささやきます。

「もうすこし、待つんだ。ひょっとして、みつかったら、たいへんだからね。」

 野上少年は、チンピラの肩をおさえ、とめました。あたりは、だんだん暗くなってきます。夕方と夜とのさかいめです。もう二十分もすれば、すっかり日がくれてしまうでしょう。

 じっとがまんをして、十分ほども待っていました。

 すると、ふたりの悪者が、さっきの建物の角から姿をあらわし、なにか小声で話しながら、こちらへやってくるのです。

「おい、みんな、どっかへ、かくれるんだ。そして、あのふたりが、自動車に乗って行ってしまうまで、待つんだ。」

 野上君が、小さい声で、チンピラたちに命令しました。

 すると、いけがきからのぞいていたチンピラたちは、パッと、地面にうずくまり、はうようにして、むこうの木のしげみの中へ、姿をかくしてしまいました。なんというすばやさでしょう! チンピラたちは、こんなことには、なれきっているのです。

 野上少年も、そのあとにつづいて、木のしげみに、もぐりこみました。そして、()の葉のすきまから、じっと、のぞいていますと、ふたりの悪者は、いけがきのやぶれめから、外に、出てきました。

 ふたりのほかに、俊一少年の姿は、どこにも見えません。いったい、どうしたのでしょう? 手足をしばられ、さるぐつわをはめられた俊一君は、撮影所の建物のどこかに、とじこめられてしまったのでしょうか。

 野上少年は、いっこくもはやく、俊一君を助けださなければならないと思いました。悪者のあとを追うよりも、俊一君の命のほうがたいせつです。

 やがて、悪者たちは、そこにおいてあった自動車に乗って、どこともしれず、たちさってしまいました。少年たちの自動車は、ずっと遠くのほうに待っていたので、悪者は、それと気がつかないで、すれちがって行ったのです。

 もうだいじょうぶと思ったとき、野上君は、五人のチンピラに合図をして、みんなが、木のしげみからはいだしました。

「これから、撮影所の中を探すんだ。俊一君は、きっと、どこかにとじこめられている。ほうっておいたら、死んでしまうかもしれない。いっしょうけんめいに探すんだよ。」

 野上君がいいますと、チンピラたちは、コックリ、コックリと、うなずいてみせて、すぐに、いけがきのやぶれめから、中にとびこんでいくのでした。

 建物の角をまがると、そこに広いあき地があって、撮影につかう大道具や小道具が、あちこちにおいてあります。はりこの鳥居(とりい)だとか、石灯籠(いしどうろう)だとか、石膏(せっこう)でつくった銅像のようなもの、そのほか、いろいろのものが、雨ざらしになって、おいてあるのです。

 そのなかに、白い石膏のライオンがうずくまっていました。日本橋の三越(みつこし)の玄関においてある、青銅のライオンと、よくにた形です。あれほど大きくありませんが、ほんもののライオンよりは、すこし大きいくらいです。それが、やはり、石膏の四角な台の上にうずくまっているのです。全身まっ白のライオンです。チンピラのひとりは、ライオンのそばによって、その足をなでながら、

「こんなの一ぴきほしいなあ!」

と、つぶやきました。すると、みんなが、そのそばによって、ライオンの恐ろしい顔を見あげるのでした。

 それから少年たちは、撮影所の中の建物から、建物へと、まわり歩きましたが、どの建物も、みんなかぎがかかっていて、はいれません。

 ただ一つ、大きなスタジオだけは、夜になっても、まだ撮影をつづけていて、入口がすこしひらいていたので、野上君は、その中へはいっていきました。

「おい、おい、きみはどこの子だい? むやみにはいってきちゃいけないよ。」

 入口のうす暗いすみっこに、番人がこしかけていて、野上君をひきとめました。

「悪者が、この撮影所の中に、ぼくの友だちをかくしたのです。花崎俊一というのです。手足をしばって、さるぐつわをはめて、自動車でここへつれてきて、裏のいけがきのやぶれめから、しのびこんだのです。」

「ほんとかい? きみ。そんなことをいってごまかして、撮影を見にはいるんじゃないのかい?」

「そうじゃありません。ほんとうです。ふたりのおとなが、ぼくぐらいの子どもをつれて、この中へはいりませんでしたか?」

「そんなもの、はいらないよ。きょうは、子どもは、ひとりもはいらなかった。どっか、ほかを探してごらん。」

 番人は、野上君のいうことを信じないらしく、いっこう、とりあってくれません。

 野上君はしかたがないので、ほかを探すことにしました。入口のあいているのは、あとは事務所の建物ばかりです。そこへ、はいってみましたが、もう夜なので、だれもおりません。宿直の人がのこっているにちがいないと、ほうぼう探しても、ふしぎに人の姿が見えないのです。

 でも、まさか、悪者が俊一君を、事務所の中へつれこんだはずはないので、また、外へ出て、裏のほうへ歩いていきますと、むこうのうす暗いなかから、なんだか小さなやつが、ピョン、ピョンと、とぶように走ってくるではありませんか。近づくのを見ると、それはチンピラ隊のひとりでした。

「あっ、野上さん、きてごらん。むこうに、へんなものがあるよ。」

「へんなものって?」

「いろんなものが、ごちゃごちゃおいてある。ひょっとしたら、俊一さんは、あそこに、いれられたのかもしれないよ。」

「よしっ、いってみよう。」

「野上さん、懐中電灯、持ってるの?」

「うん、ちゃんと、ここに持ってるよ。探偵七つ道具の一つだからね。」

 野上少年は、そういって、ポケットをたたいてみせました。

 チンピラに案内されて行ってみますと、それは撮影に使う小道具が、いっぱいならべてある道具部屋でした。どうしたわけか、そこの戸には、かぎがかかっていなかったのです。

 ふたりは、懐中電灯をつけて、中にはいりました。

 長っぽそい部屋の両がわに、ずっと棚があって、いろいろなものが、ならんでいます。むかしの行灯(あんどん)だとか、煙草盆(たばこぼん)だとか、いろいろな形の掛け時計、置き時計、むかしのやぐら時計、花びんや置きもの、本棚もあれば、洋酒のびんをならべる飾り棚もあります。それから三面鏡や、むかしのまるい鏡と、鏡台、まるで古道具屋の店のようです。

「あっ、あすこにいる!」

 チンピラが、とんきょうな声をたてて、野上君に、しがみついてきました。

 ギョッとして、そのほうへ、懐中電灯をむけますと、そこに、俊一君らしい小学生服の子どもが、壁によりかかっているではありませんか。

 野上君は、「あっ。」といって、かけよりました。

 近よって、懐中電灯で、その子どもの顔を照らしました。ちがいます。俊一君ではありません。それじゃ、いったい、どこの子なのでしょう。いや、どこの子でもありません。それは人間ではなかったのです。学生服をきた人形にすぎなかったのです。

 よく見ると、少年人形のそばに、おとなの男や女の人形が、三つも四つも壁にもたせかけてありました。みんな撮影に使う人形なのです。

「なあんだ。人形かあ。おれ、てっきり俊一さんだと思っちゃったよ。」

 チンピラが、がっかりしたように、つぶやきました。

 そのときです。道具部屋の入口から、もうひとりのチンピラが、かけこんできました。

「野上さん、こんなとこにいたのか。ずいぶん探したよ。……みつかったよ。みつかったよ。俊一さんのかくれているとこがさ。」

 そのチンピラは、息せききっていうのでした。

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