妖人ゴング

7話 黒い怪物

1,749字 約3分 2017年12月15日 公開

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 その夕方のことです。マユミさんは、おとうさんの花崎検事のおうちに、用事があって出かけた帰り道、電車をおりて、千代田(ちよだ)区のさびしい町を、麹町アパートのほうへ、歩いていきました。

 明るいうちに帰るつもりだったのが、ついおそくなって、もう、あたりは、うす暗くなっています。

 かたがわは長いコンクリートべい。かたがわは、草のはえた広い空地(あきち)です。明智探偵は、さっきの怪物の電話のことを、マユミさんには話さないでおきましたから、そのことは知らないのですが、このあいだの銀座の事件や、弟の俊一君が見た池の中の怪物のこともありますので、いくらしっかりもののマユミさんでも、こんなさびしい町を通るのは、やっぱり、うす気味がわるいのです。自動車に乗ればよかったと後悔しながら、いそぎ足に歩いていました。

 ふと気がつくと、むこうの電柱のかげに、黒い大きなふろしき包みのようなものが、おいてあります。

「どこかの店員が、おきわすれていったのかしら?」

と思いましたが、ふろしき包みにしては、なんだか、へんなかっこうです。まるで、まっ黒なでこぼこの、大きな岩のように見えるのです。

 マユミさんは、ふと恐ろしくなって、立ちどまりました。そして、じっとにらんでいますと、むこうの黒いものも、こちらを、にらんでいるような気がします。目はないけれども、なんだかにらんでいるような感じなのです。

 マユミさんは、ギョッとしました。黒いものが、かすかに動いたように思ったからです。

「やっぱりそうだわ。あれは、怪物がばけてるんだわ。」

 そう思うと、にわかに、胸がどきどきしてきました。そして、もと来たほうへ、ひきかえそうとしましたが、うしろをむけば、黒いやつが、いきなり、とびかかってきそうで、逃げることもできません。

 マユミさんは、ヘビにみいられたカエルのように、じっと立ちすくんで、その黒いものを見つめているほかはないのでした。

 やっぱりそうです。黒いものは、動いているのです。もぞもぞと動いているのです。

 やがて、黒いものが、ヌーッと上のほうにのびました。そして、ふわ、ふわと、こちらへ近づいてくるではありませんか。

 マユミさんは、からだが、しびれたようになって、声をたてることも、どうすることも、できません。

 それは人間の形をしていました。人間が黒い大きなきれを、頭からかぶって、電柱のかげにうずくまっていたのです。

 そいつは、まっ黒な幽霊のように、ふわふわと、こちらへやってきます。そして、三メートルほどに近づいたとき、かぶっていた黒いきれを、パッとひらいて、顔を見せました。

 ああ、その顔! マユミさんは、まだ見ていなかったけれど、渋谷の空にあらわれた巨大な顔、俊一君が見た池の中の巨人、あれとそっくりの恐ろしい顔が、そこにあったのです。

 夕やみの中で、はっきりは見えませんが、顔ぜんたいが、ぼんやりと白っぽくて、大きな目が、ぎょろりと、こちらをにらんでいます。

 そいつが、グワッと、口をひらきました。耳までさけた大きな口、白い二本の牙が、ニューッととびだしています。

「マユミ、おまえの運命を聞かせてやろう。今月の十五日、おまえは、この世から消えてしまうのだ。ある部屋の中から、(けむり)のように消えうせてしまうのだ。わかったか。いくら用心しても、だめだ、明智にたのんでも、だめだ。かわいそうだが、これが、おまえの運命なのだ。よくかくごをしておくがいい。」

 いいおわると、どこからともなく、ウワン、ウワン、ウワン、ウワン、ウワンと、あのいやな音が聞こえてきました。銀座や渋谷のときのような、大きな音ではありません。もっと、ずっと小さな、やっと二十メートル四方に聞こえるぐらいの音でした。

「ウワン、ウワン、ウワン、ウワン……。」

 怪物は黒いきれを、頭からかぶって、サーッと、原っぱの中へ、遠ざかっていきます。それとともに、あの音も、だんだん、かすかになり、ついにまったく、聞こえなくなってしまいました。マユミさんは、しばらくのあいだ、魔法にしばられたように、足を動かすこともできないで、ぶるぶるふるえながら立っていましたが、やっと、魔法がとけたのか、からだが動くようになったので、そのまま、いちもくさんに、明智事務所に向かってかけだしました。

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